第3話 融けあう存在
「はっ!」
ルルリは目を覚ます。
「お嬢様、目を覚まされましたか!」
それと同時に、傍にいたメイドが声をかけてくる。
「えっと……エピナ?」
「はい、エピナでございます、お嬢様」
目を覚まして、自分の侍女の確認もしたルルリだが、頭の中はかなり混乱している。
それというのも、夢で見た前世の自分というものを思い出したからだ。前世の男性の記憶と、今のルルリのたった5年間の記憶が混濁しており、うまく消化しきれないでいるのである。
とりあえず、夢の中で見た前世の自分のことはひとまずあとで整理するとして、現状を確認しておく必要がある。
ルルリはエピナに、洗礼式の後の話を聞くことにした。
それによれば、倒れてからすでに三日が経過しており、近いうちに自分の処遇について正式な決定が下されることになっているのだという。
【撃神の砲槌】というなんとも物騒なスキルを授かってしまったがゆえに、公爵令嬢という立場をはく奪されてしまった。
だが、混乱する頭の中を整理しながら、ルルリは自分の授かったスキルについてどうにか情報を引き出そうとしている。
(確か……あのMMOではストーリーを進めていって、実装されているボスを倒していくと、神があの時点で実装されている最後のボスとして立ちふさがるんだったかな)
エピナも席を外している間に、ルルリは整理を兼ねて夢に見た情報をまとめていこうとしている。
ルルリは現時点では5歳ということもあって字すらも習っていない状況だ。だというのに、前世の記憶がよみがえったことで、日本語と英語に関してはすらすらと書けるようになってしまっていた。
当人にはそんな意識はまったくないのだが、おそらく今の姿を見られれば大騒ぎになるのは間違いないだろう。
(で、俺はその最後のボスをもキャノンスキルとハンマースキルを駆使して、ソロ討伐してみせたんだっけか。あれはきつかったな……)
そう、キャノンとハンマーのスキルを使って神を倒したことで、前世のルルリは【撃神の砲槌】などという称号を得るに至った。もちろん、ゲームのシステムとしてそんな称号はない。せいぜい【神を倒した者】くらいである。
つまり、プレイヤー間でつけられた二つ名というやつである。まさかそれが、今世のスキルとして顕現するとは思ってもみなかった。
とはいえ、段々と記憶がはっきりしてくるうちに、ルルリは比例するようにわくわくするようになっていっていた。
それは、まだ5歳という小さな体を持つことも原因だ。
(この小さな体で、自分の体よりも大きいキャノンやハンマーを使いこなしたら、すごくかっこいいだろうな)
そう、見た目とのギャップというやつである。
前世で遊んでいたMMOでは、幼女が巨大な武器をぶん回して敵を倒したら気持ちいいだろうなという理由で、キャラメイクで小さな幼女キャラを作ってしまったのだ。
砲撃スキルを覚えるキャノンと、パワフルさをアピールできるハンマー以外にも、ルルリは盾と剣を装備したヘヴィナイトというのも視野に入れていた。タンクロリと言いたかったらしい。
とはいえ、絵面がフルボッコにされる幼女ということで、ちょっとセンシティブかと考えてやめたらしい。
(とりあえず、二つ名がスキルとして顕現したのであるのなら、当時の装備品も出せるかな?)
そう考えたルルリは、自分の手をじっと見つめながら決心する。
「来い、ドラゴキャノン」
そう叫んだ瞬間に、自分の手の中に魔力が集まってくることを感じる。
次の瞬間、自分の背丈よりも大きな、ドラゴンのデザインが施されたキャノンが出現した。
「やった!」
そう喜んだのも束の間だった。
ズンッ!
「お、重っ……」
とんでもない重量感が、ルルリに襲い掛かった。
しっかりと支え切れなかったキャノンは、床に落ちてしまう。その瞬間、床が凹んだ。
「お嬢様、今の音はなんですか!?」
部屋を出て行っていたエピナが戻ってくる。
「きゃーーっ!!」
次の瞬間、エピナが顔を青ざめさせて叫んでいる。
「お嬢様、それはなんですか!?」
疑問に感じて当然というもの。
ルルリが持っている物体は、この世界では見たことのない武器だからだ。
実際、あのMMOでもキャノンは条件を満たさないと解放されない武器だった。
魔法のある世界からすると、大砲はオーバーテクノロジーなのである。エピナがビビるのも当然なのだ。
さすがにこれ以上騒がれるのはよろしくないと考え、ルルリはキャノンをしまう。
キャノンが跡形もなく消えたことによって、エピナはキャノンがルルリのスキルによって表に出てきたものだと理解した。
「お嬢様のスキルって、本当にとんでもないものですね」
「あははは……」
エピナの言葉に対して、笑ってごまかすくらいしかできないルルリである。
「それはそれとしまして、国王陛下がお呼びです。どうやら、お嬢様の処遇が決まったようです」
「国王陛下? ……もしかしてここってお城?」
「そうですよ。お嬢様のスキルはとんでもないものですから、国王陛下にまで話がいって、身柄を預かられるという状況になっていましたから」
なんということだろうか。スキルひとつで国家反逆者扱いである。
しかし、5歳のルルリがどうこう言おうとも、追放という方針は決まってしまったので、これから申し渡される処遇を受け入れるしかない。
はたして、ルルリにはどのような処遇が言い渡されることになるというのだろうか。
前世の記憶のおかげか、ルルリは少しは落ち着いていられるようである。
迎えに来た兵士と侍女であるエピナと一緒に、ルルリは国王の待つ謁見の間へと向かうことになったのだった。




