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治癒魔法に見捨てられた辺境から始まる「現代医療」チート~寿命を全うした大先生は、隠居を諦めて最強の病院を創るそうです~  作者: RIU


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第18話「医療崩壊の危機と、パンク寸前の弟子たち」

「先生ェッ! 3番ベッドの患者さんの包帯を交換しようとしたんですが、清潔な布のストックがもうありません!」


診療所の廊下を、ザッシュが犬耳をパニック気味に振り乱しながら走ってきた。


「なんじゃと? 昨日、市場で大量に買ってきたばかりじゃろうが!」

「それが、仮病で入院しようとする冒険者を追い返す時に怪我人が出て、そっちの処置に使っちゃって……っ! すぐに市場へ走ります!」


ザッシュは踵を返し、弾かれたように表へと飛び出していった。

私はため息をつきながら、手元のカルテに『包帯:極度の品薄』と書き込んだ。しかし、問題はそれだけではなかった。


「大先生ぇぇぇっ! 大変ですぅっ!!」


今度は、二階の調合室からテティアが半泣きで転がり落ちてきた。

彼女の白衣は謎の薬液で黒く汚れ、髪は爆発したように逆立っている。


「今度はなんじゃ! 麻酔ペーストの調合でも失敗したか!」

「違います! 材料です! 傷口を消毒するための『火酒』と、生理食塩水を作るための『岩塩』、それに抗生物質の培養に使う栄養液が全部底を突きました! 昨日の夜、私が発注書を書き忘れたせいで……っ、うわぁぁぁん、私なんてやっぱり無能な薬師なんだぁぁぁ!」

「ええい、泣くな! 泣いても塩は降ってこんわ!」


私はその場にへたり込んだテティアの頭を、持っていたカルテでペシッと叩いた。


病院食の改善により、患者の治癒スピードは劇的に上がった。ベッドの回転率が上がり、より多くの患者を受け入れられるようになったのは良いことだ。

だが、その結果として引き起こされたのが『物資の異常な消費』だった。


包帯、消毒用の酒、麻酔の材料、点滴用の純水と塩、注射器のガラス、そして大量の病院食の食材。

これまでは、その日に足りなくなったものをザッシュやオスウェルが市場へ買いに走り、テティアが徹夜で調合することでどうにか回していた。いわゆる「自転車操業」だ。

だが、病院の規模が当初の数倍に膨れ上がった今、彼らの個人の努力だけで回せる限界を完全に超えてしまっていたのだ。


「……まずいな。このままでは、一番肝心な『医療行為』の質が落ちる」


私は腕を組み、眉間を強く揉みほぐした。

医療スタッフが、買い出しや在庫の数合わせに追われて疲弊すれば、必ずどこかで医療ミス(アクシデント)が起きる。それは患者の命に直結する。


「ただいま戻りました! 先生、布問屋に行ってきたんですが、今日はもう在庫がないって……っ!」


息を切らして戻ってきたザッシュが、絶望的な報告をする。


「どうするんだ小さな大先生。俺が隣街まで馬を飛ばして買ってくるか?」


玄関の警備をしていたオスウェルが、気遣うように声をかけてきた。だが、隣街まで往復すれば丸一日はかかる。その間に急患が来たら、貴重な戦力である彼が不在なのは致命的だ。


「……いや。根本的なシステムから変えねばならん」


私は白衣のポケットに両手を突っ込み、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべた。

前世の現代病院では、医者や看護師が自分で包帯を買いに行くことなどあり得ない。「物品管理部門」があり、必要なものが自動的に補充される仕組み(サプライチェーン)が構築されているのだ。


「オスウェル。儂の外出の護衛を頼む。行き先は『商業ギルド本部』じゃ」

「商業ギルド? 市場の商人から直接買うのではなくか?」

「ああ。小間使いのように買い出しに走る時代は今日で終わりじゃ。これからは、向こうから勝手に頭を下げて荷物を運ばせてやる」


元・天才外科医のメスは、ついに異世界の「物流」という分厚い壁に突き立てられようとしていた。

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