ep60 逃避行
……一五〇〇(ヒトゴーマルマル)
私は、灼熱の管制室で、ただ立ち尽くしていた。
メインコンピューター(エアコン)は沈黙し、旧式プロペラ機(扇風機)は「……モウ、限界デス……」とでも言いたげな異音を立て、熱風をかき混ぜている。
整備兵(修理業者)への長距離ワープ通信(電話)によると修理依頼が立て込んでいて、アカネハイツへの来訪は早くて四日後……
「……このままでは、私が豆腐もやしバーグ(完熟)になってしまう」
私は、極限状態の脳細胞をフル回転させ、一つの化学兵器を召喚した。
「ハッカ油」
かつての北海道遠征で入手した、北の地の魔力が宿る揮発油だ。
「……風呂という名の冷却プールに、これを数滴投下。……物理的な温度ではなく、脳の信号を直接ハッキングして涼しさを得る。……完璧な作戦だ」
入水。
…………。
「……ん? ……おお、涼し……冷た……寒い! 寒い寒い寒い!!」
細胞が悲鳴を上げた。
感覚は「マイナス40度の氷原に放り出された」と絶叫しているが、実際は30度の温水。
浴槽から脱出した私の身体は、脳が「極寒」と誤認して熱を生成しようとするパニックに陥り、逆に汗が噴き出すという「内部熱暴走」を引き起こした。
「……あ、これ……死が見える。……死神が、ハッカの匂いをさせて笑っている」
私はふらつく足取りで、コールドスリープ装置(冷凍庫)へと這い寄った。
緊急冷却材、「ガリガリ君(ソーダ味)」を起動。
内臓から直接冷却をかける、禁断の内部冷却プロトコルだ。
「ひょへんはほっはいほうひひっはほは……(去年は北海道に行ったよな……)」
ガリガリ君で舌が凍結し、言語機能に障害が出ながらも、私の脳裏に鮮やかな北の地の情景がリフレインする。
そうだ、あの大地は涼しかった。アルカディア号で駆け抜けた、あの風。
「……よし。……夏休みだ。……この灼熱のアカネハイツを放棄し、金のかからない『避暑戦域』への強行偵察を敢行する!」
▼緊急損害管理報告(Damage Control Report)
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【生命維持装置】 : 全機能停止中(修理まで残り96時間)
【特殊兵器】 : ハッカ油(使用禁止・劇物指定)
【緊急冷却】 : ガリガリ君ソーダ味(残数1)
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【次なる作戦目標】
・予算ゼロ、あるいは低予算で涼を確保できる座標の特定。
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