第10-2話 顔合わせ
「二人で組んでならいけるけど、単独は結構エグい。特に後行だと最悪一人で白水蛇と鳥蜂を相手取らないといけないもの」
「あ。そっか。先行で敵に気付かれた場合、魔物は当然警戒するしピリピリしているものね」
「そうッス。むしろシンシアと先輩さんのやり方は二極化し過ぎて、あんまり参考にならないッスね」
「あははは……」
と言うことでアンジェとキャリーの図書館入りは、もう少し実績を積んでからトライすると言うことになり、当初の予定通りヴィンセント先輩の特別教室を貸してもらうことになった。
今日は朝から勉強会をするということで、通常授業が始まった段階で私とアンジェとキャシーはヴィンセント先輩の特別教室に向かった。
出迎えたヴィンセント先輩は一番最初に会った時と同じく、前髪で顔を隠して規定通りの制服を着こなしていた。懐かしい。
「それじゃあ、特別教室のレンタル代として、一年生の二人にはデザインのモデルになってほしい」
「「「モデル!?」」」
レンタル代とか聞いてなかったので、私も驚いてしまった。
「ヴィンセント先輩! レンタル代って……!」
「ん? ああ、冗談だよ。ただ二人を見ていてインスピレーションが湧いたから思いつきで言ってみたんだ」
「そう、なんですね……(やっぱりヴィンセント先輩もアンジェやキャシーのような人のほうが……好み??)」
そう思うと胸がズキズキと痛む。ちょっと芽生えてきた自信があっという間に崩れそうだ。
「シンシアは私がプロデュースするって言ったのだから、すでにモデルよりも特別だって分かっている?」
「ひゃぅ!?」
私だけに聞こえるように耳元で囁く。声音や口調が一瞬で変わってしまうので、心臓に悪い。
「「ふーん」」
何故かアンジェとキャリーは、私を見てニヤニヤしていた。なんだか心の中を覗かれた気分だ。なんだろう。あとで質問攻めが来そうな予感がする。
「ふ、二人ともせっかくここを貸して貰えるのですから、勉強開始です!」
「わかったわ」
「はいッス」
「(最近、シンシアの表情も明るくなった。それが彼女たちの存在だっていうのは心強いだろうけれど、少し嫉妬してしまうわ)聞いていたとおり仲良しだね」
「はい」
いつもとは違うヴィンセント先輩の口調にちょっとドキドキしてしまう。「私」じゃなくて「僕」というのは新鮮な気がするけれど、ちょっと慣れていない感じがする。
「僕も好きに過ごすからあまり騒ぎすぎないのなら、自由にして構わない」
「ありがとうございます! あ、そうだ。ヴィンセント先輩に渡したい物があるんです! この場所を提供してくださる手土産的な感じです」
「なに?(そういうしっかりしているところも良いわね)」
きっと喜んで貰えると亜空間ポケットに入れておいた木箱を、取り出す。
「昔実家で輝銀針鼠の針を加工してみたので、貰ってください」
「「「!??」」」
せっかくなので木箱に入れて差し出したのだが、ヴィンセント先輩は固まっていた。そして傍に居たアンジェとキャリーもだ。
あれ? この感じは前にもあったような?
「ちょ、ちょっとーーーーーーー!! 輝銀針鼠って伝説級の魔物なのよ!? いるかどうかも分からないのに!! 手土産感覚で渡す物じゃないわよ!!」
「そうッス! 輝銀針鼠が数十年に一度、群れで移動するッスけれど、進行方向にあった村や町は壊滅状態になったッスよ!」
「貴族の間でもオークションで久しく見ない伝説級の魔物ですわ!」
「えぇ……?」
アンジェとキャリーは魔物関係になると博識なのに、どうして通常の歴史は覚えないのだろう。
「あー、私の領地では十年に一度群れで移動しているんです。それで数が増えすぎず、減りすぎないようにって養育してます」
「あーー、そう、なるほど?(シンシアの常識が可笑しいのに慣れてきたと思っていたのに、私もまだまだね)」
「怖っ!」
「アレをなんとかできちゃうッスか」
皆の反応を見るに、やっぱり辺境地は可笑しいらしい。もっとも隣の領地が人外の地なのだから、非常識は今更だ。結構シリアスなファンタスティックな世界だと思っていたけれど、普通よりも強くてよかったはよかったかも。
「シンシア、これ。本当に貰っちゃっていいの? 金貨にしたら一緒遊んで暮らせるわよ」
「あ、はい。その針で糸と布を縫い止めると素材に合った加護が増幅するらしいので、私よりもヴィンセント先輩が使ったほうが良いと思うのです」
「ありがとう、シンシア(あああああああああーーーー、なんて良い子なの。可愛い。私の欲しい物を理解して贈物だなんて! そして今回のことで変なのに騙されないか不安になったわ。この一年二人もシンシアの有能生に気付いて、素材を強請ったり、利用するようなら潰す)」
ヴィンセント先輩が感動して素が出てしまっていたが、アンジェもキャリーも別段指摘しなかったので安堵した。それよりも輝銀針鼠に興味津々のようだ。
「シンシア、今度輝銀針鼠の仕留め方とかコツがあったら教えてほしいッス! あ、情報料なら良い値で買うッス」
「わたくしはいつか輝銀針鼠や伝説級の魔物と戦ってみたい。シンシアの実家に遊びに行ってみたいわ!」
「もちろんです! 実家に来たら森を案内しますね!」
「(あ、この二人は大丈夫そうかも)……」
ほっこりしているヴィンセント先輩と目が合った。熱の籠もった眼差しが私の胸を射貫く。
「あら私もちゃんと挨拶をしに行きたいわ」
「!??」
きゃっきゃばかりして勉強が進んでいないのでは、いけないと思いその後は小まめに休憩を取りつつ勉強に励んだ。
でも先ほどのヴィンセント先輩の言葉が耳に残って、心臓がバクバクしたのは──みんなには内緒だ。
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