第8-1話 居場所
「さて。今日は魔森エリアにある特別な図書館に行くわよ」
「さっき言っていた場所は図書館だったんですね。……ん? 魔森エリアにある図書館?」
「そうよ!」
猛獣だらけの魔森エリアに、図書館があるというのだから耳を疑った。ヴィンセント先輩は、石の祠を目印に森の奥へと進んでいく。
どう考えても閑静な場所、あるいは王都にあるような図書館が、こんな場所にあるとは思えない。
「実は魔森の第1区画から第13区画まで、図書館だけじゃなくてレストランやお店もあるわ。ふふっ、デートみたいだと思ってくれても良いのだからね!」
「(デ、デート!? 憧れていた学生デート……!)……え、でもレストランやお店って、運営するのも大変ですよね? それに人が来るんですか?」
私にとっては実家の森とそうたいして変わらない危険度なのだが、普通の人であればまず生き残れない。そんな場所で、どうして店を構えているのだろう。
「もちろん。実力がある一部の人間あるいは人外しか来られない特別な場所よ。隠れ家みたいなもので、それなりの強さがないと来店を許されない──と言うべきかしら」
「へぇ」
「知識は力よ。扱い方次第で良くも悪くもない。だからこそ中途半端な人間に知恵を与えるのを防ぐため、貴重な本に、危険な魔導書を集めた図書館をこの区画に用意したの」
「なるほど! 条件をクリアした人だけが読めるし、侵入そのものが困難な場所なら、出入り出来る人たちも管理しているので、追跡しやすい」
「そういうこと」
ヴィンセント先輩は言葉通り、とんでもない場所にある図書館に案内してくれた。まさか湖の上に浮かぶ扉が図書館に繋がっているとは思わなかった……。
白銀の美しい湖の中央に、ポツンとある装飾が施された重厚な扉だった。
「ヴィンセント先輩。もしかしなくてもあれが」
「そう図書館の正式な入り口よ」
わあ! 物語に出てくるような不思議な扉だわ。
湖の上に浮いているだけで、ファンタスティックな感じで感無量なのだけれど、その扉を守るかのように水中に巨大な白水蛇が泳いでいるのが見える。
(小舟と同じ、ううんそれ以上の大きさだわ。小舟を使った場合、確実に沈められるわね)
「ふふふ、シンシアならどうやってあそこまで行く? ちなみに浮遊魔法は空に鳥蜂の巣があるから、お勧めしないわ」
「空中からもですか」
周辺の探索を行った結果、鳥蜂の巣が幾つも見られた。恐らくここに居れば餌が集まってくると、本能で分かっているのだろう。下は白水蛇、上は鳥蜂。難易度は確かに高いかもしれない。
誰もが簡単に訪れられない、実力を伴う。それって……。
「シンシア?」
「あ。いえ、ちょっと考え事をしてしまってました」
ヴィンセント先輩はグッと私に歩み寄りジッと目を見つめる。「何を隠しているの? 困ったことがあるのなら、さっさと言いなさい?」という圧が半端ない。
「その、困ってはいるのですが……個人的なことというか」
「なに? 私には相談できないこと?」
「その……先ほど話した友達のアンジェとキャシーの勉強を見る話なのですが」
「もしかして何か脅迫されて?」
「ち、違います! その勉強する場所を毎回見つけるのに時間が掛かっていまして……」
「そんなの二人も特待生がいるのなら──あ」
そう特待生であれば通常授業は免除されて、特別教室や図書館個室など、利用申請を出せば特待生の期間中利用可能となる。しかし通常特待生になるのは2、3年生らしく1年では難しい。そのため特別教室や図書館個室の利用者は、上級生がほとんど申請して埋まっている状態なのだ。
図書館個室の一般枠もあるが、そちらは予約制なしで席が空いていれば利用可能だったりする。なので空いている日は良いのだが、タイミング悪く使っている人もいるので勉強場所を確保するのも難しい。
カフェテリアや庭園でも勉強してみたが、周囲の視線や噂などが聞こえてきてしまい、特に耳の良いキャシーは集中が出来ないという。
私が防音魔法を使おうとしたけれど、学院内で使用申請が必要らしいので二人と話しているところだった。
「なるほど。その友人二人は実技は飛び抜けて優秀だけれど、座学がズタボロなのね。しかも聴覚や周囲の悪感情を敏感に察知するなら、静かな場所じゃないと、勉強がはかどらない」
「おっしゃるとおりです。ここで私の悪口や噂が足を引っ張るなんて……」
アンジェやキャシーは私のせいじゃないって怒ってくれたけれど、迷惑をかけてしまっているから何とかしたい──ということを洗いざらい話した。というかヴィンセント先輩が笑顔で言及しているので、答えたというほうが正しい。
笑顔なのに、『ゴゴゴゴゴゴ!』って背負っているような圧を感じる。
「ふーーーん、そう(今はシンシアの実績を学院に提出するために、積極的に森に入って魔物を狩っているけれどそろそろ服を作りたいわ。そうなるとシンシアは時間が空く。最初はそれでも良いと思ったけれど、できれば一緒の時間は確保したい)」
「ヴィンセント先輩?」
「ねえ、シンシア。貴女はあそこの扉に行けるとして、残る二人もあの扉を突破できる実力はあるの?」
「え、あ!」
ヴィンセント先輩の言葉で、ピンときた。そう誰もが簡単に訪れられない、実力を伴うのなら、私たちの勉強場所にぴったりではないか──と。
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