過去
ユリウスとの婚約の話が出たのはリディアがもうじき六歳を迎えようとしていた時のこと。
侍女やメイドを下げて一人リディアはぼんやりとしていた。
(この時代だからかな。早いものだなぁ。私に婚約者だって。しかも相手は王子様!私が公爵家のお姫様だっていうのも信じられないくらいなのに)
リディアは鏡の前に行き自分の顔をじっと見た。
(綺麗な子。これが自分だなんて信じられないくらい)
少し吊り上がった意思の強そうな瞳。色はオペラピンクを思わせる、赤みを帯びた紫色。髪は日の光が当たった箇所は紫に透ける。
(髪もサラ艶真っ直ぐ。目は日本風に言うと紅藤色かな?あーっ、このまま健康に成長できますように!)
リディアは自分は魔法が使えないと知った時は残念に思ったが、それが不健康という訳でないならさほどの問題とも感じなかった。彼女は家族の落胆を恐れたが、もともと冷え切っていた家族関係は特に変わらなかった。
(ユリウス様とはあたたかい家庭を築けるかな?て……ユリウス?……リディア?……ユリウス・ヴァレンシュタイン?ヴァルディア王国!?)
「あっ!」
(待って待って待って!これって!ここって!)
「乙女ゲーム《聖花のレガリア》!?」
リディアは鏡を凝視した。
「乙女ゲームに、《聖花のレガリア》に、ということは、私、悪役令嬢!?」
先程までの淡い幸せは霧散した。
「き、気付かないって!悪役令嬢のフルネームなんて断罪の時くらいしか出てこなかったし、でもユリウス様の名前は攻略対象だから何度も確認できるし!」
力なく床に手を付く。冷や汗が頬を伝う。
「ヤバいヤバいヤバいヤバい。死んじゃう死んじゃう死んじゃう死んじゃう。断罪されて、処刑…………あれ?リディアって処刑されたっけ?」
リディアが断罪されたのは間違いない。しかしその後どうなったか記憶が曖昧なのだ。
「こういうパターンだと処刑されてないなら幽閉か修道院送りだよね」
ティナは平民だ。平民が貴族に傷を負わせたなら処刑はありうる。逆は?ありえない。まして殺人未遂ならば未遂である以上厳罰はないだろう。
「でも乙女ゲームなら厳罰もありえるくらいに思っていた方がいいよね」
魔法が使えないのはちょっと残念などと気楽に考えている場合ではなかった。断罪を避けるのはもちろんのこと、自身を守る力が必要だ。
リディアはチートを探すことを決意した。
「現代チートは使えない。私はめちゃ文系。得意分野は古典。源氏物語も百人一首も漢文も役に立つとは思えない。となると《聖花のレガリア》チートを探すしかない」
《聖花のレガリア》の内容を必死に思い出そうとするリディア。
(とりあえず)
「オープンザ、ウィンドウ」
「ゲームスタート」
「つ、続きから」
フーっと息を吐く。
「……まだ始めたばかりなのになかなかメンタルにくるね」
(照れを捨てなさい!リディア・ローゼンベルク!)
「日本語ならいけるとかないかな?日本語喋れる?私?『オープンザ、ウィンドウ』いけた!でも駄目だった!」
その後もリディアは奮闘したが結果は芳しくなかった。
「私そもそも《聖花のレガリア》は攻略対象を一通り攻略した程度でやりこんだのはアルバイトなんだよなー」
アルバイトとはその名の通りお金を稼ぐためのゲーム内ゲームである。リディアは前世でゲーム内のアルバイトにハマっていた。
「いや、待って」
リディアはジュエリーケースを一つ手に取った。リディアはまだ幼い子供であるが公爵家の令嬢らしく高価な宝石を所有していた。
母の形見の宝石と自身の宝石。その中から一つネックレスを取り出し――
『鑑定』
その日リディアはチートを見つけることができた。




