第3-1話 私、変わります!
「そんなことないです! 私、まったくもって美的センスがないというか、そういう機会が少なくて! だから先輩が、その、もし良ければ……」
「よければ?」
少し困惑したような、何を言い出すのだろうと言った目だったので、思い切って頼んでみる。
「これも何かの縁なので、私にお洒落を教えてくれませんか!?」
「え。……僕が?」
「はい! だって先輩の髪はとても艶があって手入れもしっかりしているし、爪のマニキュアも可愛いです! 私よりもお洒落が分かっているなら、協力してください! 私、婚約者にギャフンと言わせたいんです!」
きっとこの人なら、的確なアドバイスをくれる。そうなんとなく思ったのだ。学院の噂を知っているか分からないけれど、普通に接してくれるこの人なら──。
「褒めてくれて……嬉しいよ。でも、僕は……あんまり誰とも関わりたくないというか……」
「でしたら先輩の望む素材は私が用意します。辺境地でいろんな素材を集めていたので、好きに使っていいですから!」
「え」
なおも食い下がり、亜空間ポケットから珍しそうな布や魔導具に使われる素材を広げてみた。先ほども素材を見せて驚いていたのだ、これなら少しは心が動くのではないか。そう期待したのだが、私の出した素材の山を見た瞬間、先輩は豹変する。
前髪を掻き上げ、雰囲気がガラリと変わった。
「ちょ、まさかこれは特一級幻獣シリーズ、不死鳥の羽根!? 幻想魔鉱石、まさか燃える石の涙!? 第一級幻獣シリーズ三つ頭の獣の牙に幻獣シリーズ白銀二足竜の鱗に、角、羽根も保管状態が最高じゃない!? きゃあああああー! 蚕の布も色んなものがあるし、毛皮なんて…………専門店でもここまでの品揃えはないわ! ああ、新しいデザインが閃きそう! ペン、そして紙!」
これは──いける!?
突然の女口調とハイテンションに驚きつつも、もう一押しと、勢い任せに口を開く。
「こちらの素材は前金です。私が変わるために、協力してくだされば全て差し上げますわ!」
「なんですってーーーー! これだけのお宝を前にしてそんなこと言われたら、乗るしかないじゃない! いいわ、引き受けてあげる!」
「やった! ありがとうございます!」
飛び上がり、ヴィンセント先輩とハイタッチをしてお互いに喜び合う。「イエェイ」と友人のように話ができたことにも内心で喜んでいると、先輩はハッとした顔で冷静さを取り戻す。
「……今さらかもしれないけれど、私の口調や変化に驚かないし、引かないのね。サラッと受け入れてビックリだわ」
「え? 口調が変わったのはビックリしましたけど、それが先輩の個性なら別に気にしないというか、素で喜んでいる先輩はキラキラしていて綺麗だなって思いました」
ヴィンセント先輩は毛先を弄りながら、私から視線を逸らした。
「ふうん。……こんな口調で話しても『男らしくない』とか、『気持ち悪い』って思わないで普通に接してくれたのは、家族以外で初めてかも」
「そうですか?(前世で入院時にオネエ系の人と仲良くなったことがあったから、あんまり抵抗がないのよね)……まあ、辺境地は毎日不思議なことばかり起こるので、色んな個性的な方もいらっしゃるのですよ」
「そうなの?」
「はい」
「まあ、あれだけのレアな素材を簡単に出せるのだから、そうなんでしょうね。いろいろ納得したわ」
ああ、久しぶりに会話が続いてる。そう学院生活と言ったらこういう弾むような会話がしたかったの。ウキウキしていると、ヴィンセント先輩は色々納得したようだ。
「なるほど、辺境地の強さは折り紙付きってことね。……でもそれなら」
「ヴィンセント先輩?」
「辺境伯といったら人間と魔界の境界を守る番人として、国王陛下から称号をいただいている格式ある家柄なはずだけど、どうしてそんなに野暮ったい服装なのかしら? それなりに良い暮らしをしているわよね?」
「あ、それはですね……」
ヴィンセント先輩は私の周りをぐるぐると回りながら、服装チェックをする。「お洒落を教えてほしい以前の問題じゃないかしら? 素材は悪くないのになんで?」とブツブツ呟いている。
彼は前髪を掻き上げて、軽く三つ編みをしただけで目鼻立ちの整った偉丈夫へと早変わりする。顔のパーツが良いとこんなにも違うのかと、衝撃を受けた。
「(か、格好よすぎる! 妖艶さが増した)──っ!?」
「シンシア嬢?」
「(見惚れたとか言えない)……あ、えっと。兄と父が過保護で、吸血鬼族と人狼族と人魚族への求愛対策なのです『眼鏡と三つ編みは幼い頃から付けるように』って言われていたの……です」
「へえ。あの面食いどもから守るために……か。ねえ、眼鏡を外して、髪も解いてくれる?」
「は、はい!」
眼鏡は伊達だし、魅了防止の付与魔法が施されている。髪型の紐はどんなに走っても取れない頑丈なもので、解くのに順序が必要だったりするのだ。
シュルリと紐を解くと、くすんだ黄色の髪が一瞬で艶のある亜麻色に染まる。眼鏡を取ると瞳も琥珀色に戻った。くせ毛なのだが、ヴィンセント先輩は「まあまあ」と嬉しそうだ。
「雰囲気がガラって変わるわね!」
「そ、そうですか?」
「ええ! そうね。……これと、これと……ああ、これなんかも良さそう」
深緑色の学生服をアレンジした膝下まであるワンピースドレスは、黒のリボンとレースがふんだんに使われていて可愛い。黒のストッキングに、焦げ茶色のブーツを渡される。早速、コーディネートしてくれるなんて、凄いわ!
「じゃあ、これに着替えてみて。髪はせっかくだから一房だけ三つ編みにしてみましょうか。ふふふっ、腕が鳴るわ!」
「よ、よろしくお願いします!」
***
十五分後。
姿見鏡の前に佇むと自分とは思えない程、可愛い女の子が佇んでいた。思わずぐるりと回ってみたら、スカートとリボンが華麗に揺れてすごく可愛い!
「これがヴィンセント先輩のコーディネート力! すごい!」
「ちょっと工夫しただけで、たいしたことな──」
「すごいですよ! 魔法みたい。やっぱりヴィンセント先輩はセンスいいです! 天才です! 尊敬します」
コーディネートの感想を伝えると、最初は謙遜していたけれど口元が緩んでいる。あ、笑った姿も素敵だわ。
「……んー、まあ。それほどでもあるかしら」
「先輩にコーディネートを頼んで正解でした。ありがとうございます!」
「──って、元々素材がよかったのをちょっと工夫しただけよ。……ぶっちゃけ、眼鏡と髪型を変えるだけで全然違うでしょう。うん、可愛い!」
ドキリとした。
王都に来て初めて可愛いって言って貰えた気がする。嬉しい。私、こんなに単純だったかな?
ここ数カ月、まともに会話した人がいなかったから?
「ありがとうございます。……お風呂上がりはすぐに三つ編みにしちゃうし、眼鏡も癖ですぐにかけるから、自分でもびっくりです」
「そっちのほうが驚きだわ。でも磨いたら磨いただけ綺麗になると思うから、まずは眼鏡と髪を止めて、爪は……あら、マニキュアとかはしてないけれど、手入れはしっかりしているのね。偉いわ」
ヴィンセント先輩は、よく見ているのね。
気づいてくれたことが嬉しくて、何度も頷いた。
「はい! 魔法属性的に指先はできるだけ気をつけているのです」
「あらそうなの? ちなみにどんな魔法?」
興味を持って貰えて嬉しいと思う反面、今までレックスや周囲の生徒の「地味」と言うことを思い出して、今までのワクワクした気持ちが冷えていく。
「その……魔糸魔法です」
「ふうん?(え、まさか特級魔法使いが使える、アレじゃないわよね? 偶然にも名前が同じ?)……あー、えっと……その魔法、どんなことができるのかしら?」
「はい、周囲に漂っている魔素を細い糸に具現化させて、編むのです。攻撃は魔糸を使って心臓を貫くので、魔物の素材を余すことなく回収できるからとっても便利なのですが……こう、華やかさに掛けるので地味、ですよね」
「…………」
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