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3

雨脚はさらに強くなっていた。

路地裏へ戻った瞬間、不意に黒い影が飛び込んでくる。


「……っ!」


気づいたときには、女が俺の胸にしがみついていた。

細い肩が震えている。

冷え切った身体が、雨でさらに冷たくなっていた。


「お願い……」


消え入りそうな声が耳元で震える。


「私を……見捨てないで」


俺は戸惑いながらも、ゆっくりと彼女の肩をつかみ、少しだけ距離を取った。


「いいか。よく聞け」

できるだけ冷静な声で言う。


「お前は連続殺人犯として警察に追われている。それを思い出すんだ」


女は何度も首を横に振った。


「そんなの嘘……」

涙と雨が混ざり、頬を伝っていく。


「私は何もやってない……何も……」

そのまま彼女は踵を返し、雨の中を走り出した。


「待て!」

俺は反射的に駆け出す。


細い裏道を抜けたところで追いつき、腕をつかむ。

女は抵抗することなく立ち止まり、ゆっくりと振り返った。


「……あなた」


不安そうな瞳が俺を見つめる。


「私を、逮捕するの?」


その一言に、胸が締めつけられる。


刑事としてなら答えは決まっている。

だが、その言葉は口から出てこなかった。


「……いや」

俺は静かに首を振る。


「まずは話を聞くだけだ」


女は力なく笑う。


「話って……私は何一つ覚えていないのよ?」


その笑顔は今にも崩れそうだった。


「どうすれば……思い出せるの?」


そう言いながら、彼女はおそるおそる俺の手に指を絡ませてきた。

その手は驚くほど冷たい。

俺はしばらく黙っていたが、やがて覚悟を決めるように口を開いた。


「……あんたが思い出せるまで」

自分でも信じられない言葉だった。


「俺があんたを管理する」


女は目を大きく見開いた。


その瞳には驚きと、わずかな安堵が浮かんでいる。

俺は周囲を見回した。

このまま警察署へ連れて行けば、彼女は間違いなく身柄を拘束される。

だが、今の彼女からは凶悪犯の雰囲気がまるで感じられなかった。

それが演技なのか、本当に記憶を失っているのか。

確かめる必要がある。


俺は彼女の手を離さず、人目につかない裏通路へ足を踏み入れた。

複雑に入り組んだ細い路地を抜け、古びた雑居ビルの地下へ向かう。

そこには、警察にも裏社会にも顔が利く、一人の闇医者が診療所を構えていた。


表向きには存在しないその診療所の扉の前で、俺は静かに足を止める。

あの男なら、彼女の記憶喪失が演技なのか、それとも本物なのかを見抜けるかもしれない。




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