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私のウィル  作者: 豆狸


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第三話 彼女のウィル

「いやああぁぁぁっ!」


 突然叫び出したシャルロッテに、中庭にいた生徒達の視線が集まる。

 ウィリアム達から離れたところにいたアンの姿は消えていた。

 とはいえ今はアンどころではないと、ウィリアムは慌ててシャルロッテを抱き寄せる。


「どうしたんだ、シャルロッテ? アンがなにかをしたのか?」

「いやっ! 離して! だれ? 貴方はだれなの?……ウィル! どこにいるの、ウィル! 私を助けて!」

「なにを言っているんだ、シャルロッテ。私がウィル、君のウィルだよ」

「違う違う違う。『私のウィル』はフェブリス王国の公爵令息ウィルヘルム様よ。貴方じゃない! 似ているけれど顔が違うし、なにより瞳の色が違うわ!」

「そうだよ? 私はウェネーヌム王国の王太子ウィリアムだ。そんなこと、最初から知っていただろう?」


 シャルロッテはウィリアムの腕の中で抗い、違う違うと首を横に振り続ける。

 不貞のふたりに対して元から冷たかった周囲の視線に、明らかな嫌悪の光が混じり始めた。

 だれかの呟きが、妙に大きく辺りに響き渡る。


「もしかして『魅了』?」


 血筋による遺伝はあるものの、基本的に固有魔法は選べない。

 人心を操作する『魅了』『幻覚』『洗脳』などの固有魔法を持って生まれたものは、学園を卒業して成人するのを待ってその固有魔法を封印されることになっていた。子どものころに封印すると、成長に悪影響が出る場合があるからだ。

 本人が言わない限り他人の固有魔法を聞き出すことは禁止されている。


 ウィリアムの側近達はシャルロッテが彼に『魅了』を使っているのではないかと疑っていたが、今の疑惑は彼女に向けられたものではなかった。


「王太子殿下に固有魔法はないとされていたけれど、本当は『魅了』だったの?」

「アン嬢は最近魔力が減少していると悩まれていた」

「婚約指輪で共有しているアン様の魔力を利用して、隣国のシャルロッテ様に『魅了』をかけていたと言うの? そんな方が未来の国王だなんて……」


(違う!)


 ウィリアムはそう叫びたかった。

 しかし、ここでウィリアムが叫んでも周囲の疑惑は払拭されない。

 泣き叫ぶシャルロッテを落ち着かせるのが先決だと、ウィリアムは抗う彼女を抱き締めて中庭を去った。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


(アンは固有魔法を持っていないと言っていたけれど、本当は人心を操作する固有魔法を持っていたのかもしれない。魔力が減少しているというのは嘘で、なんらかの方法で魔力を蓄えて、シャルロッテにその魔法を……)


 その日王宮に戻ったウィリアムは、父である国王に呼び出された。

 国王の部屋へ向かいながら、学園の中庭で起こったことに思いを馳せる。

 シャルロッテは王都にあるウィリアム所有の屋敷に送り届けた。隣国フェブリス王国からついて来た侍女や従者達が彼女の世話をしてくれている。


 息子とシャルロッテの関係に苦言を呈し続けていた国王は苦々しげな顔をして、自室を訪れたウィリアムに告げた。


「そなたが隣国から連れて来た娘は『幻覚』という固有魔法を持っていた」

「え?」

「学園から連絡があってすぐに、王宮魔法使いをそなたの屋敷へ向かわせて調べさせたのだ。あの娘はそなたと出会ったころからずっと、その魔法を使い続けていた」

「……私は彼女に惑わされていたとおっしゃるのですか?」


 ウィリアムは信じられなかった。

 父から聞かされて尚、ウィリアムの胸にはシャルロッテへの恋情が熱く燃えていた。

 国王は溜息をついた後で、息子の質問に答えた。


「違う」

「……はい?」

「あの娘は自分に『幻覚』をかけていたのだ。似ているといってもよく見れば違う。そもそもそなたと隣国の公爵令息は瞳の色が違う。生まれ育った国が違うのだから、所作も異なる。あの娘は自分に『幻覚』をかけて、そなたが公爵令息だと思い込もうとしていたのだ」

「そんな……」


 国王の視線が自分の手に落ちて、ウィリアムは慌ててそれを隠した。

 ウィリアムの指にはふたつの指輪が嵌められている。

 ひとつはアンとの婚約指輪で、もうひとつはシャルロッテにもらったものだ。シャルロッテからもらった指輪は学園でしかつけていなかったのだが、今日はいろいろあったので外すのを忘れていた。


「あの娘のものと対になったその指輪は、魔力を吸収する魔道具だ。本来のあの娘には固有魔法を常時発動し続けるほどの魔力はない。その指輪でそなたと魔力を共有しているアン嬢の魔力を奪って、(おのれ)に『幻覚』をかけ続けていたのだろう」

「なぜ……」

「さぁな。公爵令息を失った時点で心が壊れかけていたのかもしれん。そこにそなたが……公爵令息に似たそなたが現れ、それだけでなく愛を囁いて来た。そなたが公爵令息なら、公爵令息だと信じ込めたなら、とあの娘は思ったのかもしれんな」


 アンの魔力だけが奪われていたのは、彼女の魔力のほうがウィリアムよりも多くて強かったからだろう、と国王は言う。

 今日の中庭で、アンがウィリアムとの婚約指輪を外して魔力の共有がなくなった。

 愛しい公爵令息のはずの人物が急に別人に変わったのだ。シャルロッテが混乱するのは当たり前だった。


「でも……フェブリス王国ではなくウェネーヌム王国へ来ていたことはわかっていました。愛妾で良いとも言っていたのだから、私が王太子だということも理解していたはずです」

「そのころは正気の部分も残っていたのだろう。人心を操作するたぐいの固有魔法はかけられた人間の心を蝕む。今のあの娘にはもう、正気の部分は残っていない」

「……」


 今になってウィリアムは、アンの言葉が真実だったと気づいた。

 たとえシャルロッテが『幻覚』を使っていなくても、前の婚約者が死んだ途端ほかの男に乗り換えた女だと見られていたのでは、これからの人生が暗澹としたものになる。

 ましてやそんな人間が王妃になった日には、どれだけの醜聞が広がるかわからない。ウェネーヌム王国にもフェブリス王国にも最悪の事態だ。


 恋に狂ったウィリアムは気づいていなかったが、アンの言う通りせめて隣国の公爵令息の喪が明けるまで、愛しい婚約者を喪ったシャルロッテの心が癒えるまで待つべきだったのだ。


 ──ウィル。私のウィル。


 シャルロッテの声が蘇る。

 最初から最後まで、『彼女のウィル』は隣国の公爵令息のままだった。

 身代わりでかまわないと言ったウィリアムこそが、彼女を狂気に走らせた毒物であったことは間違いない。

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