17 おばあさまたち 五人の襲来
扉が開いた。
そこにいたのは、五人のおばあさまたちだった。そしてその後ろには、それぞれ椅子を抱えたメイドたちが続いていた。
先頭に立つネイディーアが、籠を抱えたまま涼しい顔で言った。
「授業の邪魔をするつもりはありませんでしたが、ちょうど終わった頃合いかと思いまして」
「終わったところです!」
ガンマが机に突っ伏したまま元気よく答えた。
その間にもメイドたちは慣れた手つきで椅子を並べ、一礼して静かに教室を出ていった。
「ちょうどよかった。はい、これ」
リッテが大きな籠をどんと机の上に置いた。中には焼き菓子がぎっしりと詰まっている。
「疲れた頭には甘いものよ。遠慮しないで食べなさい」
「わあ……!」
チェリとガンマは顔を輝かせて籠に手を伸ばした。ナハヤも本を置いて、静かに一つ取る。
「それと、これはサリアから」
ネイディーアがもう一つの小さな包みを差し出すと、サリアが我慢できなかったように前に出た。
「甘柑の砂糖漬けよ! 先生にもどうぞ~!今私の商会でイチオシの商品なので、是非先生にも良さを分かっていただこうと……」
「え、あ、私に……!?」
サジットは突然サリアにまくし立てられて、裏返った声を出してしまった。五人全員の視線が一斉に自分に向いていることに気づき、背筋を伸ばす。
「し、失礼いたしました。サジット・フィンラーと申します。本日より、お孫様がたの指導を……」
「知ってますよ。チェリたちをよろしくお願いしますね」
エルナダが優雅に微笑みながら言う。
「先ほどはサリアが失礼しました」
リッテがサリアを肘で後ろに押しのけながら頭を下げる。
その様子を見てサジットは慌てて深くお辞儀をした。
「は、はいっ、全力で……!」
「固くならないで。ここでは気楽にしていてくださいな」
「気楽に……」
サジットは繰り返したが、目の前にいるのが西の英雄の妻たち五人だという事実は変わらない。気楽になれるわけがなかった。
その様子をミルザがじっと見ていた。
「ねえ、サジット先生って魔法は?」
「え、魔力は……一応、少し持っていますが、それほど……」
「どのくらい?」
「ミルザ、いきなりそういうことを聞くものではありませんよ」
ネイディーアが窘めたが、ミルザはきょとんとしている。
「気になるじゃん」
「先生の魔力がどのくらいかは関係ありません」
「あんまり先生をいじめないであげてよ」
「いじめてないし……」
チェリが苦笑しながらミルザをなだめると、サジットはほっと息をついた。
「まあまあ座りましょうよ。せっかく来たんだから」
サリアがそう言って、空いている椅子を引き寄せた。気づけば五人のおばあさまたちは思い思いに席につき、菓子をつまみながら三人に話しかけ始めていた。
「今日は何を勉強したの?」
「手で字を書く練習だよ」とチェリが答えると、リッテが「ほう」と頷いた。
「うちの子らも同じことをやったものよ。手が痛くなるんだ」
「痛い!めちゃくちゃ痛い!」
ガンマが手をさすりながら訴えると、リッテは豪快に笑った。
「そのうち慣れる。慣れたら強い」
「慣れるまでが長いんですけど……」
「先生は厳しく教えていらっしゃるの?」
エルナダがサジットに話しかけると、サジットは慌てて首を振った。
「い、いえ、厳しくはない……つもりです。ただ……基礎からしっかりやってもらいたいので」
「いい先生ね」
エルナダがそう言うと、サジットはまた深くお辞儀をした。
教室の中はあっという間に賑やかになっていた。菓子がいくつも並び、誰かが笑い、誰かが話し、授業中の静けさが嘘のように消えている。
サジットはその光景を少し離れたところから眺めながら、焼き菓子を一口かじった。
甘くて、やわらかかった。
(……こういう環境で育つと、ああいう子たちになるのかしら)
三人が五人のおばあさまたちに囲まれて、にぎやかに笑っている。チェリもガンマもナハヤも、この場所では自然な顔をしていた。
緊張は、まだ抜けていない。けれど、悪い場所ではないかもしれないと、サジットは思い始めていた。




