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___2年後。

雨音の遺体が発見された。


現場の状況からみて、車が行き交う歩道橋から転落したのではないかと推測された。

幸いにも車に巻き込まれることはなく、遺体に大きな損傷はなかった。

しかし、頭部への強い衝撃が致命傷となり、その場で死亡が確認された。


事件として捜査は行われたが、決定的な証拠は見つからず、雨音が最後に何を思い、どこへ向かったのかは誰にもわからなかった。


俺は雨音の司法解剖を担当した大学時代からの友人を訪ねた。

友人は資料を閉じると、言いにくそうに口を開く。


「風間……一つだけ、気になることがあった」


「なんだ?」


「彼女の腹部に帝王切開のような傷痕があった」


その言葉に、時間が止まったような感覚に襲われる。


「……子供を産んでいたってことか?」


「ああ、その可能性は高い…」


「……」


父親は誰なのか。

子供はどこにいるのか。

その事実だけが、新たな謎として残された。


新聞や週刊誌は好き勝手な憶測を書き立てた。

だが俺は、そんな記事を一つも信じなかった。


雨音の子供…。

その子供の父親が俺だとしたら。


雨音はどこかへ子供を預けたのかもしれない。

そう思った俺は、休日になるたび児童相談所や養護施設を訪ね歩いた。

だが、どこへ行っても手がかりは見つからなかった。


ある日の午後。

一軒の養護施設を訪れたときだった。


廊下の先で、2歳くらいの小さな子供が一人、誰かを待っているように立っていた。

黒髪のセミロング、可愛らしい顔立ちをしているが性別はわからない。


ふと、その子供と目が合う。

その子は俺を見つめ、何も言わない。

その澄んだ瞳を見た瞬間、胸が締めつけられた。

理由はわからない。

だが、その静かな眼差しが、雨音によく似ていた。


職員へ尋ねる。


「あの子は、いつここに…?」


「一か月前です。あの子は双子のお姉さんか妹…」

職員は言葉をつまらせながら、話を続ける。


「…二人一緒にいたところを保護したのですが、片方の子が行方不明になってしまって…」


「行方不明……?」


思わず聞き返す。


「はい。この施設に迎え入れたその日に、突然いなくなってしまいました…。

警察にも相談したのですが、まだ見つからないと…」


「双子の母親は?」


「わかりません。施設の裏口で子供達が泣いているところを保護したので…。

その場には誰もいませんでした」


「きょう~、どこ~。きょ~うぅ。まま~あぁぁ」


双子の片割れの子供が地面に座り込み、泣いている。


俺は静かに子供に歩み寄り、

雨音が映った捜査資料の写真を子供に見せた。


子供はじっと写真を見つめ

「……まま」

と写真に写った雨音を指差す。


「どうされました?」

職員が心配そうに歩み寄る。


俺は息を整え、職員の方を見た。


「………。この子……俺が引き取ります」


俺の言葉に職員は驚いた表情を浮かべる。


「申し訳ありません。それは手続き上、お受けできません」


「お願いします!この子の父親は自分かもしれないんです!」


「やめてください!この子は近いうちに、家庭へ迎えられる予定なんです!!」


「え…?」


「養親の事情もありますので、お引き取りください」


「……」


養親。その言葉に俺は何も言えず、施設を後にした。


夕暮れの街を歩き、自宅へ帰る。

玄関の扉を開けると、南が優しく微笑んでいた。


「おかえり、瞬」


「ああ……ただいま」


笑顔で答えたはずなのに、胸の奥には消えない痛みが残っていた。

ふと、今日出会った子供の瞳を思い出す。

あの真っ直ぐな眼差しは、出会った頃の雨音の瞳と、どこか重なって見えた。


行方不明になった雨音の子供…、不可解な雨音の死。

その答えを見つける為に俺は刑事を続ける、そう心に誓った。




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