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私の悪役令嬢の役割の終わり  作者: カネコ


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レシピページ更新

 扉がノックされた。


「姫君、私です」

「旦那様!」


 リディアは急いで扉に向かい、開けた。


「旦那様。どうぞお入りください」

「姫君がなにをしているか気になりまして」

「私が王都を出発する前に欲しいと頼んでいたものをヨハンが送ってきてくれたのです」


 これです、と机の上の石を見せた。


「これはあの石に刻まれたものと同じ文字ですか?」

「はい、発動と、起動発動と彫りました。もう一つは停止と彫ってみました」

「研究されていたのですね。結果はどうでしたか?」

「発動だけでも使え、起動だけでも使えました。起動発動と書いたものと比較しましたが効果、発動時間に差異はありませんでした」


 使い方によっては起動と発動に違いはあるのかも知れない。今はわからないけれど、とリディアは思った。


「つまりあの石が特別な訳ではなく、彫られた文字こそが重要だったわけですね」

「そうです」

「この石には何故、停止と?どのように使うのですか?」


 シグルドは尋ねた。


「正直に言いますと、なんとなく、です」

「意外です」

「例えば毒霧装置なら石を退かすか魔石を散らせてしまえばいい。使うとしたら手の届かない場所にある場合に当たるよう精密に投げつける、ですが運要素が強い。ギリギリ届かない場所にある場合のために、でしょうか。もしかしたら違う使い方があるかも知れません」

「姫君はそういう用途が不明瞭なものは作らない印象でした」

「これでも前世ではレシピを全て埋めるのを目標にしていました。訳わからないものも作りましたよ」

 

 白魔石不足で全て埋めるのは夢の中の夢でしたが、今ならば!


「そのレシピというのは私でも見れますか?」

「はい、お見せできます」


 私もレシピを見るのは久しぶり。丸暗記するくらい見てたからなぁ。


『鑑定 レシピページ』


 ウィンドウが現れた。

 ずらっと並ぶレシピの数々。サムネイルのような画像と文字で表示されている。


「こういうふうになっているんですね」

「例えば薬草水ならこれです」


 タッチパネルの要領でスライドさせる。

「熱湯と薬草七枚と水色魔石五つ」


 シグルドは指をさした。

 

「これが水色魔石ですか。実物とは違って黒で表示されないんですね」

「はい、ですから私も始めは困惑しました」


 苦笑いをするリディア。何気なくそのままスライドさせていく。


「あ、この辺は白魔石のレシピですね」


 《?》で表示される部分が増えた。


(あっレシピを埋めたい欲がでてきた)


 そのままスライドしていく。《?》の表示が増えていく。


(こんなに穴埋まってなかったっけ?)


 もう一度スライドさせた。

 そこに見覚えのある魔石の種類、数が。穴は埋まっていた。


 赤魔石一つ。

 青魔石一つ

 紫魔石三つ。

 黒魔石一つ

 発動石


 そして出来上がるもの


 毒霧だ。



「……旦那様。これ、毒霧の作り方です。前は無かったはずなのに」

(レシピページが更新されている?)

 

 指差したところをシグルドも見る。


「確かに魔石の数は一緒ですね。最後にこのページを確認されたのは?」


「浄化の砂の上位互換を作ろうとした時です。その時には空欄は白魔石を使ったレシピばかりだったはずなのに」

 

 スライドして画面を戻す。


「ところどころ空欄が増えています。これは……」


リディアが視線を止めた場所をシグルドも見た。


「姫君、私はこの葉に見覚えがあります」


シグルドは低く呟く。


「毒草です」


「レシピに水の性質を持つ魔石があります。つまり……」


 リディアは言いながら出来上がるのも想像ができた。

 

 毒液。


 ゲームに忠実にだったレシピページに変化が起きた。


「今までは物語に不必要な危険なものは表示されていませんでした」


 シグルドはしばらく黙っていた。


「つまり、この世界が新たな情報を見せ始めている可能性がある、と」


「……はい」


 リディアはそれを不気味に感じた。

 レシピページは前世のゲームと同じものだと疑っていなかった。

 その確信が崩れてしまった


「旦那様。薬局におくのは薬草水だけではなく、毒消しの実も置くのはどうでしょう。煎じておけばなお良いです」

「そうしましょう。薬局の開設も急いだ方がいいですね」


 まずは王都から薬局を作る予定だったが、クロイツ領にも急ぎ必要だ。霧の泉の毒装置……裏切り者がいるかもしれないなら尚更だ。


「加工してお香のようにすれば、霧状の毒にも対抗できるかもしれません。吸い込む毒なら、解毒成分も呼吸で取り込めれば効果があるはずです」


 もしもの時に備えてと、薬草水と共に配るのもいいかもしれない。

 毒霧のことは伏せたまま。

 不安を広げるより、備えを増やす方がいい。


 シグルドは休暇の意味で連れてきてくれたのだろう北の地、リディアにはやることも考えることもまだあった。


 シグルドに薬局の開設準備は任せて、リディアは薬草水作りと毒消しの実を量産していた。まずは商品を作らなければ。発動と彫った判子石が大いに活躍してくれた。正直、片手間に作れるほどだ。なので、レシピページの空欄を見ていた。

 毒霧装置が異質だったのは魔石だけで構成されていることだ。通常なら他の材料が必要になる。薬草水なら薬草が必要なように。

 しかしレシピには魔石の他にも発動石が材料にあった。


 出来上がるものが《?》になっている、魔石と発動石のみのレシピが多数あった。


(だから毒霧を発生させるには発動石を置いていかねばならなかった)


 発動石。

 

 ただの文字を彫った石だと思っていたが、レシピの材料として認識されているらしい。


 ただ《?》となっているものを作るのにはリスクがあった。今まで表示されていなかったということは、ゲームでは必要の無かった毒のようなネガティブなものなのではないだろうか。


 材料から出来上がるものがある程度予想できるのもある。


(毒霧装置は、赤魔石の熱と青魔石の氷で霧をイメージできる。紫の魔石は毒消しの実のレシピにも使う……三つあるのは過ぎれば毒ということだろうか。後一つの黒魔石は……)


 黒魔石は実はあまりレシピでは使われない。リディア的には黒魔石こそハズレ石だった。今までは。

 鑑定しても、黒魔石 レシピの材料 としか出ない。それは他の石も同じだがレシピの傾向と色のイメージから大体わかっていた。

 前世で白魔石は一度しか使えなかったがその一度で増幅の効果がわかったのは幸いだった。


 表示されるのは魔石ばかりのページを見るのも気が重い。ウィンドウを消そうとしたリディアだったが、ふと思い出した。


(虹色魔石を使ったレシピはどこだろう)


 スライドしていく。


「えっ?」


 リディアは思わず椅子から立ち上がった。


 虹色の石を材料にしたレシピ。

 何ができるかはわからない。

 だが必要な材料だけは表示されていた。


 虹色の石五つ。


 そして――起動石。


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