61 帰路の歓待 祖父宛の封書
帰りの道のりも、行きと同じ宿に泊まっていった。
どの宿でも主人たちは行きよりも自然な笑顔で一行を迎えた。一度泊めた相手だという気安さ、安心感もあったのだろうと思ったが。どうやら一行が発った後でハリュークからそれぞれの宿へと贈り物が届いていたらしかった。主人たちは口々にハリュークを称え、その厚意に応えようと帰りはいっそう手厚くもてなした。
宿を出るたびに土産を持たされた。その土地の名産の菓子や酒、織物や工芸品。断りきれないほどの量だった。
「これは名産品の宣伝も兼ねているのかもしれないね」
ナハヤが積まれていく包みを眺めて言った。西領主の一族に名産を持たせれば、いずれ城でハリュークの目に触れる。商いの種をまいているのだろうという。チェリはなるほどと思った。
良い品があれば商売人のサリアおばあさまが黙っているはずがない。きっと商いの手を伸ばすだろう。
中央領を抜けて西領地に入ると土産の量はさらに増えた。自分たちの領主の孫の一行が通るのだから宿の主人たちの熱の入れようも違う。ついには馬車の荷台が包みで埋まり、土産を運ぶためだけの馬車をもう一台用立てる羽目になった。
「わたしたちの試験の旅行なのにお祖父様に利用されてる気がする……」
「意図的じゃなかったと思うけどね」
「お祖父様すげーな!」
チェリたちはそれぞれ違った形で感心した。
* * *
旅が進むにつれて変わっていったものがもう一つあった。シルヴァーンだ。
西へ近づくほどにその様子はどんどん穏やかになっていった。籠の中で落ち着いて丸くなり、そわそわと落ち着かない態度になることが減っていった。食欲も戻っている。行きの道中チェリと離されて鳴き続けていた頃が嘘のようだった。
「不思議。うちに帰るって分かっているのかも」
チェリは籠を覗き込んでそっと呟いた。
シルヴァーンは心地よさそうに目を細めている。もしかしたら、と思った。この子は西領主の城を自分の故郷のように――いや、巣のように思っているのかもしれない。帰るべき場所だとどこかで感じ取っているのではないか。
そう考えるとなんだか少し嬉しかった。シルヴァーンが城を帰る場所だと思ってくれているなら、それはもう家族のようなものだ。
ふと、これも竜についての新しい発見かもしれないとチェリは思い至った。竜は自分の巣の場所を知っているのか。離れていてもその方角を感じ取れるのか。
チェリは荷の中から竜のことを書きためたノートを取り出した。三人で使っているノートだ。といっても書き込むのはたいていチェリかナハヤで、ガンマは滅多に筆を執らない。もう何冊目かになるそれを開いて新しいページに記した。
――西へ近づくにつれシルヴァーンが落ち着いていく。巣の場所を感じ取っている可能性。
書き終えてチェリは小さく息をついた。シルヴァーンの寝顔をもう一度覗き込む。穏やかな寝息が籠の中から聞こえていた。
* * *
西領主の城まであと一日。翌日には城に着くという位置の、最後の宿でのことだった。
夕方、タウラが一通の封書を手にしてチェリのもとへやってきた。その表情がわずかに硬い。
「チェリ様。アリエ殿からこれを」
チェリは身構えた。けれど差し出された封書の宛名を見て少し戸惑った。
「お祖父様に……?」
「はい。ハリューク様にお渡しするようにと」
チェリ宛ではなかった。アリエがハリュークに宛てて寄越した手紙だった。
何が書いてあるのだろう。胸の奥がざわりと騒いだ。アリエがお祖父様に何を伝えようとしているのか。気にならないと言えば嘘になる。
けれどチェリは手を伸ばさなかった。封を開けて中を確かめたい気持ちをぐっと抑える。これはお祖父様宛の手紙だ。自分が勝手に読んでいいものではない。それにアリエのことには必要以上に深入りしないと決めていた。あの人の聡さに、あの間合いに、うかつに踏み込めばいつの間にか取り込まれてしまう気がする。
「分かった。お祖父様にそのまま渡して」
「かしこまりました」
タウラは封書を懐にしまった。
チェリは窓の外へ目をやった。日が傾き、空が茜色に染まっていく。その向こうに明日には城がある。
帰ったらお祖父様に話さなければならないことが、また一つ増えた。チェリは静かにそう思った。




