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私の悪役令嬢の役割の終わり  作者: カネコ


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判子石

 翌朝。

 リディアは城壁外で収穫し、鑑定を終えた植物を持って農政部へ向かった。


「おはようございます。今よろしいでしょうか」


「奥様!」

「もちろんです!」


 朝から活気のある農政部はリディアを喜んで出迎えた。

 

「また新しく発見された可食植物ですか?」

「四種類も!」

「奥様の目利きは確かですからな」


 忙しくなるぞ、と言いつつ嬉しそうな農政部の人々がいた。

「先日の根菜ですが灰と一緒に煮ると本当に食べられました!あの見た目の悪いガラの実が干せば美味しくなるとは……まだ干し途中ですが楽しみなことこの上」

「どけどけどけ!奥様がいらっしゃっただと!」

 

 奥の部屋から体躯の良い初老の男が大声を上げながらやって来た。

「奥様ぁぁ!この度はクロイツ領を救ってくださりありがとう存じます!ブルーノ・ライナー、おいぼれですがこの命!奥様に捧げたいと!」

「シグルド様に捧げてるんじゃないのかよ」

「シグルド様には他の奴らがたくさん捧げられてるからえいじゃろ!」


 リディアはなんだか勢いに圧倒されていた。


「奥様がもたらしてくださった稲……!本当に冬でも育つなら、クロイツから飢えを消せるやもしれませぬ!」

「田畑に蒔くだけの量が必要ですからすぐに結果は出ないでしょう。けれどいつか遠くない未来にそうなります」

 

 リディアは微笑んだ。

 

「でも近い未来も飢えさせるつもりはありませんよ。早成りの種があります。使い時は旦那様かハーゲン卿に相談してください」

「おぉぉ……何という……!奥様はまこと女神ですじゃ」

「聖女さまだよ、ブル爺!」

 辺りには笑いが起こった。


 リディアは実験室に戻っていた。


 机の上にあるのは文字を彫られた石、そして六つの魔石。

 泉で見た時と同じように魔石を並べる。この魔石の種類と数はフェルン村の毒霧装置と同じだ。

 泉の中で毒霧を出しても毒を出しても結果は同じだろう。だが、ただの毒の方がきっとレシピは単純だ。


(研究している訳ではない?)


 おそらくフェルン村の井戸にもあった毒も、毒霧の魔石を使ったのだろう。小さな袋にでも入れるか、樹脂か何かで文字石に魔石をくっつけて投げ込んだか。浄化の砂と毒消しの実の方が効果は上、再び毒に汚染されることはないのは幸いだった。


 つまり現状、不穏な相手が扱えるのは毒霧だけである可能性もあった。

 そして使われていた魔石、通常使われた魔石は使用後粉になる。それが残っていたということは設置されてから時間はあまり経っていないことが推察された。ただ、リディアは短時間で結果の出るレシピのものしか作ったことはない。毒霧はどれくらいの時間作動するのかわからなかった。

 検証する必要があった。ただしこれから王都で発生する聖女イベントの関係上、北に長居するわけにもいかない。検証は王都でやる方が安全だった。


(ヨハンに手紙を出そう)


 蓋がコルクでは不安だった。ガラスの蓋が欲しい。樹脂か蜜蝋で隙間を埋めれば安全性は高まる。


 それらの要望を手紙にしたためた。


 北に出発する前に頼んでいたものも帰る頃には用意されているだろう。

 ヨハンは優秀な執事だ。


 翌日、ヨハンから手紙と荷物が届いたとエマが持って来てくれた。


(ヨハン、返事が早すぎません!?)


 リディアは驚いたが、そうでは無かった。

 ご所望の品をお送りいたします。ご無事の帰還お待ちしております。という簡潔な内容の手紙。小さな荷物には、つるりとした小さな長方形の石が三つ、細かな彫刻に使う刃物、炭を棒状にし先端が細くなっているものが入っていた。

 王都を発つ前にヨハンへ依頼していた品が届いたのだ。


「さすがヨハンです!」

 リディアは喜んだ。


 リディアは棒状の炭を手に取った。手は汚れるが仕方ない。ペンを持つように握る。

 長方形の石を机に置き、左手で軽く押さえる。

 その石の横面に炭で文字を書く。

 発動、と。

 後はこの書いた文字通りに彫刻刀で掘る。

 判子を応用した、手のひらサイズの石の縮小版を作ろうという訳だ。判子と違い反転させなくてもよく、文字の周りを彫らなくてもいいのは楽だった。


(思ったより簡単にできた!)


 ヨハンはこんな石をよく見つけてくれたと感心する。


 おそらく発動だけで、起動はなくとも大丈夫だろう。

 リディアは皿を用意し、ポットから熱い湯を少量注いだ。薬草七枚を皿に置き、その上に水色魔石を五つ重ねる。さらに魔石へ「発動」と彫った石を触れさせた。本来ならもっともっとお湯が必要だが、どうなるか。

 魔石が溶ける。溶けた魔石が薬草を覆うと薬草もまた溶けた。

 

「……成功!」

(だと思う!)

「これは薬草水のはず」


 ヨハンに叱られそうだが指先を彫刻刀で少し切る。

そして作った水をつけた。傷が瞬時に消える。


「成功!」


 やはり発動だけでも問題なかった。

 

 リディアは魔法が使えない。魔法が、特に火魔法が使えたらと思ったことは数知れない。

 フェルン村でも火を起こすために、赤魔石――熱や炎の性質を持つ魔石と増幅の効果を持つ白魔石を使った。火を起こすためだけに白魔石を使うのは緊急時以外は避けたかった。起動発動石は特別な鉱石ではなく、ただの石に見えたため他の材質の違う石でも大丈夫だろうと踏んだがその通りだった。


(判子石、いい相棒になってくれそう)


 後は、起動と書いた石を彫って実験、その文字の下に発動と書いて差があるか確認。

 最後の一個には何を彫ろう。

 少し考えたあと、リディアは停止と彫ってみた。

 

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