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裏通路の突き当たりにある古びた鉄の扉を三度叩く。
しばらくして鍵の外れる音が響き、扉がゆっくりと開いた。
中から姿を現したのは、七十代ほどの老人だった。
白衣は年季が入り、白髪混じりの髪を無造作にかき上げながら俺を見る。
「おお、風間か。今日は――」
老人の視線が俺の後ろへ移った瞬間、その表情が凍りついた。
「なっ……!」
震える指が女を指し示す。
「その女は……まさか……」
俺は老人の言葉を遮るように、一歩前へ出た。
「古家さん」
低い声で言う。
「何も聞かず、彼女の手当てをしてくれ」
古家は俺と女を交互に見つめる。
何かを言いたげだったが、やがて小さく息を吐くと首を縦に振った。
「……わかった」
女は診察台に腰掛け、古家は慣れた手つきで額の傷を消毒していく。
傷は見た目ほど深くはなく、数針縫う必要もなかった。
止血を終え、包帯を巻き終える頃には、女の表情にも少しだけ血色が戻っていた。
「終わったぞ」
古家が言うと、女は深々と頭を下げた。
「ありがとうございます」
その礼儀正しい姿は、とても世間を騒がせる連続殺人犯には見えない。
俺は無言で財布を取り出し、中から厚みのある札束を抜いた。
十万円。
それをそのまま古家へ差し出す。
「なっ……」
古家は目を丸くした。
「こんな大金……」
俺は札束を無理やり古家の白衣の胸ポケットへ押し込む。
「治療代と、口止め料だ」
古家は苦笑いを浮かべた。
「わしは昔から口は硬いぞ」
「ああ、知ってる」
だからこそ、ここへ連れてきた。
警察にも裏社会にも顔が利き、余計な詮索はしない。秘密は墓場まで持っていく男だ。
それでも今回は相手が相手だった。
連続殺人犯として全国に手配されている女をかくまっていることがばれたら、古家だけではなく俺まで終わる。
だから念には念を入れる。
古家はしばらく札束を見つめていたが、やがて諦めたようにため息をついた。
「……お前さん。本当に、とんでもないことに首を突っ込んだようじゃな」




