↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の悪役令嬢の役割の終わり  作者: カネコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/38

薬局開店

 北で薬局設立を決めてから僅か三週間。

 クロイツ領、初の薬局は開店の日を迎えていた。


 店の前には長い列ができている。


 薬草水を求める者、ただ物珍しさから訪れた者。

 人々のざわめきは通りの先まで続いていた。


「旦那様、大盛況です……!」


 三階の応接室の窓から外を覗きながらリディアは言った。この三週間、リディアは薬局の準備に追われていた。


「旦那様、在庫は充分に作ったつもりですが、購入に個数制限をした方がいいかもしれません」

「そうしましょう」


 シグルドは店の者を呼び、購入は二つまで、事情がある場合には柔軟に対応せよと伝えた。

 入れ替わりに売れ行きを報告するものがやってきた。


「閣下、奥様、薬草水はすごい売れ行きです。対して解毒の粉薬は半分ほどの売れ行きです」


 リディアはシグルドを見た。

 

「思ったより売れてます。毒消しの粉薬」


 リディアはほとんど売れないことも覚悟していた。


「……飢えの年には、野草やキノコで食中毒を起こす者も少なくありませんからね」


 そうだ――この地は……

 でももうそんな未来は来ない。

 農政部のみなさん!私もお米楽しみにしてます!

 

 

「今日の売れ行きは大成功でした!」


 リディアは嬉しそうに言った。


「ええ。ただ、問題もありました」

「転売ですか」

「はい。薬草水を高値で売ろうとした者がいたそうです」


(転売ヤー許すまじ)


 シグルドは小さく息を吐いた。


「今回は警告で済ませましたが、今後は対策が必要でしょう」

「在庫はまだありますが、今後を考えると作り方を伝えておいた方がいいかもしれません」

「作り方を城内の者に教えるつもりですか?」

「はい。ただ、魔石の分別方法については……旦那様はどう思いますか?」

「拡大鏡を使った魔石の分別のことですね。教えない方がよろしいかと」

「やっぱりそう思いますよね」


 魔石の判別は、地道に熱湯で溶けるか確かめてもらうしかない。


「申し訳なさそうな顔をしていますが、それが最も安全です」

 

 できるだけ魔石を分別しておこうとリディアは思った。


「ところで姫君、侍女を選んでみませんか?」


「えっ侍女を?」

「はい。エマだけでは不便な時もあるでしょう。マルタは本城での仕事が合いそうなので、置いておくつもりです」

(マルタ、うっすら私のこと苦手なんじゃないかと思ってたけど……うん、人間相性があるもんね)

「正直エマだけで充分といいますか」

「クロイツ公爵夫人に仕えることができるのは名誉なことです」


 リディアはドキリとした。


(そうだった。私はこの人の妻なんだ)


「でもどうやって選べばいいでしょう」

(会社の面接みたいな?そんなの選べる気がしない!)

「そうですね。姫君に侍女候補を全員会わせると、選ぶことに気が引けて全員を侍女にしかねませんし」


 見抜かれてる。

 そうリディアは思った。


「まずは城の者たちを見て回ってはいかがでしょう。働きぶりを見て気に入った者がいれば声をかけてもいいですし、エマや親から紹介してもらうのもいいでしょう」


 リディアはその日から実験室にこもる時間を減らし城内を歩き回った。

 時々、奥様、と話しかけられることもあった。多くは薬草水についての感謝だった。本人が、または妻や子が、薬草水で助けられたと。

 胸があったかいようなくすぐったいような不思議な感覚だった。

 

「みんないい人に見えるわ。どう選んだらいいか迷ってしまう。エマ、推薦したいひとはいる?」

「私は王都務めが長がったので紹介できるほどのお方は……」

(うーん。困った)

 誰を選べばいいのか、リディアは袋小路に入ってしまった。


(やっぱり親族のかたに紹介してもらうのがいいかも。こちらの条件も提示して、それでもいいと思ってもらえるなら)


 でも紹介してくれる親族、誰?


「エマ、紹介できる令嬢が身内にいらっしゃる人がいるかしら」

「それでしたら、心当たりがあります。奥様がよく行っていた場所ですので私も自然と色々なお話をしていましたから」



 リディアとエマは農政部に向かった。

 

「奥様!」

「ご機嫌よう。少しお邪魔してもよろしくて?」

「もちろんです!奥様であればいつでも。今日はどのようなご用でしょう」

「ブルーノ・ライナー卿はいらっしゃる?」

「奥様ぁ!ブルーノ・ライナーここにございます!!」


(相変わらず凄い迫力!)


「わたくしめに何かご用でしょうか」

「私、今侍女を探しているんです。ライナー卿には孫娘さんが何人かいると聞いて。私の我儘に付き合ってくれるような忍耐強いお嬢さんはいるかしら」

「おおぉ、誠ほまれです!」


 ブルーノはこめかみを指で押しながら目を閉じた。


「私には孫娘が五人おりますが、そうですな――」


 ブルーノがカッと目を開けた。


「奥様にお仕えするのに恥ずべきところのない孫娘を一人紹介させていただきたく存じます!」


 後日、会わせてもらえることになった。


 今日、一仕事終えたような気持ちになったリディアは実験室に戻ろうとしていた。

 途中、中庭へ続く回廊でリディアは足を止めた。

 柱の陰に、誰かがしゃがみこんでいた。


「大丈夫ですか?」


 リディアは思わず声をかけた。


 パッと上げた顔は――涙に濡れていた。


「奥様……?」


 呟いたあとハッとしたように謝り始めた。


「申し訳ありません。奥様にこのようなお見苦しいところを」

 失礼します、というと素早くその場を去ってしまった。


「エマ、今のは誰だかわかりますか」

「確か、ケストナー子爵家のご令嬢フィオナ様です」


 リディアは部屋に戻ってもあの涙が頭から剥がれなかった。

 なんだか気になる子だった。

 

 お茶の用意をしに行っていたエマが戻ってきた。

 

「奥様、フィオナ様が気になりますか?」

「少し……」

「私、少々話を聞いてまいりました」

「えっ」

「ケストナー子爵家は武門の家系でフィオナ様は姉二人のいる三人姉妹の末娘になります。学業は優秀でしたが武の才も魔法もご家族に認められるほどのものではなかったようで、現在は文官としてお勤めです」

「エマ……ヨハンに似てきてませんか?」


 エマはニコリと笑った。


「光栄です」


 そんな優秀なメイドのエマに一つ頼み事をした。


 その後、リディアはシグルドが選んだ文官たちに薬草水と毒消しの粉薬の作り方を教えることになった。


 リディアは、自分がずっと作り続けるわけにはいかないと考えていたので、調合手順を丁寧に説明していった。

 

 薬局の運営を安定させるため、近いうちに薬学部という新たな部署を設立する予定だ。

 部長にはシグルドが選んだ人物、マティアス・グレーフェが就く。シグルドが選んだ人なら大丈夫だろう。


 薬草水や毒消しの粉薬の製法指導、薬学部設立のための人員選定や規則作り、薬局への納品準備などで慌ただしい日々が過ぎていった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。