第7-1話 今世の友達
友達ができた。
前世で友達がいたのは小学までだったと思う。その頃は入退院を繰り返す前で、皆と同じくランドセルを背負って登下校をしていた。
朝、いつもの場所で待ち合わせをして一緒に学校に行く。
(それができなくなった時は悲しかったけれど、両親の前で弱めを吐くことも泣くこともできなかったなぁ)
今世でも同世代の友達ができたことが嬉しい。キャシーとアンジェは入学時点で特待生枠だったので、私の部屋と少し離れている。そのため少し早めに部屋を出て食堂に向かう必要があったのだ。
しかし──。
(あーーーー、嬉しすぎて二人の勉強用参考書とか、プリントを準備していて寝坊したぁあ!)
廊下を走るのは良くないが、待たせてしまうのも悪いので目にも留まらぬ速さかつ気配を消して急いだ。隠密スキルがこんなところで役に立つとは思わなかったけれど。
(あ。食堂の入り口にいたわ!)
アンジェは男装していて、キャシーもズボン姿だったので目立つ。一年で特待生だからもあるのだろう。二人の傍に女子生徒が群がっている。私が一緒の時は近寄りたいけれど、躊躇っている感じがあったのを思い出す。
(二人ってやっぱり人気者なのね。まあ、入学当初から特待生なら、そうよね。私が一緒に居たら迷惑が──)
頭を振って否定的な考えを振り払う。二人は私の噂を信じてなかった。それなら私が躊躇って避けるべきじゃない。
「遅くなって──」
「シンシア嬢に、何か弱みでも握られているのですか!?」
(は、はい!??)
私の名前が出てきたので、思わず柱の陰に隠れてしまった。魔物との遭遇を避けるため、気配魔力を抑える隠密スキルがここで発揮されることになるとは、少し複雑だったけれど。
(こんな隠れるような行動しなくても、アンジェやキャシーは分かってくれる)
そう思っていても、今あの輪の中に入る勇気はない。婚約者の裏切りが思いのほか心に深々と傷となっている──のだと思う。
(アンジェやキャシーは……)
「弱み? なぜそんなことを?」
「だ、だってシンシア嬢は、恋人の居る男子生徒ばかり狙っているって」
「それを誰か見たッスか?」
キャシーのキツい言葉に、他の女子生徒たちが一瞬で怯んだ。思っていた反応と違い、女子生徒たちはお互いに顔を見合わせる。
「いえ。でも噂で」
「そう、みんな言っていたわ」
「私たちは二人が心配で……」
そういう女子生徒にアンジェは失笑する。あ、あれは怒っているわ。目が笑っていないもの。
「おや。確証もないのに、噂だけで判断したということだろうか? 彼女が学年一位になっているのは、たゆまぬ努力をしているからだ。筆記や実技でそう簡単に学年トップになれると思っているかい?」
アンジェは怒ると騎士様モードになるのか、男口調で鋭い指摘する。それに対して令嬢たちは子ウサギのように震え出す。騎士と子ウサギの構図は……助けたほうがいいのだろうか。
「それは……辺境伯の地位を使って隠蔽を」
「本当にあの一族が動いたら、噂をした全員を拷問にかけても真実を正すッスよ」
「「「え?」」」
(なんでキャシーがそのことを知っているの!?)
そう私の家は過激なのだ。そして隠蔽、横領などの不正を誰よりも嫌う。そんな噂が蔓延しているなど耳にしたら最後、白日の下に断罪するまで止まらない。苛烈で過激なのだ。私の今の現状も実家に知られれば、強制送還は必須。そしてその上で、原因解明を徹底的に行い、苛烈な凄惨をするというのは火を見るより明らかだ。
(だから自分で解決か、バレるにしても王都でやり残しがないようにしていたのよね。傍から見ても私の家族って直情型かつ過保護だから、私が自分で決着を付ける前に終わらせてしまいそうだったし……)
少し前まで、どうにかして現状の打破を考えていたのが嘘のよう。酷い噂や腫れ物のように扱われていたのを耐えていたからこそ、ヴィンセント先輩やアンジェやキャシーたちに出会えたようなものなので、そこは本当に嬉しい誤算だったけれど。
「アタシ、噂を鵜呑みにする人間が大嫌いッス」
「キャシーの言うとおりだな。辺境伯は国境を守る要。そして歴史上、王族の一人が辺境地を貶めようとした時に、王宮に単独で乗り込み、王に真実を突きつけ『それでも正義が自分にあると認めぬなら、もういい。我が領土は独立する』と豪語した傑物の一族だ。根も葉もない噂だけで判断するのは──君たちの将来的にも良くないと思うぞ」
(アンジェが私の領地のことを知ってくれていて嬉しい。……でもどうして辺境地の歴史は詳しいのに、他のことは覚えていないの!? 英雄譚とかそういう逸話が好きとか? ありそう……)
ちょっと感動したけれど、アンジェの歴史の暗記力の低さを思い出して、苦悶したのは内緒だ。でも二人が私のことを庇ってくれたのが嬉しい。
だから私もそんなアンジェやキャシーに報いるためにも、堂々としていたい。
「アンジェ、キャシー。おはよう」
「シンシア、おはよう」
「おはようッス」
「──っ」
私の登場にアンジェとキャシーを囲っていた令嬢たちは、蜘蛛の子を散らすように去って行った。堂々と言う勇気はないらしい。
「……シンシア、聞こえていたッスね」
目敏くキャシーが指摘する。それは怒っているというよりも心配した声音だった。その気遣いが嬉しい。
「あー、うん」
なんと言うことはないと私は口元を綻ばせて笑った。強がりとかじゃない。これは私なりの抵抗でもある。
「まったく。あんな噂に踊らされるなんて!」
アンジェの口調が戻った。先ほどの騎士様モードは終わったらしい。
「シンシア。貴女、これからも黙っている気?」
「そうッスね、こうやられっぱなしはダメッス」
「アンジェ、キャシー。二人ともありがとう。……うん、今までは身に覚えがないからこそ、放置していたわ。それに王都でやりたいことをしたら、辺境に戻ってもいいか持って最近まで思っていたの」
でもそれを変えてくれたのは、ヴィンセント先輩だ。そしてアンジェとキャシーに頼まれたこともある。
だから──。
「でも王都に残る理由ができたから、これから何とかしようと思うわ!」
「それが良いッス」
「そうね。何か協力してほしいことがあったら、遠慮なく言ってちょうだい」
アンジェとキャシーの心強い言葉に私は何度も頷いた。
王都に来てから新しいことや慣れない環境で、自分らしさがどんどん失われて、空回りしていた気がする。
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