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26 平穏な日々 再びの影

 翌朝、ナハヤとガンマが連れ立ってチェリの部屋にやってきた。ハリュナルとナツァークもすでにやってきていた。


 「昨夜、大丈夫だったか」


 ガンマが開口一番そう言った。回りくどいところのない、ガンマらしい聞き方だった。


 「うん、大丈夫」


 「そうか。……シルヴァーンが噛みついたんだろ。よくやった」


 ガンマはシルヴァーンの籠を覗き込んでそう言った。シルヴァーンはガンマをじろりと見てから、ふいと顔を背けた。


 「怖かっただろうけど、チェリはちゃんとシルヴァーンを守ったんだな。すごいと思う」


 ガンマの言葉は短かったが、まっすぐだった。チェリは少し目を細めた。


 「……ありがとう、ガンマ」


 ナハヤは静かに口を開いた。


 「ずっと気になっていたんだ。アリエ先生の授業、何か違和感があったんだ。理由がやっと分かった」


 「理由?」


 「ナル兄が、ユーモアのある授業をする人だと言っていたけど、実際の授業は全然そんな感じじゃなかった。だから……」


 チェリはハッとした。そういえば、そんな話をハリュナルがしていた。


 「……本物のアリエ・キンディールじゃなかったから」


 ナハヤは静かに頷いた。


 「そうだな……聞いていた人となりと違った……」


 ハリュナルが口を開いた。昨夜の怒りはどこへ行ったのか、しょんぼりとした表情が浮かんでいた。


 「チェリ、本当に申し訳なかった。私が紹介した教師のせいでチェリを危ない目に遭わせた。身元の確認が甘かった。本当に……本当に申し訳ない」


 「兄様、顔を上げて」


 「上げられない」


 「上げてください」


 「……チェリが許してくれると言うまで上げられない」


 「許すから、顔を上げてください」


 ハリュナルがようやく顔を上げると、涙目になっていた。それを見てチェリは固まってしまった。


 「に、兄様のせいじゃないです。騙した人が悪いんだから」


 「でも――」


 「兄上」


 ナツァークが手元のメモから目を上げずに言った。


 「チェリが困っている」


 ナツァークのほうを見て、ハリュナルはぐっと言葉を飲み込んだ。


 ナツァークはずっと手を動かしていた。ペンが紙の上を走る音が部屋に響いている。


 「大学に戻ったら、まず本物のアリエ・キンディールが実在するかを確認する。身元の保証人についても調べる。彼を知る者と見た目がどんな人かの情報を突き合わせる。あとは……」


 ナツァークは独り言のようにブツブツと言いながら、どんどんメモに何かを書き足している。


 「ナツ兄様は今この場でそれをやらなきゃいけないの?」


 チェリが尋ねると、ナツァークは少し間を置いてから答えた。


 「思いついた時に書いておかないと忘れる」


 「……そっか」


 チェリはため息をついた。ガンマとナハヤも似たような顔をしていた。


 * * *


 それから数日。


 ハリュナルとナツァークは大学に帰っていった。大学の休みももうすぐ終わるため、戻ることになった。

 「合格して大学に来たらまた一緒に暮らせる。寮だからな」

 「男女は別の建物だから一緒じゃない」

 「……あああ、そうだった!」

 去り際でも二人はいつも通りだった。


 城ではあの夜から警備を強化し、シルヴァーンの周囲を特に警戒していた。城の周囲を調べると裏の森で血痕が見つかった。辿っていくと川べりで途絶えていた。川に入って追跡を撹乱したらしく、それ以上は追えなかった。アリエはすでに遠くへ逃亡したものと思われた。


 しばらくの間、チェリは元気がなかった。


 それでもサジットの授業は続いた。試験まで時間がない。サジットはアリエによる誘拐未遂事件のことは聞いていたが、何も言わずにいつも通りの授業を進め、チェリたちもそれに応えた。


 シルヴァーンは今後もずっと授業に連れて行くことになった。部屋の大規模模様替えのために教室に連れてきていたのだが、それが終わった今、前のように部屋で独りにしておくのは心配だった。籠は相変わらず教室の後ろのテーブルに置かれ、授業中シルヴァーンはおとなしくその中で丸まっている。


 そうして日が経つうちに、チェリも少しずつ落ち着きを取り戻していった。


 ある夜のことだった。


 「今夜は私がいなくても大丈夫ですか?」


 ディラがそう尋ねてきた。

 誘拐未遂以来、夜はずっと部屋で付き添っていたディラだったが、十日ほど経った今、チェリもそろそろ一人で眠れそうだと思っていた。


 「一人で大丈夫だと思う。ありがとう、ディラ」


 ディラはホッとしたような顔をして、部屋を出ていった。念のため、何かあったらすぐに助けを呼べるように、警報音を鳴らす魔道具を枕元に置いていった。

 部屋のすぐ外には警備兵がいるので、異変があればすぐに対応できるようになっている。


 チェリは灯りを落として、ベッドに潜り込んだ。シルヴァーンはベッドの側のサイドテーブルに置いた籠の中で静かに丸まっている。

 あの夜からはベッドに入ってしばらくはディラと話をしていたので、チェリは久しぶりに部屋が静かだと感じていた。


 静まり返った部屋の中で、眠りに落ちかけた時。

 突然シルヴァーンが低く唸った。


 チェリは目を開けた。


 部屋の中に、あの夜に見た人影があった。

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