侍女
数日後、ブルーノ・ライナーの孫娘に会った。
まだあどけなさの残る少女だった。
めちゃくちゃキラキラしてる!ふわふわの金髪だから?それだけじゃない。内から滲み出る輝き!可愛い!すっごく可愛い!お人形さんみたい!
「奥様、いかがです?私の自慢の孫のカティアです」
「これは自慢したくもなるでしょう。すっごく可愛いです」
「わっはっは、でしょうでしょう!」
「でも私の侍女にするには若すぎる気が……」
「十三ともなれば立派にお仕えできるでしょう」
「カティアさんは?私の侍女になりたい?私の侍女って結構大変だと思うのだけれど」
「どうぞカティアと。お仕えできれば幸いです」
所作も綺麗ー!写真におさめたい!無理なのが残念!
「奥様、これでカティアは勘が効きます。奥様のお役に立てるかと」
大事なお孫さんを信頼して預けてくれようとしているんだ。
「カティア、嫌になったらいつでも実家に帰っていいからね」
「奥様、それは実家側の人間が言う言葉では……」
こうして侍女一人目が決まりました!
翌日、リディアはフィオナ・ケストナーを自室に呼んだ。
(なんて切り出そうかな。迷うなー)
フィオナは居心地が悪そうにしている。
先日の件を気にしているのだろう。
(もういいや!ストレートに)
「フィオナさん、私の侍女になってみない?」
「えっ」
フィオナが思わず声を上げ、慌てたように口を押さえる。
「申し訳ございません」
思わぬ提案にフィオナは動揺していた。
「理由をお聞きしてもよろしいでしょうか」
泣いているところを見て……同情されたのだろうか。フィオナは惨めになる。
「あなたに興味が湧いて、失礼だけれど調べさせてもらったのよ」
それならばますます理由がわからなかった。
「もうご存知かと思いますが、私には優秀な姉が二人おります。どちらも武にも魔法にも長けております。侍女をお探しでしたら姉の方がよろしいかと……」
あの日も何気ない会話で姉と比べられた。相手に悪気はないのはわかっていた。それでも一人になった時に涙が出てしまったのだ。
「私が貴女を気になったのは出会ったあの日がきっかけだけど、調べてもらって、貴女がとても数字に強いことがわかったからなの」
予想外の言葉にフィオナは驚いた。
「私にはよくわからない分野だけど帳簿とか誤差の検出がとても正確だそうよ。ここには信頼できる人材が多い。王都で見つけるのはなかなか大変よ。ケストナー卿も旦那様の信頼の厚い方だしそのご令嬢なら信じられるわ」
リディアはフィオナを真っ直ぐにみた。
「貴女だから侍女になってほしいと思ったの」
フィオナには信じられないほどの言葉だった。
「……私でよければお仕えさせてください」
声が涙で滲んだ。
もう断る理由はなかった。
「あっ」
リディアが何かを思い出したように声を上げた。
「でも私の侍女って結構大変よ。城の外に行ったりするし、実験室に大量のお湯を用意させたり、危ないことはさせないけど、普通の奥様ではないと思うの」
指を折りながら数え始めるリディア。
「あと急に草や実を採りに行ったり、変な石を拾ったり」
「奥様」
フィオナは思わず口を挟んだ。
「そのお話は、あらかじめ提示しておいてからの方がよかったのではないでしょうか?」
「あっ……そうかも」
その反応がおかしくて、フィオナは小さく吹き出した。
もう、先日流した涙のことは忘れていた。
マルタはリディアが侍女を取ったことを聞いた。
自分がいた場所にはもう他の人間がいる。悔しかった。
薬草水のことは皆騙されていると強く思うことはもうできなかった。クロイツ領に戻り本城で働けば薬草水で助かった人間の話を何度も聞いた。リディアへの称賛と共に。
聞きたくなかった。
王都にリディアと一緒にいたことのあるマルタにリディアのことを聞いてくる者もいた。あまり親しくはなかったからとその話は曖昧にした。
シグルドはマルタがリディアの侍女だったことは伏せた。その配慮はありがたいが胸の痛むものでもあった。その胸の痛みは恋心からなのか惨めさからなのかわからなかった。
苦しかった。誰かに話を聞いてもらいたかった。
でも城内の誰にも家族にも話せない。
「神殿……」
マルタはぽつりと呟いた。
神殿には告解室がある。
自分のこの気持ちが罪ならば、告解をしなければならない。
そうでもしなければ、この苦しさに名前をつけられそうになかった。




