表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
次期公爵閣下は若奥様を猫可愛がりしたい!  作者: 橘ハルシ
第六章 夫妻の穏やかな日々 (短編集)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
79/80

79、小さな日常 遊びましょう! 中編


「シルフィア、足遅いな」

「シルフィアちゃんはもっと必死で逃げたほうがいいよ」

「……ハイ、すみません」


 追いかけっこという遊びは、とにかく走り続けるもので、5回したところで力尽きた。そして、5回とも私が最初から最後まで追いかける役で終わった。


 皆さん、どうしてそんなに速く走れるのですか!?


 ぜーぜー言いながらルイーゼに渡されたお水を飲んでいたら、私を労るような哀れむような目をした子供達が服を引っ張った。


「次はかくれんぼしようよ! 大丈夫、かくれてるだけだから走らないよ」


 かくれんぼというのは、じゃんけんで負けた人以外があちこちに隠れて、それを見つけていく遊びらしい。


 それなら、もうひとつの縄跳びはどんな遊びかと聞いてみたら、追いかけっこくらい動くし、絶対シルフィアは引っかかって続かないからと即座に却下されてしまった。


 なるほど。かくれんぼは私もできそうなのかな?


 早速始めようと皆で輪になってじゃんけんをしたら、見事に私が負けたので、探す人になった。


 ……うーん。私、負けてばかりだけど、じゃんけんが強くなるにはどうすれば?



「あ、見つけましたよ。ほら、そこの木の上にも一人」


 足の遅さやじゃんけんの弱さに悩んだものの、かくれんぼは向いていたらしい。


 次々隠れている子供達を見つけて驚かれた。何故かは分からないけど、歩いていると誰かが隠れているって気がつくのだ。



「はい、十人目です。これで全員ですか?」

「全員だねー。シルフィアちゃん、かくれんぼは強いんだね」

「僕、絶対に見つからないと思ってたのに。なんで分かったの?」

「ええと……説明しづらいのですが、なんとなく、そこに人がいるな、と」

「なんとなくじゃ、僕達真似できないじゃん」

「すみません」

「まあ、そいつはシルフィアさんの経験値じゃないかね。皆も大人になったら、すぐ見つけられるようになるかもしれんぞ」


 庭仕事をしながら、ニコニコと子供達を見守っていたロメオさんがとりなしてくれた。


「何言ってんだよ、ロメオさん。かくれんぼは子供がやるもんで、大人になったらやらないだろ」

「えっ!? 子供しかしてはいけなかったのですか!?」

「そりゃそうでしょ。大人は本気でこんなことやらないわ」


 ……私は、やってはいけない遊びをしてたのですか!?


 大人だとバレたら怒られるのではとショックで震えていたら、子供達が訝しげな表情で顔を覗き込んできた。


「シルフィアちゃん、どーしたの?」

「そういえば、シルフィアって何歳? 僕十二歳だけど、同じくらい?」

「………………じゅ、十八歳です」

「えっ」


 その場に沈黙が落ちた。


「……シルフィアちゃんて大人だったんだ! すごい、全然、そう見えない!」

「オレ知ってる! そういうの若作りっていうんだろ」


 すかさずロメオさんが、叫んだ男の子の口を塞ぐ。


「いいか、チーロ。若作りってえ言葉はあるが、シルフィアさんにゃ当てはまらねえ」


 ちょっと怖い声で言い聞かせるとチーロと呼ばれた男の子が高速で首を縦に振った。


「わかった、大丈夫、もう言わない」


 ……どうやら、若作りって言っちゃダメな言葉のようですね。私も言わないように気をつけます。


「……でも、シルフィアちゃんは、大人なのになんでかくれんぼとか知らなかったの?」


 大きく首を傾げて不思議そうに尋ねられ、言葉を探す。


 生きるために必死だったし、かくれんぼを教えてくれる人なんていなかったとは、なんとなく言い難かった。


「ハイ。その、……子供の頃は……遊ぶ余裕がなかったものですから」


「そっか、シルフィアちゃんも貧乏なお家だったんだね。ここに来たらよかったのに」

「ねー。ここなら叩かれたりしないし、ごはんたくさん食べられるし、かくれんぼで遊べたのに」


 ああ、ここの子供達は、私と同じような境遇だったんだ。今は幸せそうでよかった。


「私の生まれたところは、ここからずっとずっと遠くにある国だったのです」

「そうだったんだ。じゃ、今日はみんなといっぱい遊ぼ」

「あの、私は大人ですが、いいのでしょうか?」

「いいよ。ロメオさんも時々僕らとかくれんぼしてくれるから、大丈夫。シルフィアちゃん、やろ!」


 大人はかくれんぼをやらないのに、ロメオさんは時々するのですか!? ……かくれんぼ、謎の遊びです。



「じゃ、今度はシルフィアが隠れる番な!」


 その一声で私が最初に見つけた子が探す役になり、私は隠れる場所を探すべく庭の一角にある林へ向かった。


 この施設は街の中だというのに広い庭があり、塀の側にはたくさんの木と植物が生い茂っていた。


 よし、この低木の中に潜り込んで隠れよう。


 地面に両手をついてパキパキ小さな音をたてながら枝の間をかき分けて奥へ奥へと進む。


 今日の服は汚れても大丈夫だって、ウータさんも言ってたから平気。


 良さげな隙間を見つけて体をねじ込み、ホッと息をついた。


 ……これで、安心。誰にも見つからない。


 膝を抱えて座り込み、目を閉じれば周囲の音が聞こえてきた。


 子供たちが走る振動、元気に呼ぶ声。


「あ、チーロみつけた」

「シルフィアちゃんは?」

「わからない。どこかな」

「探せ探せー!」


 複数の足音が近づいてくる。その気配に首を竦めた瞬間、頭の中で何かがパチンッと弾けた。


 見つかりたくない! 見つかったら、また暴力を振るわれる!


 ぎゅうっと身を縮めて気配を消す。


『あのゴミクズは何処だ!』

『またバカにされた、ムシャクシャする! アイツを殴らないと気が収まらない!』

『ああ、汚い。見つけたら水をかけて庭の小屋に閉じ込めておいて!』


 私が、何をしたというの。どうしてあの人達はあんなに私を嫌うの。いっそ、城の外に追い出してくれればよかったのに。


 怖い、悲しい、このまま見つからなければいいのに。


 私は誰からも見えなくなりたいと願いながら足を抱えている腕に力を入れた。


 

「…………フィー……フィーア。そこにいるよね?」


 必死で気配を隠していたのに、誰かに見つかった! でも、声が怖くない。それに、フィーアって誰のこと?


 ……あれ、ここはどこだっけ? お城の階段下? 物置きのゴミ箱の陰? 庭の落ち葉入れ?


「シルフィア、怪我してるの?」


 私を気遣ってくれてる? そんな人いた?


「シルフィア様、そこにおられるのですか!?」

「シルフィアちゃん、出てきてー!」


 どうしたのだろう? いつもみたいに怒鳴ってないから怖くない。でも、シルフィアって誰のこと? わからないけど、ちょっとだけ様子を見てみようかな?


 勇気を出して顔を上げる。しゃがみ込んでいる木々の絡まった細い枝の隙間から透かし見れば、薄青の瞳と視線がぶつかった。


「テオ!」


 勝手に口から飛び出したその小さな叫びで、世界がひらけた。


 そうだ、シルフィアは私の名前だ! そして、フィーアは大好きな人が呼んでくれる私の愛称だ!


 思い出した途端、身体は繁みから飛び出し、目の前にいた薄青の瞳の人にしがみついていた。


「テオがいます」

「うん、僕はここにいるよ。フィーアを迎えにきたんだ」


 そうだ、私はテオと結婚してあの人達から逃げられたんだった。今日は、テオが学院に行っている間、子供達におやつを届けにきて、かくれんぼをしていたのだった。

 

「かくれんぼをしていたら、昔、あの人達から逃げて隠れていたことを思い出して怖くなって……」


 知らず、テオの服を掴む手に力が入る。


「大丈夫だよ。君を追いかけてきて暴力を振るう人はここにはいないから」


 ぎゅううっとテオの腕にも力が籠もって息苦しくなったけど、同時に世界で一番安心安全な場所にいると感じられて嬉しかった。


 そっとテオの胸に頬を擦り寄せてホッと息を吐く。


「それにしてもシルフィア様は隠れるのがお上手ですね。テオドール様が来るまで誰も見つけられず、大変でしたよ」


 フリッツさんの声でパッと顔を上げて周りを見渡せば、ルイーゼやロメオさん、子供達が心配そうに私を見ていた。


「わ、私、すみません……」


 はずかしくなって慌ててテオの腕から抜けだそうとしたら、身体が宙に浮いた。


「テオ!?」

「いいなあ、シルフィアちゃん。王子様に抱っこされてお姫様みたい」

「そうだよ。シルフィアは僕だけのお姫様だからね」


 テオが得意げに答えて、私は顔が熱くなった。


 ■■


「シルフィアちゃん、今度はかくれんぼ以外で遊ぼうね!」

「ハイ、またいろんな遊びを教えてください」

「おやつもいっぱい持ってきてよ」

「もちろんです!」


 子供達と手を振って別れるとテオと手をつないで路地を歩く。行きと違ってちっとも怖くないし、私も家族と家に帰っていると思うと足が軽く飛び跳ねそうだった。


「テオはどうして私のいる場所がわかったのですか?」


 他の人は見つけられなかったのに、と不思議に思って尋ねれば、同じような顔で見返された。


「フィーアの気配だよ? 僕にわからないわけないじゃない。いいかい、フィーア。何かあったら今日みたいに安全な所に隠れててね、僕が絶対見つけて助けに行くから」


 まあ、そんなことにならないようにするのが一番大事だけど、と続けるテオに私は小指を差出た。


「わかりました。約束ですよ、どこにいても私を見つけてくださいね!」


 テオが見つけてくれるなら、きっともうかくれんぼも怖くない。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


大人はもう遊ぶ体力がない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ