14帰還
帰ってきました王都クロイツ公爵邸!懐かしい!住んでた期間は短いのに実家のような安心感!
朝からテンションの高いリディアである。
(いやー朝になって帰って来たって実感したよね。色々あったもんなぁ)
はぁー、と息を吐く。
(王城が一番疲れたかも。私、そんなつもりなかったけど社交苦手だったのかな?旦那様も苦手なら私がフォローすべきなんだけど)
制服に手を通しながら考える。
(でも旦那様演技は上手だった。私といる時は笑顔で他は鉄仮面という徹底ぶり。溺愛競争負けた気がする!)
メイドのエマが食堂にと呼びに来た。
エマは厨房での薬草水作りの時に打ち解けてくれた子である。
「奥様!昨日の凱旋行進、拝見いたしました!白いドレス姿が女神のようで……帰っていらした時の黒いドレスも本当にお似合いでした!」
「ふふ……そう?ありがとう」
「でも今の制服のお姿が奥様って感じで安心します」
リディアはドレス姿が褒められたのも嬉しかったが、制服が受け入れられた方がより嬉しくなった。
食堂にはすでにシグルドがいた。
「おはようございます旦那様。ヨハンも。お待たせしました」
「おはようございます姫君」
シグルドは微笑み、ヨハンは一礼した。
(……旦那様、溺愛モード抜けてない?まさかね)
公爵邸であっても使用人に聞かれてはいけない話があるため会話は選んだが、それでも気安く過ごせた。
食事が済んだ時、シグルドがリディアに尋ねた。
「姫君は今日はどのように過ごされる予定ですか?」
「私は旦那様とお話がしたいのと、あと庭を散策したいです。旦那様はどのように?」
「私は北に帰還する兵士達を見送ったあと、よろしければ姫君の散策に付き合わせてもらえれば。話をその時にするのもいいでしょう」
あっ、とリディアは気づいた。
「私、妻の自覚がありませんでした。お見送り、私もいたします」
「それは皆が喜ぶでしょう。私が北に帰ってから改めて論功行賞を行う予定です」
だから見送りは略式的なものだからあまり気負わなくてよいとシグルドは言った。
主夫妻に見送られ兵士たちは誇り高く北に向かった。
「旦那様はとても慕われてますのね」
「姫君もですよ」
邸に残った兵士は数十名。リディアの薬草水で助かった者が殆どだ。西に向かった時、リディアの護衛をしていた騎士も多い。主であるシグルドはもちろん、リディアにも忠誠心をもった精鋭たちである。
予定通り、リディアとシグルドは公爵邸の庭を散策していた。シグルドがいるからということで侍女もかなり離れた位置にいる。
「あっ!これは希少な大蛇苺!蛇苺と違って美味しいんですよ!あっあっ!これはノルの実?パイにするのがお勧めです」
リディアはカゴに次々と彼女にとってのお宝を放り込んでいく。シグルドはその様子を声を出さずに笑って見守っていた。
「すみません!私ばかり楽しんでしまって」
「楽しそうにしている姫君を見るのは私も楽しいですよ」
(喜んでいいのかどうか……)
リディアは迷った。そして気づく。
「そういえばお話させていただく予定でしたのに……今お話させてもらって大丈夫ですか?」
「はい。間者がいる気配はありません」
(そんな気配ってわかるもんなんだ)
「北の植物について考えてました。例えばこのノルの実ですけど生で食すのには向いてませんが火を通せばとても美味しくなります。私の前世でも芽に毒はあるけれど取り除けば食べられるお芋とかありました。蛇足になりますがかなり食にはこだわる国民性で食べれば死んでしまうような猛毒をもつ魚も過食部位を探し当て食べれるようにしていました」
「前世の話に興味をそそられますが、つまり食べられないと判断しているものも食べれるのではないかということですか?」
「はい、今は白魔石は充分にありますが、いつか尽きます。早成りの種に頼るばかりなのは危険です。地力をつけなければなりません」
「それはその通りです。私も北の地でも育つ植物を探してはいましたが、今ある植物が食べれるかどうかは検証していませんでした」
盲点でした。と苦笑するシグルド。
「ですが時間がかかりそうですね。その時間稼ぎが早成りの種と」
「時間はかかりません」
断言するリディアを見た。
「北の地に行ったら私の特技をお見せしましょう」
「魔石の買い占め……廃鉱山まで。そして白魔石処分地の所有者変更……どれも別々の人物が買ったように見せているが、流石に分かりやすい」
隠す気がないのではなく、押さえることを優先させたか。
「薬草水か……どうやら二人目の聖女には仕掛けがあると見たよぉ……」
他に誰もいない、温室で花を愛でながら男は静かに笑った。




