ep9 おセンチメンタル・チャイ
※この物語は、1DKという名の宇宙船で大銀河を生き抜く、一人の女性の等身大スペースオペラである
雨だ。
重く湿った大気が、アカネハイツ203号の外装を叩いている。
こんな夜は、私こと艦長だって、おセンチメンタルという名の磁気嵐に翻弄されることもある。
昨日の、士官学校(大学)時代の戦友の結婚式。
披露宴という名の観艦式で、私以外の出席者は皆、随伴艦を従えていた。
「艦長、独りなの?」
その問いへの答えは、大宇宙の闇の中……ブラックホールの先にある事象の地平線の彼方に放り出しておいた。
「……ハン・ソロのような、ハイパースペースの理屈がわかる人材が、この銀河にあと何人残っているというのか」
考えても仕方のないことは、熱量に変えて処理するに限る。
私はマグカップにティーバッグを投入し、牛乳を注いだ。
最近のティーバッグは、ホチキスではなく糊で封印されている。電子レンジという名の「粒子加速器」に入れても火花を散らさない、極めて平和的な仕様だ。
加熱終了。
仕上げに、期限切れという名の「ヴィンテージ」なシナモンを少々。
これで、203号室特製の「簡易チャイ」が完成した。
ソファという名のコックピットに深く座り、毛布を被る。
メインスクリーンに映し出すのは『インターステラー』
愛と重力と、五次元の孤独。
スパイスの香りが鼻腔をくすぐり、熱い液体が胸の奥の凍てついた回路を少しずつ溶かしていく。
……うん、普通。
だが、この「普通」の温かさこそが、今の私には必要な推進力だった。
五次元の書庫から語りかける父親のように、私は自分の孤独を、少しだけ誇らしく思いながら眠りについた。
▼今回の作戦費用報告(Mission Expense Report)
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【投入資産】 【コスト】 【備考】
・精神安定剤(紅茶): 10円 (糊止め・最新型)
・冷却用緩衝材(牛乳): 30円 (コンビニ補給分)
・芳香兵器: 0円 (時を越えた遺産)
・精神防護服(毛布): 0円 (実家からの支給品)
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【合計コスト】 : 40円
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【作戦評価】
精神的磁気嵐からの離脱に成功。
「インターステラー」視聴により、孤独のスケールを宇宙規模に拡大。
明朝、重力圏(出勤)への再突入に向け、心身を再起動する。




