14
夜の静寂を破るように、テーブルの上に置いたスマートフォンが震えた。
画面には――
<南>
その名前が表示されている。
着信音だけが部屋に響く。
俺はしばらく画面を見つめていたが、通話ボタンには触れなかった。
やがて着信は途切れ、部屋は再び静寂に包まれる。
俺はゆっくりと顔を上げた。
雨音は何も言わず、ただ俺を見つめている。
互いに言葉はなかった。
その沈黙の中で、俺は雨音の頬に触れる。
理性では止めなければならないとわかっていた。
刑事として。
恋人がいる一人の男として。
それでも、この想いを押し止めることはできなかった。
俺はそっと雨音に口づけた。
それに応える様に雨音は俺の耳元に顔を近づけ、静かに言った。
「もっと……」
その夜、俺は一線を越えてしまった。
どれほど自分に言い訳を並べても、その事実だけは変わらなかった。
――翌朝。
簡易ベッドの上、カーテンの隙間から差し込む朝日で目が覚める。
重いまぶたを開き、隣へ視線を向けた。
誰もいない。
「……雨音?」
返事はない。
俺は勢いよく起き上がり、部屋を見回す。
浴室にも、キッチンにも姿はなかった。
しばらくして、テーブルの上に一枚の紙が置かれていることに気づく。
震える手でその紙を手に取った。
そこには、雨音が書いたと思われるメッセージが残されていた。
『最後に見たい花火を見にいくね。
さよなら』
一瞬、頭が真っ白になる。
「……何言ってるんだ」
嫌な予感が胸を締めつけた。
俺は急いで服を着替え、財布とスマートフォンをつかむ。
靴もまともに履かないまま玄関を飛び出した。
エレベーターを待つ時間すら惜しく、階段を駆け下りる。
マンションの外へ飛び出し、辺りを見回す。
人影はある。
だが、その中に雨音の姿はなかった。
朝の風だけが静かに吹き抜けていく。
「雨音……!」
俺の声は、誰にも届かないまま街の喧騒へ溶けていった。




