表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

9

女はゆっくりと俺の前まで歩み寄ると、不思議そうに首を傾げた。


「ねぇ」


そう言いながら、そっと俺の胸に手を当てる。


「あなたの名前、なんだっけ?」


心臓が大きく脈打つ。


「……風間だ」


「下の名前は?」


(しゅん)


「瞬……」


女はその名前を確かめるように小さく繰り返した。

そして、少し寂しそうに微笑む。


「じゃあ」


女は自分の胸に指を当てた。


「私の名前は?」


「え?」


思わず聞き返す。

女はくるりと背を向け、窓の外を眺めながら言った。


「あなたが考えて?」


その言葉に、俺は言葉を失った。


俺が名前を付ける。


そんなことをしてしまえば、この女はもう<身元不明の容疑者>ではなく、一人の人間として俺の中に存在することになる。

それでも、名無しのまま呼び続けるわけにもいかなかった。


俺は腕を組み、しばらく考える。

黒く長い髪。

雨の日に初めて出会ったこと。

そして、どこか儚げで、それでいて強さを秘めた瞳。

ふと、一つの名前が頭に浮かんだ。


「……雨音(あまね)はどうだ」


女がゆっくりと振り返る。


「雨音?」


「ああ。雨の日に出会ったから……ただ、それだけだ」


女が照れ隠しのように視線を逸らし、何度かその名前を口にした。


「雨音……、雨音……」


やがて、花が咲くような笑顔を浮かべる。


「すごくいい名前!」


そう言って嬉しそうに笑う姿を見た瞬間、俺は胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ