浄化の雨
リディアは斜め掛けのバッグから小瓶を取り出した。中からとても小さな白い結晶がサラサラと出た。
「旦那様、屈んでいただけますか」
言う通りにしたシグルドの上半身にその結晶を撒き、自分にも振り掛けた。
「これはなんですか、姫君」
「これは浄化の塩です。浄化力は浄化の砂より強いです。塩なので地面には撒けませんが」
一応口にも含んでくださいとリディアはシグルドの手に塩を置いた。
「では行きましょう」
リディアは村に足を踏み入れた。
霧の中、一見村には誰も居ないように見えたが、うめき声が小さく至る所から聞こえた。
「まず私が家に入ります。安全が確認できたら姫君もお入りください」
しばし待ち、シグルドに呼ばれて家に入る。
ベッドに寝かせられている者。そのベッドに寄りかかるようにしている者。床に倒れている者。どれも辛うじて息があった。
リディアは急ぎ奇跡の水を飲ませた。が、多少の回復は見られたが依然苦しんでいた。
(これは病気じゃない!)
この霧は、瘴気!?
だとしたら村全体を浄化せねば。
リディアは鞄から浄化の砂が入っている瓶を出した。それに赤魔石、緑魔石、水色魔石、そして白魔石を複数個取り出し瓶に入れる。
瓶の下に赤魔石と白魔石を隣合わせて置く。間も無く火が瓶を覆った。そして瓶の口から煙が上がっていった。
「これであと少し待てば浄化はできるでしょう」
「姫君は何をしたのですか」
「雨を作っています。浄化の雨を」
煙はみるみる大きくなり、銀色に輝く雲となった。
ポツリ、ポツリと銀の雨が降り始めた。
霧が消えていく。
「これで広範囲に渡って浄化ができました。薬草水でも村民を助けられるはずです」
リディアはシグルドを見上げた。
「二手に分かれたほうが効率がいいでしょう。旦那様、薬草水をお渡しします」
「いえ、念の為安全確認はさせてください」
この村に危険はもうないだろうと思ったが、強く反対する理由もないのでシグルドに従った。
家を順番に巡る。
確認のため入っていた家からシグルドが出てきた。
「姫君、この家の住民は私に任せてください。私も薬草水は持ってますので」
リディアは疑問に思った。
しかしすぐに答えを見つけてしまった。
「犠牲者が……でてしまったんですね」
シグルドは答えなかった。
家の中に入っていく。
雨の中リディアには立っていることしかできなかった。
銀の雨が止む頃には、村を覆っていた瘴気は消えていた。
「聖女様!ありがとうございます!」
「聖女リディア様!」
浄化の効果もあり薬草水で回復した村人がリディアを囲い次々にお礼を言っていく。
「もう駄目かと思いました。村が封鎖までされ助けを求めることもできず死んでいくのを待つばかりだと」
「聖女様の奇跡の雨とお薬のおかげでなんとか助かりました」
「みなさんが元気を取り戻してくれたのなら私も嬉しいです」
リディアの声には喜び以外も混じっていた。
(全員助けるのは無理なこともある。私は本物の聖女でもないのだから)
でも諦めたくないんだ私は……!
(瘴気には浄化は効果があったけど薬草水は合わなかった。瘴気は毒のような効果があるのかもしれない)
シグルドが護衛を連れリディアの側にきた。
「姫君、疲れたことでしょう……」
「いいえ、大丈夫です」
村長らしき老人に村民は道を開けた。
「村人を代表して感謝申し上げます。護衛の皆様も、どうぞ今宵は村にお泊まりください。ささやかではございますが、宴の席も設けたく存じます」
「泊まりの申し出はありがたく受けよう。だが宴は不要だ……家族を亡くした者もいよう」
「誠にお気遣い感謝いたします」
リディアとシグルドは別室を希望した。
リディアは机に向かって座っていた。
「毒消し、作っておいてよかった」
あの霧はおそらく毒の性質がある
きっと薬草水と奇跡の水は毒は消せないのだ。
傷は消せる。だから毒で負傷した部位は回復させられるが毒自体は残ったまま。傷を消すものであって毒を消せるものではない。
レシピには毒消しは毒消しでちゃんと存在するが、どうやら浄化にも毒消しの性質があるようだ。
(まあ、性能や材料とか重複レシピ結構あったからね)
でも本当に毒ならば出所があるかもしれない。
浄化の雨で消し切れていない毒があるなら、そこに。
『鑑定 採取 毒液 範囲フェルン村 』
『鑑定 採取 毒液 範囲フェルン村周辺一km』
(これは……!)
旦那様に報告しなくては。




