第4話 追放の馬車
ルルリは、馬車に乗せられている。
護衛の騎士は二名。馬車の御者以外には侍女のエピナただ一人だけ。
「私たちは、どこに向かっているんだったかしら」
ルルリが改めて確認している。
「私たちが向かっているのは、王族直轄領のうち、手つかずになっているグラトニー領です。あの辺りは風光明媚だったのですが、いつぞやから魔物があふれかえるようになって、放置されてしまっている場所なんです」
「へぇ~……」
エピナが返した内容を聞いて、興味がないように見えて、ルルリはなぜか楽しそうに笑っている。
「お嬢様、なぜそのような顔をしているんですか」
「ちょっと、楽しみだなと思ってね」
「……お嬢様、変わられましたかね」
エピナの表情は困惑をしている。
それというのも、ルルリは気弱でおとなしい性格だったからだ。
ところが、洗礼式後にショックで気を失ってからというもの、性格はまるで真逆になってしまっていた。
「スキルの影響かしらね」
ルルリはそういっていい笑顔を見せていた。
あまりにも堂々とした態度に、エピナはなんとも言い返せなかった。
さて、なぜこのようなことになっているのかというと、洗礼式の結果を受けて、父親のドラゴベルク公爵が騒いだためである。
あまりにも物騒なスキルゆえに、国王に厳しい環境へと置くようにと訴えたためだった。
そこで目をつけたのが、グラトニー領。ここならば魔物があふれかえっており、物騒なスキルなら生き延びるかもしれないという期待を込めてである。面倒な魔物を一掃できる可能性があるし、死んだとしても物騒なスキルがなくなるというわけで、どっちに転んでもヨシという作戦に出たのである。
ただ、この結論を出すために、国王はかなり頭を悩ませた。
それというのも生まれたばかりの王子の婚約者にと、ルルリを考えていたからだ。あくまで候補の一人とはいえ、王国への貢献度の高いドラゴベルク公爵家ならば適格と判断していた。
ところがだ。洗礼式でとんでもスキルを引き当てたせいで、状況は一変してしまう。
ドラゴニル公爵は物騒なスキルを引き当てた一人娘を、気の動転もあったのだろうが、追放するという判断をしてしまった。一度決めたら曲げない男なので、国王は渋々その意見に従ったのである。
そして、現状に至る。
「グラトニー領の手前までは平和なのでこれでもいいのですが、なぜたったの五人なのでしょうかね」
「領内に入った後の被害を最小限にするためでしょうね。私たちが生き残れば万々歳とでも思っているのでしょう。まあ、私は死ぬつもりはありませんけれど」
あまりの人数の少なさに愚痴をこぼすエピナ。この状況をルルリは冷静に分析しているものの、やはり表情は楽しそうである。
とても5歳児とは思えない表情と考えを見せるために、エピナは目の前のルルリに対して、本当に自分の知るルルリなのか疑ってかかっている。
それでも旅は順調に続き、辺りの風景が寂しくなってきたころ、馬車がぴたりと止まる。
「どうかしましたか?」
「盗賊ですね。こんな場所にいるだなんて、どういうことでしょうか」
状況をルルリが確認すると、エピナは冷静に答えている。
普通に考えれば、こんな人の来ないような場所での待ち伏せは行わない。なぜなら非効率だからだ。
それでもここに盗賊が現れた理由。その狙いは間違いなく……。
「なるほど、狙いは私たちか」
「お嬢様、私たちがお守りします」
すぐにターゲットを察するルルリ。エピナは攻撃態勢を取るものの、その横でルルリはどういうわけか馬車を降りていく。
「お嬢様、危険です」
「大丈夫よ。1対多数なんてのは、MMOで散々経験しているもの。それに……」
「それに?」
「私のスキルの餌食になりに来てくれるなんて、ぞくぞくするじゃないの」
馬車を降りながら笑うルルリの表情は、エピナが今までにまったく見たことがない表情だった。そのあまりの恐ろしさに、エピナは表情を凍らせてのまれそうになってしまった。
外へと出たルルリは、騎士たちを驚かせている。
「ルルリ様、危険ですよ」
「なぁに、魔物の巣窟という危険な場所に向かっているんです。ならば、少しでも慣れておいた方がいいじゃないですか」
騎士の心配に対して、とても5歳児とは思えない返しをしている。
姿を現したルルリに対して、盗賊たちも反応を示す。
「おっ、まだちっせぇとはいえ、いいとこのガキじゃねえか」
「兄貴、こいつを売り飛ばせば、結構遊んで暮らせそうですぜ」
「やっちまいましょうよ」
格好を見て、貴族の令嬢だと見抜いた盗賊たちは、とても喜んでいるようだ。
かっさらって他国で奴隷として売り捌けば、相当な金額になると踏んだのだろう。
ところが、目の前のルルリはそんな簡単にとっ捕まるつもりはまったくなさそうだ。
「あははっ! 目の前の餌に釣られたぼんくらたちがさえずっているわ。見た目のせいで実力も見抜けないとは、おめでたい連中だこと」
前世のMMOで鍛えた煽りロールがつい飛び出してしまうルルリである。
当然ながら、盗賊たちを激怒させてしまう。
「てめぇ! ガキのくせになめた口を利いてるんじゃねえぞ!」
「だったら、さっさとかかってきなさいよ。私を捕まえて売り飛ばすんでしょ?」
「ガキが! 野郎ども、泣かせてやれ!」
「へいっ!」
煽られた盗賊たちはルルリへと襲い掛かってくる。
盗賊たちの動きにエピナや騎士たちは慌てているが、当のルルリだけは落ち着いている。
「ドラゴハンマー!」
右手を掲げで叫ぶと、ルルリの手に巨大なハンマーが出現する。ハンマー部分がルルリとほぼ同じ大きさという巨大さだ。
「ハッ! そのバカでっかい槌、ガキに扱えるのか?」
盗賊が煽ってくるものの、ルルリは両手で持っているとはいえ、平然とハンマーを振り回す。
そして、大きく振りかぶる。
「ソイルインパクト!」
そう叫ぶと、地面目がけて、ルルリは思いっきりハンマーを振り下ろした。




