表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
治癒魔法に見捨てられた辺境から始まる「現代医療」チート~寿命を全うした大先生は、隠居を諦めて最強の病院を創るそうです~  作者: RIU


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/38

第26話「呪いの正体と、天才細工師の帰還」

中庭の工房。

ガルネットは作業台に突っ伏したまま、ピクリとも動かずに荒い息を吐いていた。

極小レンズの研磨という極限の集中が、彼の弱り切った体に止めを刺しかけていたのだ。


「……おい、生きておるか」


私が工房に入ると、ガルネットは虚ろな目で私を見上げた。


「大先生……。急患は、助かりました、か……?」

「ああ。お前が削り出した硝子のおかげでな。……だが、今度はお前の番じゃ」


私はガルネットの細い腕を引き寄せ、彼の口を無理やり開かせた。

そして、先ほど彼自身が作ったばかりの『顕微鏡の光源用に使った小さな鏡』を口の中に差し込み、歯茎の裏側を覗き込んだ。


「やはりな。見事なまでの『バートン線(青黒い色素沈着)』じゃ」

「バートン、線……?」


ガルネットが力なく首を傾げる。

私は彼の前に立ち、はっきりと告げた。


「ガルネット。お主の体を蝕んでいるのは、悪魔の呪いでも、魔道具の祟りでもない。れっきとした『病気』じゃ」

「……病気?」

「お主、細かい彫金や装飾をするとき、金を溶かすための『水銀』や、柔らかい『鉛』をよく使っておったじゃろう?」


私の言葉に、ガルネットは驚いたように目を丸くした。


「ど、どうしてそれを……。はい、使ってました。親方に隠れて、換気の悪い地下室で、何日も徹夜で金属を熱して……」

「それが原因じゃ。水銀や鉛が熱されて出る『見えない毒の蒸気』。それを長期間吸い込み続けたことで、金属の毒が体内に蓄積し、神経を破壊していたんじゃよ。これを『重金属中毒(鉛毒・水銀毒)』という」


前世の歴史でも、多くの職人や芸術家たちを狂わせ、死に追いやった恐ろしい職業病。

魔法や呪いなどではない。ただの、劣悪な労働環境が生み出した化学的な毒だ。


「ど、毒……? じゃあ、俺は呪われてたんじゃなくて……」

「うむ。だから、毒さえ体から追い出せば、お主の体は元に戻る」


私が断言した瞬間、テティアが調合したばかりの薬湯と、厨房から運ばせた熱々の『特製ボーンブロススープ』を持って工房に駆け込んできた。


「テティアの作った薬草で、体の中の毒を尿や汗と一緒に体の外へ排出キレートする。そして、この栄養満点のスープで壊れた細胞を修復するんじゃ。……もちろん、今日から地下室での作業は禁止じゃぞ。風通しの良いこの中庭で、しっかりと深呼吸をしろ」


私はガルネットの手に、温かいスープの入った木の器を持たせた。

ガルネットは、震える両手で器を包み込み、スープを一口飲んだ。


「あ……」


その瞬間、彼の目から堰を切ったように涙が溢れ出した。


「治る……。俺、また、力一杯ハンマーを振れるように、なるんですね……っ」

「当たり前じゃ。お前のその神がかった指先、こんなところで腐らせてたまるか。体力が戻ったら、メスでも注射器でも、なんでも作らせてこき使ってやるから覚悟しておけ」


私がニヤリと笑うと、ガルネットは子供のように声を上げて号泣しながら、スープを飲み干した。

見守っていたグズガルも、「バカ野郎、心配かけさせやがって……!」と鼻をすすりながら、弟子の頭をガシガシと乱暴に撫で回している。


こうして、二つの命が救われた。


一人は、異世界初の『輸血』によって。

一人は、呪いの正体を暴く『医学の知識』によって。


顕微鏡というミクロの瞳。

ヒナの魔法による血液保管庫ブラッドバンク

そして、神の指先を持つ専属の精密医療器具職人。


強力なインフラと新たな仲間を手に入れた『ミルゼ総合病院』は、これよりさらなる飛躍を遂げ、いよいよ「現代医療でなければ絶対に治せない難病中の難病」へと立ち向かっていくことになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ