第7-2話 今世の友達
***
レックスからの言葉の暴力、嫌がらせ、どんどん酷くなる噂。友達のできない学院生活に凹んでいたのが、何だか小さなことのようだった。
心境の変化を真っ先にヴィンセント先輩にしたいと思ったのだが──。
「なんだか、面白くないわ」
「ええっと、ヴィンセント先輩?」
ヴィンセント先輩と出会ってから私の学院生活は一変した。
特待生に推薦してくれたことで、現在私は特待生候補者となった。その結果、通常授業が免除になり、毎日のようにヴィンセント先輩と第13区域の森で素材集めをしている。
現在特待生候補者ということで、環境に慣れるためアンジェとキャシーの勉強は、朝の少しの時間と、夕方から就寝までだ。アンジェとキャシーとの出会いは、学院生活が始まってから心躍るものだった。もちろん、ヴィンセント先輩と一緒も楽しいが、前世と今世でも同世代の友人に恵まれていなかったので、ちょっと、かなり浮かれている。
毎日のようにヴィンセント先輩に話をして、生活環境も良くなってきたことが嬉しくて堪らない──など調子に乗った結果、途端に不機嫌になってしまったのだ。
「シンシアに味方ができたのは嬉しいことだわ。でも、私との時間が減るじゃない」
(え? 不機嫌な理由って……)
私との時間を楽しみにしてくれていることが嬉しくて、口元が緩んでしまう。
ざわっ。
空気が変わった。瞬時に今までのお喋りタイムは終了し、身構える。
「──っ、敵ね。行くわよ」
「はい!」
ヴィンセント先輩は、唐突に現れた二本角虎を八つ裂きにしてしまった。いつと違って少し雑な、いや力任せすぎる一撃だった。
「「あ」」
(二本角虎の皮は貴重だったような?)
「こ、今回のは力みすぎたようね」
(絶対に八つ当たりだった気がする。でも感情的になると力加減が難しいのはわかるような……)」
悲しいけれど、皮は諦めて角だけ回収することにした。その後は鷹の前半身に獅子の後半身姿の鷹獅子王の群れと遭遇し、全滅まではいかなくとも数を半分ぐらいは減らすことができた。ヴィンセント先輩の刃がいつになく鋭かったのは、きっと腹の居所が悪かったのだろう。
ヴィンセント先輩の不機嫌も鷹獅子王の群れで解消されたのか、ウキウキで羽根と牙などの回収に入る。
「鷹獅子王の羽根は『運気上昇』の象徴で、アクセサリーや小物でも素材として色々使えるのよ」
「そうなのですね。実家では冬の羽毛布団やクッションにしてました。温かいですし、軽くて最高なんです」
「……もうふ、くっしょん」
実家での活用法を話した瞬間、ヴィンセント先輩は「嘘だろう」って顔をしていた。何でも鷹獅子王の羽根は貴重価値が高いらしい。
「(うん、王家を敵に回しても辺境地を敵に回さない)……辺境地の素材の豊富さと、武力及び経済力を見せつけられた気がするわ」
「はい。素材だけは豊富ですから!」
「素材となる魔物を狩れちゃう時点で凄いことを自覚しなさい」
そういってヴィンセント先輩は王都での常識を教えてくれる。辺境地はやっぱり変わっているというか特殊なのだと思った。
「……それでさっきの話の続きだけれど、勉強を教えるのはシンシアにとって良いことなのかしら?」
「はい。同世代の友達に教えるのは初めてなので、手探りですがとても楽しいです!」
「そう。前よりも笑顔が増えて、良かったわ(……出会った時も自分で立ち上がっていたものね。私は少し背中を押しただけで、なんだかんだで救われているのは私のほうなのに)」
「ヴィンセント先輩? ……ハッ、もしかして怪我を!?」
ヴィンセント先輩が急に胸を押さえだしたので、攻撃を受けたのかと慌てて駆け寄る。軽傷でも毒をもっていることもあるで、首筋などに触れて体温や脈拍を確認する。
「シンシア、私は平気。ただちょっと胸が」
「胸が?」
「きゅ──ざわついただけよ。それより、解体を急いで先に進みましょう。今日は連れて行きたい場所があるのよ」
「?」
想像していた学院生活とは全く違ったけれど、ヴィンセント先輩と一緒に素材集めをする毎日はとても楽しい。辺境地では単独行動が基本だったので、誰かと一緒に狩りをするのは新鮮だ。なにより勉強にもなる。
「一人でどうやって身を守るのかと思ったら、索敵に魔糸を使うなんて考えもしなかったわ。よく魔力切れにならないわね。私もびっくりよ」
「森に漂う魔素で、魔糸魔法を維持しているのです。じゃないとさすがに私の魔力では長時間は持ちませんから」
「周囲に漂っている魔素を自身の魔力にするなんて、繊細な魔力コントロールが必要なのに。普通は考えてもできるものじゃないわ。もう少しすごいことだって自覚しなさい」
「はぃ」
ヴィンセント先輩は私の魔法を説明する度に目を丸くしながらも、褒めちぎってくれる。それがなんだがこそばゆい。これが褒め殺し。
故郷では「魔物討伐が出来て一人前」と言われていたし、王都に来てからは地味だとか、事実無根の噂が流れるし、婚約者に酷い罵倒の数々とあったため、すっかり自信がなくなってしまった。
それを変えてくれたのは、ヴィンセント先輩だ。
ヴィンセント先輩の言葉は私の心を柔らかくして、ちょっとずつだけれど自分のことを大事にするようになった。
「……ちなみに索敵範囲って、最大でどのぐらい広げられるの?」
「その、……半径二百メートルが限界ですぅ」
「ほら! 不安そうに言わない! すごいことなんだから、もっと堂々としなさい! そして笑顔!」
「は、はい!」
自信喪失はそう簡単には回復は難しいようで、思わずネガティブな言葉が出てしまう。それはたぶん、前世でも学生生活に縁がなかったからこそ、今世では期待を膨らませすぎた。憧れと現実の落差に心が折れたのもある。
入学当初に比べれば天国のような生活環境だ。それでもレックスとの問題が解決していないのもあると思う。
ヴィンセント先輩は「貴女は、すごいんだからね!」と少し大袈裟な反応を見せるが、本心から言っているのが分かって胸がポカポカする。ヴィンセント先輩は褒め上手で、私を有頂天にさせる天才だ。
「シンシアは正直、すっごく可愛いわ」
「へ?」
「だいたい貴女が笑っただけで、何度もハートを射貫かれているんだからもっと自信を持ちなさい!(まだ婚約破棄してないから、アプローチを押さえているのに!)」
「は、はい!(時々独特な発言するけれど……、気遣いができて、明るくて格好いいのだからモテるのも頷けるわ)」
ふとヴィンセント先輩と目が合った。なんだか眼差しが優しくて、愛おしそうな熱量に勘違いしそうになる。ヴィンセント先輩は強くて、素晴らしい人で、大恩人。それ以上の感情の名前を私は口にする勇気も、覚悟もなかった。
今は、このままの関係がいい。両親が学院内のことに気付く前に、やることは沢山あるのだから。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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