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警察署へ戻ると、机の上には報告書が山積みになっていた。
同僚たちは連続殺人犯の行方について議論を続けている。
俺は平静を装いながら書類を片づけ、聞き込みの内容を整理し、残っていた事務作業を淡々と終わらせた。
仕事を終え、署を出ると夜風が頬を撫でる。
俺はスマートフォンを取り出し、恋人の南へ電話をかけた。
数回の呼び出し音のあと、聞き慣れた明るい声が響く。
「もしもし?瞬?」
「ああ、俺だ」
少し間を置いてから続ける。
「今日は飲み会があるから、帰りは遅くなる。ごめん」
「そっかー、了解ー。飲みすぎないでね」
「ああ」
短い通話は、それだけで終わった。
画面が暗くなる。
俺はスマートフォンを握ったまま、その場で頭を抱えた。
……また嘘をついた。
刑事になってから、こんなふうに誰かを欺いたことはほとんどなかった。
これは浮気じゃない。
俺はただ、記憶を失った重要参考人を保護しているだけだ。
そう何度も自分に言い聞かせる。
それでも胸の奥に残る後ろめたさは消えなかった。
俺は深く息を吐き、女が待つマンションへ向かって歩き出した。
エレベーターで最上階まで上がり、静かな廊下を歩く。
玄関の扉を開けると、すぐに柔らかな声が聞こえた。
「おかえりなさい」
顔を上げると、女がこちらを見て微笑んでいた。
風呂上がりの髪はすっかり乾き、俺が買ってきたラフな部屋着に着替えている。
派手さのない服装のはずなのに、不思議とよく似合っていた。
その姿を見た瞬間、張り詰めていた気持ちが少しだけほどける。
ここが、警察に追われる連続殺人犯の隠れ家だということを、一瞬だけ忘れそうになった。




