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私の悪役令嬢の役割の終わり  作者: カネコ


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迷いの森

《聖花のレガリア》は乙女ゲームである。

 乙女ゲームは普通、毒は売らない。

 だからレシピもない。

 毒消しはあるんだから毒もある。確かにそれはそうなのだ。現にゲーム内にも毒はあった。毒キノコが。買取価格0円。虚しい思い出だ。ああ、でももしかしたら穴空きレシピに毒消し毒キノコスープとかあるかもしれない。……あってどうする。


「姫君、お疲れですか?」

「私はいつも元気です……」


 リディアの頬と机は一体化している。

 

「お疲れのようですね」


 シグルドは苦笑した。

 

「こちらも暑くなってきました。一度北に、本城にいってみませんか?」


 リディアの頬は机から離れた。


「王都以南でなにかあればヨハンに知らせてもらえるようにします。私も姫君を本城の皆に紹介したいですし」


 そうしてリディアとシグルドは北に向かって出発した。

 

 馬車で二週間の旅、シグルドも同じ馬車での移動だったためシグルドでも窮屈にならないよう設計された馬車は居心地が良かった。侍女やメイドは別の馬車に乗っており、基本二人きりだったので会話も選ぶことなくリディアは楽しんだ。


「今日は街道町ミストラに泊まる予定です。間も無くつくでしょう」

「ミストラ……旦那様、森は近くにありますか?」

「はい、ありますよ。軍で移動するときにも利用していた町ですが、森には迷うから入るなと忠告されました」

「迷いの森ミストラ、間違いない。旦那様!森に寄ってもいいでしょうか」

「何かあるのですね」

「上手く見つけられれば、ですが」


 リディアがいたずらそうに笑った。

 


 二人の護衛を連れてミストラの森にリディアとシグルドは入った。


「駄目ですね、方位磁針まで狂います。姫君、私から離れないようにしてください。ロルフとアーヴィンも」

 

 シグルドの手の上にある方位磁針は針がクルクルと回っていた。


「旦那様、目印を教えますので先導してください」


 まず、目印にするのは木、その葉だ。緑生い茂る中にある赤い葉の木を順々に目指し進んでいく。《聖花のレガリア》では、それが迷いの森を抜ける条件だった。

 

 目の前がひらけた。

 陽の光を反射する泉が目の前にある。


(やっぱり泉があった!)


《聖花のレガリア》でミストラの森は隠しアイテムのある場所であった。


(でもどこにあるんだろう。泉の中だとは思うんだけど濁っててよく見えない)


 こういう場合、泉は透き通っているのが定石ではなかろうか。


(もしかして……)


 斜め掛けの鞄から浄化の砂の瓶を取り出す。サラサラと泉の中に落としていく。

 泉が透き通っていく。

 浄化が終わったその時、泉が輝き始めた。

 その光が泉の中央に集まっていく。

 そしてその光の上に、何かが、現れた。

 シグルドが守るようにリディアの前に出た。

 その何かは始めは不定形だったが、人のような形になっていく。

 それでも人ならざる形。リディアは妖精とはこんな姿形だろうかと思った。

 

〝我はこの泉の精。人の子よ、娘よ、我が泉を浄化せし者よ、感謝する〟


 楽器のような不思議な声だった。


〝受け取るがよい〟


 泉の精の胸元から光の球が現れリディアの前に行く。

 リディアは受け止めるように光の球の下に両手を揃えて出した。

 光は収まり小さな楕円の虹色の石がリディアの手のひらに落ちた。


〝願わくば、我が姉妹も〟


 その言葉を最後に姿を消した。

 美しい泉がその場にあるばかり。


 宿の人払いをしたシグルドの部屋にリディアはいた。


「姫君はあの泉に精霊がいたことを知ってらしたのですか?」

「いいえ、ある石を得られる場所だということはわかっていたのですが……」

 

 手の中の虹色の石を見つめる。


「前世の本ではこの虹色の石ではなく、緑の宝玉が手に入るはずでした」


 この隠しクエストの難易度は高くない。緑の宝玉もレシピに使えるが他の場所でも入手可能だ。


 シグルドの部屋に来る前に自分に当てがわれた部屋で鑑定してみたが、


《合成に使えるアイテム》


 という結果。

 つまりこの石を使ったレシピがあるのだろう。


「まさか、あんな泉の精がいるなんて思いませんでした。ケルナー卿とバルツ卿に不審に思われたでしょうか」


 護衛二人の名を出して確認した。

 

「姫君を聖女と思っているので問題ないでしょう。今頃聖女伝説が一つ増えているところかと」


 リディアは苦笑いした。


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