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私の悪役令嬢の役割の終わり  作者: カネコ


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特技

 北の本城に着く前日、マルタはシグルドに部屋に来るように呼ばれた。

 ときめきと緊張で心臓がドキドキした。何を言われるのだろう。


「マルタ、其方を姫君の側仕えから外す」


 心臓が凍ったような気がした。それでも声を絞り出す。

 

「なにか私が粗相をしたでしょうか?それとも奥様がなにか」

「其方の仕事ぶりに文句はない。姫君は気付いていないようだが、気にしていないのかもしれない。――其方に忠誠心が無いことを」

「そんな、ことは……」

 

 マルタは訂正しようとした。やたらと打ち解けたりはしなかったが仕事に手を抜いたことはない。


「忠誠心の無い者は姫君の側に置いておけぬ。ましてや姫君を嫌っているならば」

 

 マルタは否定の言葉も言えなかった。口さえ凍ったようであった。

 シグルドは無表情で言った。


「これまでのクロイツへの忠義は疑っていない。城に戻ったら違う仕事をするのがいいだろう」


 なにも言えず弁解もできずマルタはシグルドの部屋から出た。

 城にどんな仕事があるというのだろう。主の妻に使える以上の名誉ある仕事が。

 これであの女に会いにくるシグルドと会うことも叶わない。

 どうしてあの女だけ大事にされて私はこうなんだろう。

 男爵の娘だからだろうか。

 またシグルドは王都に戻るだろう。そうしたら垣間見ることすらできない。

 恋の自覚は終わりと共にやってきていた。 



「旦那様……どうぞこちらへ」


 私は旦那様を実験室に招き入れます。実験室はヨハンが細かく指示を出していてくれたのでしょう。公爵邸とほぼ同じように棚等設置されてました。

 ちょっと緊張。今日は私の秘密を見せようと思っているのだ。もしかしたら見せれないかもしれないけど。


「以前お話ししましたよね。北に行ったら特技を見せると」

「言っていましたね」

「今からお見せしようと思いますが、見えなかったら言ってください」


 どういう意味か聞こうとしたシグルドだったがリディアのやることを見守った。

 リディアは息を吐いた。そして吸い込む。


『鑑定 採取 可食植物 範囲指定ヴァルグ本城城壁内』


 リディアの目の前に半透明な光の板のようなものが現れ、その板には光点がいくつも瞬いていた。


「見えますか?旦那様。この、板のようなものが」

「はい、見えてます」


 シグルドは不可思議な現象に目を見張っていた。

 

「良かった!私しか見えない可能性を考えていたんです」

「この半透明の板は……光っているのは何ですか?あと姫君が先程呪文のように話した言葉は?」


 シグルドには珍しく質問を立て続けにした。

 

「話したのは前世で使っていた日本語という言葉です。内容は、鑑定、採取、可食植物、それと範囲指定をしました。本城城壁内と」


 だからこの光っている場所に食べられる植物があるのだと。


「この板のことはウィンドウと呼んでいます」

「……姫君には驚かされます」

「ちょっと驚いてほしい気持ちもありました」

 

 リディアは笑った。


「この光点が密集しているところはおそらく城下町のお店だと思います。点在しているところを探しに行きましょう」


 そうして人目を避けながら集めた七種類の植物。

 リディアが個別に鑑定し、どういう植物で、どうすれば食べられるか確認した。

 作物として育てやすく、注意が必要だが可食部位が大きく、多く収穫できそうなものが二種類あった。一つは芋に似た根菜。もう一つは見た目の悪い木の実であった。


「やりました!旦那様!二種類も当たりが」

「驚きました。本当に」

「早成りの種は、冬に農耕地が空いている時に使い、この二つの植物を増やしていくのがいいかもしれません。もちろんあらかじめ早成りの種を使い貯蔵庫を満たしておくのもいいでしょう。旦那様にお任せいたします」

「農業を担当している者と話し合っておきます」

「あとはやはり今後のことを考えると稲か麦が欲しいですね。城壁外にないか気になります。この地で見つけられればきっと寒さにも強いと思うのです」


 ふ、とシグルドは笑った。


「今でも奇跡みたいなのに姫君は未来のことを見据えてますね」

「いつかは白魔石が無くなって早成りの種は作れなくなりますから」

 

 それに、奇跡にさえ人は慣れる。早成りの種は一時凌ぎにしておくのがいいだろう。

 


「城壁外も今の季節なら魔獣はほとんど現れないでしょう。姫君のあの半透明の板は余り人に見られたくないので護衛は私一人になりますがお守りします」


 リディアは少しドキリとした。


「旦那様が側にいてくださるなら安心です」


 翌朝、リディアとシグルドは城壁外へ向かった。

 本城と一体になった城壁を抜け、少し歩くと外壁がある。水堀に架かった橋を渡れば城壁外だ。

 

 北の風は夏には心地いい。目の前にはどこまでも草原が広がっていた。

 


 早速始めようと、リディアは口を開く。

 

『鑑定 採取――』


 可食植物と続けようとして思い直す。


『可食麦 範囲指定城壁外』


 光点は付かなかった。


「やっぱり、そう上手くはいかないかー」


 いや、まぁやってみようと、再び唱える。


『鑑定 採取 可食稲 範囲指定城壁外』


 光点が一つ付いた。


「嘘っ!ダメ元だったのに!」


 リディアは信じられない思いで光点を見つめた。


「何かあったのですか?姫君」

「旦那様!稲があります!」


 およそ二kmほど離れた場所をその光点は示していた。


 リディアとシグルドはその光点付近に近付いていった。


『鑑定 採取 可食稲 範囲半径百m』


 範囲を五十、二十、と縮めていく


『半径1m』

「どれだろう。近くにあるはず……あっ」


 リディアは一つの植物を指差した。


「旦那様、これ、稲!お米です!」

「これが?」

「はい!この穂の形!間違いありません!嬉しいっ」


 シグルドももちろん嬉しさを感じたが、リディアの喜びように小さく笑った。


「そんなに嬉しいですか、姫君」

「はいっ!前世では毎日のように食べていました!こちらは麦が主食なので時々恋しく思っていました!」


 早速鑑定しちゃいますね、とリディア。


「えっ不要?冬に!?」

 

 驚くリディアに、シグルドは読めないとわかっていながらウィンドウを見た。

 

「旦那様、この稲、冬でも収穫できます!しかも水田も不要です!」


 それはまさにこの北の、クロイツの求める植物であった。


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