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私の悪役令嬢の役割の終わり  作者: カネコ


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ep.30 魔獣狩猟祭

 王家管理の狩猟区での魔獣狩猟祭の日だ。

 

 王都にいる王族、公爵家、侯爵家は、十六歳以上の者を各家から一人以上出場させることが義務付けられている。

 伯爵家、子爵家、男爵家は希望者参加となる。

 

 この魔獣狩猟祭で優勝することは名誉なことであり賞金もあった。

 数や大きさ、危険度などで審査される。魔獣が高得点だが、獣も審査対象ではあった。


 狩猟区の入口付近には、結果発表を待つ家族や従者たちのための待機場所が設けられている。

 リディアはそこでシグルドの出発を見送るためにいた。

 ティナもまたそこにいた。



 参加者には、ユリウス、ディートハルト、ルーファスもいた。かつての婚約者と友人。苦い思い出が蘇りそうになるが、リディアは参加者がユリウスだけではないことに違和感があった。

《聖花のレガリア》ならば、一番好感度の高い一人だけが参加するはずだった。


(これもズレなのかな)


 ユリウスが優勝を約束し、ティナの手の甲に口付けた。

それに続くようにディートハルトとルーファスも、それぞれのやり方でティナに勝利を誓った。


 シグルドがリディアに近づき跪いた。手をそっと持ち上げ唇を寄せた。

 

「姫君に優勝を捧げよう」


 そう言ってグランに跨り狩猟区に入って行った。

 若い令嬢たちが羨望の視線を向けていた。


(旦那様の溺愛モード!!)


 リディアの顔は赤く染まった。

 

(心臓に悪い。あらかじめ言っておいてほしい)


 視線を感じた。ユリウスたち、それとティナの。

 ユリウスたちは苦々しげだった。なぜそんな顔をするのかわからない。

 それよりティナの何の感情も写してないような瞳が怖かった。


 特に近づいて話しかけてくることもなくて安心した。

 それにそちらに気を取られている場合ではない。

 異変がないかチェックしなければ。

 王家の運搬班が早速狩られた魔獣を運んできて記録係が紙に印をつけていく様子が見れた。


(ゲームでは攻略対象者と協力してティナが魔獣を鎮めた)

 

 疑問が湧き上がる。

 

(ということは狩猟区にティナが入ったか、ここに魔獣が現れたかの二択)

 

 ならばティナの動向を見るのが正解?


 そこで記録係が揉めている様子が見えた。

 記録係の周囲には運搬班や見物人も集まり始めていた。

 公爵夫人である自分が近づくのは品格を保つためにも良くない。

 リディアはシグルドの従者に事情を聞いてきてもらうことにした。

 

 間も無く従者が戻ってきた。

 倒された魔獣に二つ傷があり、一つは剣創、もう一つが不明だが致命傷を与えたのはその不明のものだという。魔法ではないかという意見と、魔力の痕跡が見当たらない、これは倒した数に認められないなどと言い合っていたそうだ。


「それはどんな傷だったの?」


 リディアは従者に聞いた。


「それが……大きな岩がぶつかったような、巨大な何かに殴られたような跡がありました」


 岩!?


《聖花のレガリア》に岩や岩石の魔獣なんていない。


 ただの例えだとしても巨大な何かか狩猟区にいる。


(旦那様……!)


 王家の使用人が待機場所にやってきた。


「この度の魔獣狩猟祭は突然ではありますが終了とさせていただきます。皆様におかれましてはお早目にご退席お願いいたします」

 

 待機場所はざわめいた。

 狩猟区にいる家族はどうするのだと声が飛んだ。


「ただいま王立軍が向かっております。狩猟区にいる皆様にも終了を通達しているところでございます」


 何か危険なことが、魔獣狩り以上に危険ななにかが起こったのだとその場にいた者、全員が理解した。


 避難誘導が始まった。

 一人、反対方向に駆け出す者がいた。


(ティナ!)


 リディアも思わず後を追う。


 狩猟区に入ったところで追いつき手首を掴む。


「ティナさん!ユリウス様たちならきっと大丈夫です。だから」


 戻りましょう、そう言おうとしたが口が固まる。

 ティナの、目が。


「私が行かなければユリウス様もディートハルトもルーファスも死にます。どうしていつも私の邪魔をするんですか?リディア・ローゼンベルク」


 リディアの手を払いティナは狩猟区の奥に迷いなく進んで行った。


「奥様!お戻りください」

「閣下なら無事に決まっています」


「ごめんなさい……」


(旦那様、護衛の皆さん)


 約束を破ります。


 まだ辛うじて見えるティナを追ってリディアは走った。


 

「奥様!」


 護衛たちも後を追う。


 だが森の中を迷いなく駆けるティナと、それを必死に追うリディアの姿は木々の向こうへ消えていった。


 リディアもまたティナを完全に見失っていた。


(嘘、さっきまで、手が届きそうなところにいたのに)


 もしかして、あるのかもしれない。ここに。

 迷いの森のような性質が。


(だとしたらもうティナを追いかけるのは不可能だ)


(旦那様……)


(旦那様の側に行きたい……)


 リディアは思い出した。胸にあるネックレスを握りしめる。


『鑑定 採取 シグルドの紫のピアス』



 シグルドは剣を振り上げ斜めに切り裂いた。

 魔獣は断末魔さえ上げれず事切れた。

 シグルドの側には魔獣の死体が散らばっていた。

 運搬係が足りなく、また遅くなっていた。シグルドはさほど優勝にこだわっていなかった。だがリディアに優勝を誓ったからにはある程度の成果を上げておきたかったが……


(妙だな。森の雰囲気が変わった)


 こういう時の勘は馬鹿にしてはならない。

 リディアのことが心配になった。

 待機場に戻ろうとし、歩を進めたが、何かがおかしい。

 気づけばまた魔獣の屍の側に戻っていた。


 今までの迷いの地との関連が予想されたが、何故今、この場所で?

 シグルドに考えている余裕はなかった。

 地響き、そして巨大な影がシグルドを覆った。

 

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