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65 ささやかなパーティ みんなのお祝い

 翌日、ささやかなパーティがあるとだけ告げられて、チェリたち三人は身支度を整えてから第三広間へ向かった。


 城にはいくつもの広間がある。第一は他領の主や国賓を迎えるための格式高い広間、第二は貴族をもてなす広間。城の者が第三広間と呼んでいる「春暖の間」は、それらより内輪向けの、身内が集うための部屋だった。


 扉を開けた、その瞬間だった。


「遅くなったけど、お誕生日、おめでとう――!」


 声と紙吹雪が一斉に降ってきた。チェリは思わず足を止めた。色とりどりの紙片が、ひらひらと宙を舞っている。


 扉のすぐ内側に、おばあさまたち五人が待ち構えるように固まっていた。その奥には両親たちや使用人たちの姿もあって、広間は大勢の人で賑わっている。長いテーブルには豪華な料理と、美しい生菓子が所狭しと並んでいた。


「ずっと準備してたのよー!」


 サリアが満面の笑みで駆け寄ってくる。


「勉強の邪魔をしないように、入試が終わるまで待っていたんだ」


 リッテが頷いた。三人の誕生日は、春から冬にかけて、それぞれにあった。けれど今年は受験の年だった。例年なら豪華に祝うところを、勉強を妨げないよう、祝いはずっと見送られていたのだった。


「三人分、まとめてのお祝いになるけど、いいわよね。だったら三倍、盛大にお祝いしましょう!」


 エルナダが華やいだ声を上げる。


「みんな、よく頑張った。おめでとう」


 ミルザが、いつもの飄々とした調子で、けれど確かな温かさを込めて言った。


「試験も終わったんだもの。今日くらい、羽目を外してもいいでしょう」


 ネイディーアまでが、珍しく口元をほころばせている。五人は三人を取り囲んで、口々に祝いの言葉を浴びせてきた。


 その後ろでは、三人の両親たちが、孫に詰め寄るおばあさまたちを苦笑いで眺めている。


 次に駆け寄ってきたのは、ナハヤとガンマの兄弟たちだった。


「兄様、おめでとう」


 ジェイワが、ナハヤを見上げてはにかんだ。


「ガンマ、お疲れ〜」


「兄ちゃん、誕生日おめでとう!」


 ザイネルとランダが、ガンマの両脇から飛びついてくる。


「お前ら! いないと思ったら、先に来てたのか」


 ガンマが目を見開いた。昨日の出迎えでは顔を合わせていたのに、兄弟たちはこのパーティのことを、おくびにも出さずに黙っていた。


 さすがにハリュナルとナツァークの姿はなかった。二人は大学で、試験やら何やら、やるべきことがある。中央領に残ったままだった。


 チェリは、ふと昨夜の夕食を思い出した。おばあさまたちが、やけに楽しそうにしていた。あの浮き立った様子は、きっとこれを企んでいたからなのだ。今になって、合点がいった。


 ナハヤは弟と何やら話し込んでいる。ジェイワは終始嬉しそうで、兄を慕う気持ちが、その表情からあふれていた。ガンマも兄弟たちと笑い合っている。仲のよさは見ていて気持ちがいいほどで、ガンマはいつにも増して浮かれていた。


 その光景を眺めながら、チェリはふと、小さな寂しさを覚えた。ここに、ナル兄とナツ兄がいてくれたら。そう思ってしまったのだ。


 そうしているうちに、チェリの両親がやってきた。


「よく頑張ったな。お前の努力は、私もずっと見ていた。きっと合格しているだろう」


「チェリちゃん、合格のお祝いは何がいいかしら。大学に行くんだもの、ドレスや靴や、いろいろ新調しないとね」


 誇らしげな両親を前に、チェリの胸に、ふいに不安がよぎった。


 どうして皆、合格している前提で話すのだろう。手応えはある。それは確かだ。けれど――もし、解答欄が一つずれていたら。名前を書き忘れていたら。そんなくだらないしくじりで落ちていたら、どうしよう。


 考え始めると、止まらなくなった。誇らしげな両親をよそに、チェリの顔から、すうっと血の気が引いていく。


「安心しろ。不合格なはずがない。そんな顔をする必要はない」


 突然、背後から声がかかった。ハリュークだった。


「お前のことだから、解答欄がずれていたらとか、名前を書き忘れていたらとか、考えているのだろうが」


 心を読まれたのかと思うほど、図星そのものだった。チェリは言葉に詰まる。


「シルヴァーンと一緒にいるために、頑張ったのだろう」


 ハリュークは、そう言ってチェリの後ろへと視線を送った。


「きゅいきゅい」


 聞き慣れた鳴き声がした。振り返ると、ディラがもう一人の使用人と二人がかりで、シルヴァーンの籠を運んでくるところだった。重いそれを、二人して広間まで連れてきたのだ。


「お祝いなら、シルヴァーンとも一緒じゃないと!」


 ディラが、にっこりと笑った。


 籠の中のシルヴァーンが、チェリを見つけてきゅるきゅると嬉しそうに鳴く。その姿を見た途端、チェリの胸を満たしていた不安が、すうっと溶けていった。


 お祝いの真ん中に、シルヴァーンがいる。おばあさまたちがいて、両親がいて、従兄たちとその兄弟がいる。お祖父様までいる。これ以上の誕生日があるだろうか。


 チェリは顔をほころばせ、満面の笑みを浮かべた。

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