表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

ep9 おセンチメンタル・チャイ

※この物語は、1DKという名の宇宙船で大銀河を生き抜く、一人の女性の等身大スペースオペラである

雨だ。


 重く湿った大気が、アカネハイツ203号の外装を叩いている。


 こんな夜は、私こと艦長だって、おセンチメンタルという名の磁気嵐に翻弄されることもある。


 昨日の、士官学校(大学)時代の戦友の結婚式。

披露宴という名の観艦式で、私以外の出席者は皆、随伴艦パートナーを従えていた。


「艦長、独りなの?」


 その問いへの答えは、大宇宙の闇の中……ブラックホールの先にある事象の地平線の彼方に放り出しておいた。


「……ハン・ソロのような、ハイパースペースの理屈がわかる人材が、この銀河にあと何人残っているというのか」


考えても仕方のないことは、熱量カロリーに変えて処理するに限る。


私はマグカップにティーバッグを投入し、牛乳を注いだ。


 最近のティーバッグは、ホチキスではなく糊で封印されている。電子レンジという名の「粒子加速器」に入れても火花を散らさない、極めて平和的な仕様だ。

加熱終了。


仕上げに、期限切れという名の「ヴィンテージ」なシナモンを少々。


これで、203号室特製の「簡易チャイ」が完成した。

ソファという名のコックピットに深く座り、毛布を被る。


メインスクリーンに映し出すのは『インターステラー』


 愛と重力と、五次元の孤独。

スパイスの香りが鼻腔をくすぐり、熱い液体が胸の奥の凍てついた回路を少しずつ溶かしていく。


……うん、普通。


だが、この「普通」の温かさこそが、今の私には必要な推進力だった。


五次元の書庫から語りかける父親のように、私は自分の孤独を、少しだけ誇らしく思いながら眠りについた。



 ▼今回の作戦費用報告(Mission Expense Report)

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 【投入資産】    【コスト】 【備考】

 ・精神安定剤(紅茶):  10円  (糊止め・最新型)

 ・冷却用緩衝材(牛乳):  30円  (コンビニ補給分)

 ・芳香兵器シナモン:  0円  (時を越えた遺産)

 ・精神防護服(毛布):  0円  (実家からの支給品)

 ──────────────────────

 【合計コスト】  :  40円

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 【作戦評価】

 精神的磁気嵐からの離脱に成功。

 「インターステラー」視聴により、孤独のスケールを宇宙規模に拡大。

 明朝、重力圏(出勤)への再突入に向け、心身を再起動する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ