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21 もう一つの用件 竜生学の教師

 ひとしきり賑やかだった教室が、ようやく落ち着きを取り戻していた。


 休憩スペースのテーブルを囲むように、チェリたちと兄二人が座っている。サジットも端の椅子に腰を落ち着けていた。


 ナツァークがお茶を一口飲んでから、静かに口を開いた。


 「実は、チェリに会う他に、もう一つ用件があった」

 「用件?」


 チェリが首を傾げると、ナツァークはハリュナルに目を向けた。ハリュナルが頷いて、話し始める。


 「お祖父様から手紙が来ていてな。竜生学の教師を探しているが、心当たりはないか、と」


 「あ……」


 チェリは思わず声を漏らした。ナハヤとガンマも顔を見合わせる。


 「竜生学の教師が見つかったというのをお祖父様に知らせるための帰省でもあるんだ」


 「見つかったんですか?」


 サジットが身を乗り出すと、ナツァークが続けた。


 「手紙が届いてすぐ、大学の教授補から兄上に声がかかったんです。竜生学を専攻していた方で、城に来て教師をしてもいいと」


 「教授補……?」


 「向こうから声をかけてきたんだ。私に手紙を送るくらいだ、お祖父様は大学の学長や教授陣にも声をかけていたんだろう。帰省の前に見つかって良かった」


 ハリュナルがそう言いながら、少し得意げな顔をした。


 「彼から竜生学の講義を受けたという同級生もいたし、身元も確かだ。ユーモアのある授業をする方だったそうだよ。二、三日中にはこちらに到着するそうだ」


 「もうすぐじゃないですか」


 ナハヤが静かに言うと、ガンマが「おお!」と身を乗り出した。


 「じゃあやっと竜生学の勉強が始まるのか!」

 「これで、図書室の竜の本にあった知識以外も学べるかな?」


 ナハヤとガンマは嬉しそうだったが、チェリはしばらく難しそうな顔をして黙っていた。


 竜生学の教師。ずっと待っていた。シルヴァーンのことをもっとちゃんと知りたいと思っていた。竜の生態のことも、竜の渡りの意味も、本だけでは分からないことだらけだ。

 どんな人が来るんだろう。どんな話が聞けるんだろう。


 「……楽しみだな」


 チェリはそう言って、自然と顔がほころんだ。

 それを見たハリュナルが嬉しそうに笑った。


 「チェリの役に立てて良かった!」


 「……ありがとう、兄様」


 チェリが素直に言うと、ハリュナルは一瞬きょとんとした顔をして、それからまた笑った。照れているようだった。


 「ナツ兄様も、ありがとう」


 「別に。兄上が動いただけだ」


 ナツァークはそっけなく言ったが、視線は少し柔らかかった。


 サジットはその様子を眺めながら、静かに息をついた。


 (竜生学の教師が来る……)


 これでようやく、自分が教えられなかった部分を誰かに託せる。肩の荷が下りるような気持ちと、少しだけ寂しいような気持ちが、同時に湧いてきた。


 「では、俺たちはそろそろ」


 ハリュナルが立ち上がりながら言った。


 「おばあさまたちに捕まる前に、一度自分の部屋に戻っておきたい」


 「捕まるって……」チェリが苦笑する。

 「挨拶はしてきたが、用事……チェリへの報告が終わったらお茶会をしようと約束させられたんだ」

 「安易にそんな約束なんてするから」とナツァークが言った。

 「ああでも言わないと離してくれないだろうが。他に何ができるんだ?」

 「……無理だな」

 「だろ?」


 チェリとガンマが吹き出した。ナハヤも珍しく声を上げて笑っている。


 「また来るよ。滞在中はいつでも」


 ハリュナルがそう言いながら扉へ向かう。ナツァークが一礼して後に続いた。


 扉が閉まる直前、ハリュナルが振り返った。


 「チェリ」

 「なに?」

 「勉強、頑張れよ!」


 それだけ言って、扉が閉まった。

 チェリはしばらくその扉を見つめていた。


 兄たちの足音が廊下の奥へ遠ざかっていく。やがて聞こえなくなると、教室には春から続く静けさが戻ってきた――と思いきや、バタバタとした足音が遠くから響いてくる。

 ノックと同時に扉が開き、おばあさまたち五人が教室になだれ込んできた。


 「あら?ナルちゃんとナッちゃんは!?」

 「もー、どこへ行ったのかしら?」

 「さっきまでいた気配はする」

 「自分の部屋に戻っているんじゃないか?」

 「大学のお話をたくさん聞かせてほしいのに……」

 おばあさまたちは教室内を見回して二人がいないことを確かめると、揃ってにっこり笑って一礼した後、すぐに扉を閉めて出ていった。賑やかな足音が遠ざかっていく。


 「ナル兄様の、おばあさま察知能力?っていうの?すごい……」

 「俺たちよりも10年は付き合いが長いからな……」

 「魔力の気配とかも感じて逃げてそうだよね」

 チェリたちは心の底から感心していた。

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