33 体重測定 成長する子竜
夕方、ディラがチェリのベッドのシーツを整えながら、ふと思い出したように言った。
「そういえばチェリ様、今日の試験の騒ぎの時なんですけど、廊下でハリューク様が教室の前に立ち止まっていたんです。たまたま通りかかって見てたんですが」
チェリはそれを聞いて、すぐに合点がいった。
「じゃあ、お祖父様が教室の前を通りかかったからシルヴァーンが暴れて、離れていったから落ち着いたんだ」
「……そう、ですね」
ディラは相槌を打ちながら、何か言いかけてやめた。チェリの言う通りでもあるし、でも何かが引っかかる。ハリューク様が立ち去ったのと、シルヴァーンが落ち着いたのは、確かに同じタイミングだった。でもあの時ハリューク様がしていたことは……。
(まあ、チェリ様がそう解釈されるなら、いいのかしら)
ディラは結局、何も言わなかった。
「そうだ、そろそろシルヴァーンの体重を測りに行かなきゃ」
チェリがそう言うと、ディラが「では厨房に行きましょうか」と答えた。
厨房には食材の量を測るための秤があり、それをシルヴァーンの体重測定のために借りていた。シルヴァーンが城に来た頃から定期的にやっていることで、厨房の使用人たちにも了解を得ている。
チェリはシルヴァーンの籠を持ち上げて、ディラと共に厨房へ向かった。
厨房に入った途端、チェリとシルヴァーンの存在に気づいた使用人たちがわっと集まってきた。
「チェリ様!」
「シルヴァーンちゃんだ!」
「久しぶりじゃないか、前より大きくなったねえ」
「体重測定ですか?」
厨房の使用人たちにとっても、シルヴァーンの体重測定はすっかり恒例になっていた。
チェリが使用人たちと気安く接するようになったのは、竜に襲われた事件の後からのことだ。ハリュークの意向でディラが側につき、使用人たちとも自然に交流するようになった。厨房にもよく顔を出すうちに、すっかり馴染みの場所になっていた。
シルヴァーンの体重測定も、使用人たちは毎回楽しみにしているようだった。
バネ秤にシルヴァーンの入った籠をぶら下げて測ってみると、前よりも重くなっている。
城に来た頃と比べてもずいぶん体重が増えた。
「こんなに重くなってたんだ……」
チェリが目を丸くしていると、年配の料理人がシルヴァーンを覗き込んで言った。
「竜って、大きくなるとどのくらいになるんですかね」
「最低でも数タークにはなると思うけど……」
チェリは軽く両手を広げて、大きさを想像してみた。
一タークは大人の腰の高さほどの長さだ。その数倍となると、相当な大きさになる。
「数タークですか。そうなったら部屋には置いておけませんね」
「中庭に小屋でも建てないといけないかなあ」
「小屋ねえ……竜の小屋なんて、どう作ればいいんでしょうね」
使用人たちがそれぞれ好き勝手なことを言い始めた。チェリはシルヴァーンを抱えながら、大きくなったシルヴァーンを想像した。数メートルの白銀の竜が中庭にいる。……なかなか壮観な光景だ。
その時、若い使用人の一人がにんじんをシルヴァーンに差し出した。シルヴァーンはくんくんと匂いを嗅いでから、一口かじった。それから微妙な顔をした。
「気に入らなかったか」
「果物の方が好きみたいですよ」とディラが言った。別の使用人がりんごを持ってくると、シルヴァーンはすぐに食いついた。
「やっぱり果物か」
「甘いものが好きなんですね、チェリ様に似て」
「私はにんじんも食べますー」
笑い声が上がった。
笑い声が収まったところで、年配の料理人がふと言った。
「そういえば、白銀の竜で大型のものは見たことがないですねえ。春の渡りで来る竜は、みんな数タークくらいだった」
「白銀だと大きくならないの?」
「そういうわけでもないと思いますが……渡りに来る竜は、色でだいたい大きさが決まってるような気がします。茶色や灰色のは大きいのが多いし、白銀や金色のは小ぶりな竜が多い」
チェリはそれを聞きながら、少し考えた。
渡りではない時期に見かける竜は、色と大きさに関連はないような気がする。チェリが見かけた竜は、思い出してみても色も大きさもまちまちだった。
(渡りに来る竜と、そうでない竜は、何かが違うのかな)
シルヴァーンはりんごをもしゃもしゃと食べている。その白銀の鱗が夕方の光を受けて、きらきらと光っていた。
「大きくなっても、果物好きは変わらないといいね」
チェリがそう言うと、シルヴァーンはりんごから顔を上げてチェリを一瞥し、またりんごに向かった。




