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私の悪役令嬢の役割の終わり  作者: カネコ


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ep.36 話題

 手帳はシグルドが預かることになった。

 リディアに渡すと手帳に隠された文字を寝る間も惜しんで探すのではないかと思われたからだ。信用がない。

 


 シグルドは自室で手帳をパラパラと見ていた。

 自分が見て何がわかる訳でもない。手帳を閉じた。


 神殿は現状、敵共味方ともわからない存在だった。


 リディアを聖女と民衆に思わせている以上、敵対する覚悟はあるが、神殿からのアクションはない。判断は難しかった。


 シグルドはふと学園での断罪騒動を思い出した。

 リディアが犯したとされた罪。内容を聞く限り、学生同士の思い込みや勘違い、いたずら、濡れ衣、そんなもので説明できるものがほとんどだった。


 それでも結果だけを見るなら、あまりにも都合が良すぎる。

 リディアは学園を追放され、穴を埋めるようにティナが王子の隣に立った。

 まるで誰かがそうなるよう操っていたかのようだった。

 神殿が関わっていたのか。

 王家が関わっていたのか。

 あるいは全く別の誰かなのか。


 今はまだわからない。


 ただ、またリディアを陥れようとする者がいるならば容赦するつもりはなかった。

 



 神様はすごい。

 

 ティナは踊り出したい気分だった。

 神様からいただいた薬を飲み、傷にかけたら、あのひしゃげた足が元に戻ったのだ。

 これこそ神に自分は愛され、選ばれた証だろう。

 

 最近王都に薬局というものができたと聞いた。薬草水というのが大層評判がいいと聞いたが、神様にいただいた薬とは比べるべくもないだろう。

 その薬局はリディア・ローゼンベルクが関わっているとも聞いた。碌でもないのに決まっている。

 評判がいいのも最初だけだろう。

 私が学園に入るまでは皆あの女に騙されていた。私を迫害するような女なのに。

 でも結局は化けの皮が剥がれた。

 薬局だってすぐにボロが出るだろう。


 けどいつまで私の邪魔をするのだろう。学園から消えてほしいと思ったら消えたのに。


 まだあの女は聖女と呼ばれている。

 聖女は私なのに。

 

 偽物、消えてほしい。



 司祭は温室で空の木箱を見ていた。

 

 薬局は最近クロイツ薬局と名を改め、瓶にも盾と薔薇の意匠が組み合わさった印が付くようになったそうだ。その前に手に入れられてよかった。わざわざ移し替えるのも面倒だ。

 聖女ティナの足は完全に治癒した。素晴らしい効果だ。


 ただ、効果がありすぎた。

 戦の火種になりかねない。


 人を治すものが戦火を呼ぶとは皮肉なものだと司祭は思った。


 クロイツの聖女は神ならざる奇跡をもっと作り出せるのだろう。


 奇跡は神だけが行わなければならない。

 

 しかし聖女は神の認めた存在である。

 聖女ならば奇跡を起こしても矛盾はしない。


 神官たちはリディアを聖女と認めるか否か未だに揉めているが、いいではないか。

 神は聖女が二人いるくらいのこと、きっとお赦しくださる。



 王都の貴族社会で最も熱い話題はクロイツ薬局だった。


 開店から日が経った今も行列は途切れない。

 クロイツ薬局が話題に上る茶会も珍しくない。


 今日もまた、とある侯爵夫人の茶会でその名が語られていた。


「奥様、クロイツ薬局の高級薬草水は手に入りまして?」

「二号店が開店したことで手に入りやすくなるかと思いましたが、予約制になってしまいましたでしょう?あと二ヶ月待ちですわ」

「わたくし、先日とうとう入手できまして、使ってみたら肌が赤子のように瑞々しくなりました。夫にはそんなことに使うなんてと叱られましたけど」

「本当にお美しくおなりですわね。羨ましいですわ」


「クロイツ公爵夫人も社交の場に出てくださればよろしいのに」

「本当に。お近づきになりたいわ」

「お忙しいのはわかりますが、妻の勤めは社交にありますものね」

「でも聖女でもあらせられるでしょう?仕方のないことかもしれません」

「薬草水は奇跡の代物とも呼ばれてますわ」

「そういえば……平民の聖女はどうなったのでしょう」

「魔獣狩猟祭の際、傷を負ったとはききましたが」

「治ったそうですわよ。ご本人は神のみわざと仰っているとか」

「そんなもの薬草水でも治りますでしょうに」



 貴族の間だけではなく、平民の間でも、クロイツ薬局は話題の中心だった。

 井戸端会議でも例外ではない。


「お隣の旦那さんが薬草水で腰痛が治ったっていうんだ。あんな列に並ぶのはごめんだったけど、あたしもどうしても欲しくてね、並んださ。そしたらどうだい、長年の目眩が綺麗さっぱりなくなったのさ。旦那にもあげたら頭痛が治ったっていうんだ」

「そんなに効果があるのかい?皆大袈裟に言っているものかと思ってたけどねぇ」

「大袈裟なもんかい。あたしもねぇ腕や関節が痛かったけど歳だから諦めていたのよ。でも息子が薬草水を買ってきてくれてねぇ。飲んだら痛みが消えたんだよ。夢かと思ったよ」


「クロイツ薬局、聖女リディア様、様々だねぇ」


 


 神殿は決断を迫られていた。

 

 訪れる信徒が減っていっていた。

 祈っても奇跡は起こらず治らなかったものが祈らずとも買えば効果のある薬草水に信心が薄れていったのだ。

 奉納金もまた目に見えて減り始めていた。

 信徒の心を取り戻さねば。

 リディアをどうするべきか、排除するべきか、あるいは神殿の庇護下に置くべきなのか。

 保守派と急進派で意見が分かれていた。

 

 どちらにせよ敵にするには「聖女リディア」は民衆の心を掴みすぎていた。


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