7話
翔太郎は、刑事に突きつけられた言葉を胸に抱えたまま、大学のキャンパスを歩いていた。自分の生活習慣と原稿の細部が結びつけられ、犯人像として固められていく。無実を訴えるほど、証拠は自分を指し示す。だが、それでも彼は諦められなかった。真犯人を見つけるしかない。
昼休み、翔太郎は大学のカフェテラスに腰を下ろした。紙コップのコーヒーを握りしめながら、視線は人の流れを追っていた。疑わしい人物――ゼミ仲間の一人が、事件直前に図書館から慌ただしく出ていく姿を見た記憶がある。あの時の違和感が、頭から離れなかった。
彼は立ち上がり、距離を保ちながらその人物を追った。カフェを出て、キャンパスの階段を下り、書店の前を通り抜ける。翔太郎は柱の影に身を寄せ、相手の動きを観察した。だが、周囲の学生たちはその様子を見ていた。
「鳥越、また誰かを監視してる」
「やっぱり怪しいよな」
囁きは広がり、翔太郎の孤立は決定的になっていった。
夕方、八雲パーシモンホールの図書館に足を運ぶと、喫煙所の前で職員が冷たい視線を向けてきた。
「また来ている……」
その一言は、翔太郎を不審者として扱う烙印だった。
彼は灰皿の前で立ち尽くし、周囲を観察した。疑わしい人物がここに来るのではないかと期待したが、現れたのは電子タバコを吸う学生ばかりだった。紙タバコの煙はなく、翔太郎の存在だけが浮き上がっていた。
翌日、翔太郎は電車に乗り、疑わしい人物の後を追った。車内で距離を保ちながら視線を送る。だが、周囲の乗客はその様子を怪訝そうに見ていた。
「ストーカーじゃないか?」
小さな声が耳に届き、翔太郎の心臓は跳ねた。
追跡は成果を生まなかった。むしろ「監視している」「危険な存在だ」という噂が広がり、彼の孤立は社会的に決定的になった。友人たちは視線を合わせなくなり、昼休みの輪からも外される。教室の隅に座っても、隣の席は空いたままだった。
夜、マンションに戻った翔太郎は、窓の外を見つめた。街灯の下を歩く人々の姿が、すべて自分を避けているように見えた。追跡は失敗し、孤立は深まるばかり。だが、彼はまだ諦められなかった。真犯人を見つけるために――。
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翌週、翔太郎はさらに大胆な行動に出た。大学の掲示板やSNSに流れる噂を追い、事件に関心を示している学生の名前をリスト化した。そこには、ゼミ仲間だけでなく、サークル外の人物も含まれていた。彼はその一人ひとりを観察し、行動パターンを記録し始めた。
図書館の閲覧席では、疑わしい人物がノートに何かを書き込んでいるのを見た。翔太郎は背後から覗き込もうとしたが、すぐに気づかれて睨まれた。周囲の学生がざわめき、彼は慌てて席を離れた。
「やっぱり鳥越だよ、危ないって」
「事件のことに取り憑かれてるんだ」
その声は、もはや囁きではなく、明確な烙印だった。
夜の街でも、翔太郎は疑わしい人物を追った。居酒屋の前で立ち止まり、店に入る様子を観察する。だが、通りすがりの人々が彼を振り返り、スマートフォンで写真を撮る者まで現れた。翌日には匿名掲示板に「大学のストーカー」として彼の姿が投稿されていた。
マンションに戻った翔太郎は、パソコンを開き、掲示板の書き込みを確認した。そこには「事件の犯人は鳥越だ」「監視魔」「危険人物」といった言葉が並んでいた。彼は画面を閉じ、頭を抱えた。
「違う……俺は犯人じゃない……」
だが、社会はすでに彼を犯人として扱い始めていた。




