45 試験当日 貴族の受験生
試験の朝が来た。
チェリは宿の部屋で身支度を整えた。シルヴァーンが籠から頭を出してチェリを見ている。
「今日は留守番ね。ディラと一緒にいて」
シルヴァーンはきゅいと鳴いた。前回のように追いかけてこられては困る。ディラが「大丈夫です、しっかり見ていますから」と胸を張った。
チェリ、ナハヤ、ガンマの三人は、タウラに付き添われて宿を出た。タウラは試験会場の建物の前までは同行するが、中には入れない。
大学の敷地は広大だった。いくつもの建物が並び、庭園や広場が点在している。初めて来たら迷いそうな規模だったが、試験会場の建物は事前にハリュナルが教えてくれていた。案内の書類にも場所は書いてあったが、ハリュナルは建物の外見や目印まで細かく説明してくれていたので、迷うことなくたどり着けた。
「あれだ。ナル兄が言ってた、正面に大きな柱が四本ある建物」
チェリが指差すと、ガンマが「でかいな」と見上げた。
試験会場の前には、すでに多くの受験生が集まっていた。皆、緊張した面持ちで書類を確認したり、仲間と最後の確認をしたりしている。
三人はその中をくぐり抜けて建物の入口に向かったが、すれ違う受験生たちの視線がちらちらと集まるのを感じた。三人とも明らかに若すぎたのだ。周りの受験生はほとんどが十五、六歳に見える。チェリたちはそれよりも幼かった。
「なんか見られてるな」
「年齢的に珍しいんだろうね」
ガンマとナハヤは小声で言った。
チェリはあまり気にしていなかった。西領地でもハリュークの孫というだけでざわつかれることには慣れている。それよりも、ナハヤとガンマがこの視線の中であまり動じていないことのほうが、チェリにはすごいと思えた。
入口で受験票と書類を見せると、係の大学職員がチェリたちの受験票を見て、わずかに表情を変えた。
「こちらへどうぞ。ご案内いたします」
職員は三人を他の受験生とは別の方向に案内した。貴族の子弟向けの試験室が別に用意されているらしい。受験票の様式が平民のものとは異なっていた。
試験室に入る手前に、門のような形をした魔道具が設置されていた。魔道具の持ち込みを検査するためのものだという。通過する際に魔道具を所持していると、門が光ってサインを出す仕組みらしい。
三人は順番に門をくぐった。何も反応はなかった。職員が頷いて、試験室の扉を開けた。
案内された部屋は、先ほどの入口付近の喧騒とは打って変わって静かだった。机が整然と並び、すでにいくつかの席には受験生が座っている。身なりの良い若者たちだった。貴族の子弟ばかりだろう。
ここでも三人は浮いていた。若さだけではない。チェリたちが部屋に入った瞬間、何人かの受験生がこちらを見て、ひそひそと話し始めた。
「はあ……ここでもこんな感じなんだね」
ナハヤが小声で言った。
「いちいち気にすんな」
ガンマが肩をすくめた。
三人はそれぞれ受験票に記された席番号を探した。ナハヤとガンマの席はすぐに見つかった。チェリの席は少し離れた列にあった。
席に向かうと、そこには先に誰かが座っていた。
チェリよりいくつか年上に見える女の子だった。長い黒髪を後ろで結んでいる。机の上に筆記用具を広げて、何やら資料を読み込んでいた。
「あの、すみません」
チェリが声をかけると、女子が顔を上げた。
「ここ、私の席なんですが……」
「え?」
女子は自分の受験票を確認し、それからチェリの受験票と席の番号を見比べた。
「あ——ごめんなさい! 一列間違えてました!」
慌てて荷物をまとめて立ち上がった。
「大変失礼しました。すぐ後ろの席でした」
「いえ、大丈夫ですよ」
女子はチェリのすぐ後ろの席に座り直した。それから少し照れくさそうに笑って、小声で言った。
「緊張してて、番号ちゃんと見てなかった。……にしても、若いね。いくつ?」
「十二」
「十二!? すごいね……。私は十六。お互い頑張りましょう」
「うん、頑張ろう」
気安い口調だった。チェリの出自を知っている様子はなく、ただの受験生同士として話しかけてきている。周りの貴族の子弟たちがチェリを遠巻きに見ているのとは対照的だった。チェリはそれが少し心地よかった。
試験監督が部屋に入ってきた。部屋が静まり返る。
「これより入学試験を始めます。答案用紙を配りますので、受験票を机の上に出してください」
チェリは受験票を出し、深く息をついた。
サジットの声が聞こえる気がした。試験中に何が起こるか分からない環境の中で、それでも自分の力を出し切る。それが試験だ。
答案用紙が配られた。チェリは鉛筆を手に取った。




