第10-1話 顔合わせ
私が色んな意味で落ち着くまで、ヴィンセント先輩はずっと隣にいてくれた。掴んでくれた手の温もりが酷く熱い。途中でお互いに照れて、目を合わせるのに一時間ほど掛かった。
「その、私は世界の伝承や神話、素材となる幻獣シリーズ図鑑が読みたい……です」
「ふうん、意外。可愛いけれど。……名作と言われた恋愛小説とか冒険譚とかは読まないの?」
「この世界そんな高尚なものが存在しているのですか? 読みたいです、是非!」
「まあ!(ぐいぐい来るシンシアも可愛いわね! あー、目をキラキラさせちゃって)」
まさか恋愛小説などがこの世界にもあるなんて大発見だ。そういえば図書館で読んでいたのは、専門的なものや辺境地にない内容のものばかりだった。こんなことなら別のコーナーもしっかり見ておけば良かったと後悔する。
でも恋愛や占い関係のコーナーはいつも人が居て、遠慮しちゃっていたのよね。
「存在自体を知らなかったのね。ああ、もう。目を丸くして、子ウサギのように震えて可愛い。どれだけ私をドギマギさせるつもりなのかしら。罪作りな子ね」
「(先輩がまた独特な褒め言葉を炸裂させている)……あの、ヴィンセント先輩、連れてきてくださって本当にありがとうございます」
笑顔が大事だと言ってくれたことを思い出し、感謝の気持ちと共に微笑んだのだが、ヴィンセント先輩の反応がない。よく見ると耳まで真っ赤になっているではないか。
何故か分からないけれど、目が潤んでいる? どうして?
「──っ、すごい破壊力だわ」
「?」
「何でもない。ほーら、ささっと本を見つけてソファで読みましょう。このままじゃ、私の心臓が持ちそうにない。理性がゴリゴリ削られるのよ……」
「?」
「小首を傾げて、あああーー、もう。本当にずるいわ」
ぼそぼそと呟いていた先輩の頬は、まだ赤い。あんな綺麗な人が頬を染めるなんて思わなかったので、遅れて私の頬も熱くなる。
これじゃあ、まるで……。
ブンブンと首を横に振って本選びに集中する。学院にもなかった貴重な本にウットリしてしまう。読みたかった本、興味を引くタイトル、芸術的な背表紙……。どれもこれも面白そうで困る。
「あ。……最初は五冊にしておきなさいよ」
「じゅうごさつ?」
元の世界ではそのぐらい借りれた──はず。
「五冊よ! わざと聞き間違えたでしょう!」
「じゅっさつ……?」
この素晴らしい本の数々の中で十冊を選ぶだけでも、悩むというのにその半分と聞いて卒倒しそうになった。
「五冊よ! もう。とぼけている顔も可愛いわね! 一度五冊選んで読み終わったら、借りるかどうか考えてから他の本も読んでみれば良いわ」
「(ハッ、そうだわ。ここで読むという選択肢があった)はい!」
その後、色んな本を探してはソファで真剣に本を読んで過ごした。
ヴィンセント先輩はデザインやファッション系の本が多かったが、『象徴から得る加護』『付与魔法と刺繍』『紋章と刺繍と付与魔法』などにも熱心だった。
すごい集中力だわ。
図書館内には宿泊施設も併設しており、私のような本好きが時間を忘れて読みふけってしまうので作られたとか。学院内ということで、特待生や講師など実力がある人たちも宿泊施設を利用できる。最高すぎる。
ここに来るだけの実力があるのなら、勉強に集中できるはず!
「魔法学院は生徒自身のレベルにあった学習環境に協力的だから、当初から特待生制度を導入しているけれど、もしそういうのがなかったら、上手く学院生活に馴染めずに学院を去る生徒も多かったと思うわ」
「その気持ち、少しわかります。……私は何もかも地味だったので、入学してからヴィンセント先輩と出会うまで居心地が悪かったですし……学院の図書館で読みたい本が終わったら、飛び級も考えてました」
「そう……(あの時に出会ってなかったら、そう思うとゾッとしちゃうわね)」
地味なくせに成績優秀だというのは、ひがみや嫉みの対象になりやすい。その上、黒い噂が蔓延すれば居心地は最悪だった。
あからさまな嫌がらせが始まる前で、本当によかった。だって魔法攻撃されたら──たぶん、ううん確実に敵認定して殲滅モードに頭が切り替わるだろうし……。私自身、戦闘モードになったら魔物を倒すように徹底的に潰す。ただその場合、貴族令嬢としては失格だって周りに言われるだろうし、辺境地が更に怖いところだと認識されてしまう可能性だってあったわ。
「シンシア?」
ヴィンセント先輩に出会うまで、諦めず、腐らずにいて本当に良かった。
「……ヴィンセント先輩と出会えて私は幸運だったって思ったのです」
「そう? ならシンシアに声をかけて良かった。前よりも笑顔が増えて、ますます可愛くなっているのよ。気づいている? 天使? ううん女神になるんじゃ?」
「ヴィンセント先輩こそ、かっこいいし、口調も親しみやすいし、コーディネートセンスだけじゃなくて、気遣いもできて、強くて物知りで素敵です」
「──っ、本当にずるいわ。本当に」
それはヴィンセント先輩では?
ヴィンセント先輩がそんな風に笑って照れるたびに、「自分に好意を持っているのでは?」と錯覚してしまう。これは自信じゃなくて自惚れだわ。
勘違いしないように頭を振って、気持ちを切り替える。まずは婚約破棄と、アンジェとキャシーとの勉強場所の確保だ。
***
数日後。
アンジェとキャシーに魔森の第13区画の図書館について話してみた結果、二人は「実際に見てみないとなんとも言えない」と言い出して数日かけて、調査しに向かった。一応、私とヴィンセント先輩の成功例を伝えたが、特化した能力だからあんまり参考にならないと言われてしまった。ぐすん。「いやだって究極的に圧倒的な技術を使った方法か、物理的にごり押しじゃない」とアンジェに言われたらぐうの音も出ない。
そして調査の結果。




