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第4-1話 私を変えてくれた人

 学院内の奥の森は魔法省が管理しており、第1区域から第13区域まで魔森(ましん)エリアが広がっている。危険レベルに応じた区域に振り分けられるのだが、それでも年間行方不明者あるいは負傷者が出るそうだ。


 この区域では学院の特別な行事以外は、特定の人間しか入場許可が下りない。そして全てが自己責任となる。まあ当然よね。辺境地の森周辺は、それが普通だし……。


 私とヴィンセント先輩が訪れたのは、()()()()()1()3()()()、幻獣から猛獣の巣窟と言われている。

 同伴者の場合は、区画が制限って言っていませんでしたっけ? まあ、実力を手っ取り早く見せるのなら、ちょうど良いのかも?

 それとも推薦枠に推したから、上位区域に?


「今回は特別許可をもらったのよ。実力テストでダントツ1位だったし、辺境領出身ということで、推薦候補確定。ただちょっと実績が見たいってことらしいわ」

「分かりました! 正直ドラゴンとかを相手に単騎で挑めとか、魔物暴走モンスター・スタンピードや、大量のゴブリンロード殲滅戦よりずっと楽です!」


 ヴィンセント先輩は「何そのオーダー、怖っ」と言っているので、やっぱりこの世界でも普通じゃないようだ。やっぱり辺境領の大人たちのスペックがおかしいのね。


「場所は13区画、1時間半限定でどこまで狩りができるかが今回の課題よ」

「はい!」


 鬱蒼と生い茂る黒い森が空を覆うように聳え立つ中、私たちは狩りに手子摺ることもなく、素材集めに勤しんでいた。

 魔素濃度がかなり高いからか、気性の荒い魔物が次から次へとやって来る。しかも霧と黒い木々が密集しているので、視界と障害物が多く動きづらい。


風の刃(ウェントス・ラーミナ)


 すごっ!

 ヴィンセント先輩の一振りで黒千杉と呼ばれている木々を飴細工のように切り裂き、その背後に隠れていた二本角虎(ダブル・タイガー)も一撃で絶命させた。

 ドドドッ、と木々と巨体が倒れて、周囲には土煙が巻き起こる。


「刀身まで魔法で形成する魔法剣って初めて見ましたけど、すごいですね!」

「ふふふっ。刀身があってもいいのだけど、魔力を込めると刀身が耐えられなくて砕けちゃうから、いっそ柄だけにしているのよ」

「その発想もそうですが、難なく状態維持しながら魔力操作するだけでも凄いです!」

「ふふん、それほど──でもあるかしら」


 柄のみの剣は魔力で刀身を形成するのだが、形を留めておくだけでも魔力コントロール、魔力量、センス、集中力が必要不可欠だったりする。この魔法剣のメリットは、対人戦において刀身の長さや魔法の属性などを自在に変えられることだ。相手に刀身の長さを錯覚させられるのは、戦闘の駆け引きの際にも優位に立てる。


 目から得られる情報で勘違いさせる──そういう駆け引きもあるのだと、ヴィンセント先輩を見て知ったし、先輩の実力が相当なものだと実感した。

 お洒落なだけじゃなくて、強くて凄い人だった! さすが特待生。


「まあ、私の場合は魔力コントロールが大雑把だから、素材を痛めないようにするのって結構難しいのよ。昔は倒せれば良いと思っていたせいね。はぁ」

「確かに今の攻撃では、毛皮にできそうなのは四分の一もないかも?」

「ええ……!」

「……! 魔糸魔法(フィールム・マギカ)(アクス)


 私は背後に隠れ潜んでいた二本角虎(ダブル・タイガー)の心臓めがけて、魔糸魔法で形成した針で潰す。「グォア」と呻き声を上げて倒したのち、素早く素材を切り分ける。


「あら♪ お見事」

「ありがとうございます」


 魔獣の血は猛毒なので傷口が大きけば大きいほど、毛皮などの素材にできる部分が減ってしまうのだ。


 その点、私の狩りは静かだし超地味だ。

 ド派手な魔法陣が展開されることもないし、派手な爆音などもない。それでも緻密かつ繊細な魔力コントロールや集中力が必要となるので、一朝一夕ではできないのだけれど、華やかさはないのは事実だ。


 魔物を感知、瞬時に魔糸魔法を駆使して心臓を止めて、すぐに素材似できる部分を切り分けて格納。辺境地の森は次々と魔物が来るので強さも大事だけれど、手際なども優先される。


 上半身が鷹で、下半身がライオンの上位魔獣空王グルフォン。漆黒の炎を纏った黒い犬ヘルハウンド、鹿のような角を生やした暴食兎グラトニー・ラビットの群れと次から次へと現れる。

 グリフォンなら質の良い羽根で、お布団が作れる。爪や嘴は加工すれば魔導具に使えるだろう。毛皮も良い値が付く。ヘルハウンドは毛皮が超高級品。ブラトニー・ラビットは角が薬になるし、毛皮も高価だ。なぜならブラトニー・ラビットは集団行動をするので、倒したら共食いを始めるため一撃で広範囲魔法を撃つ、あるいは昏倒させないと素材としては使い物にならないのだ。


 私とヴィンセント先輩は、猛獣だらけの森を散歩する感覚で歩く。それにしてもヴィンセント先輩は敵を感知してからの動きが速いし、無駄がない。周辺に感知の網を張っている私とは大違いだわ。

 今回は一時間半で帰還しなければならないので、さくさくと奥へと進んだ。


「無駄な動作のない、実に合理的な狩りだわ。貴女をパートナーに選んで正解だったわね。さすが私!」

「はい! 先輩の戦いから色々学ばせて貰っています!」

「ふふっ、どんどん私から学びなさい。そして自分の自信を取り戻すの」

「……!」


 ヴィンセント先輩は演舞のように斬撃を繰り出しながら、自信満々に私に言う。その圧倒的な強さが、眩しい。


「貴女は地味でもなければ、華がないなんて嘘よ。只今までは貴女の美しさを隠すことで自分を守っていたけれど、今の貴女の強さなら隠す方がマイナスだわ。だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。卓越した技術と膨大な魔力、研ぎ澄まされた強さを持つのだから」

「ヴィンセント先輩……!」


 名前呼び。しかも呼び捨てだなんて!

 この人は私のことをパートナーとして、対等に見てくれている。

 先輩と出会ったばかりなのに、私のほしくてたまらなかった言葉をくれる。外見だけじゃなくて、気遣いもできる思いやりにある素敵な方だわ。


「先輩、ありがとうございます。実力テストや実技でも地味だから反応も薄くて、不正だとか実家が手を回したとか……ちょっと自信がなくなっていたんです」

「いいのよ。シンシアの素晴らしさは、これからきっと理解されていくわ。それこそ目に見えた派手さだけが強いわけじゃないもの。もっと自信を持ちなさい! そして笑顔。()()()()()()()()()

「笑顔……」

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