ep5
※この物語は、1DKという名の宇宙船で大銀河を生き抜く、一人の女性の等身大スペースオペラである
金曜日。
21時14分、私はハッチを閉鎖すると同時に確信していた。今夜のミッションは「カレー」であると。
古事記にも書いてある通り、船乗りは金曜日にカレーを食うのが鉄則だ。……まあ、諸説あるようだが、203号室の艦長たる私がそう決めたのだから、それがこの宇宙の真理である。
「だが、今夜はいつもと違う。強力な支援物資があるからだ」
私は雑嚢から、怪しいパッケージの物体を取り出した。
『ヒゲ屋謹製カレーの素』
不定期で開かれる謎の補給基地(ポップアップ居酒屋)の主から、強引に渡された特殊軍需物資だ。一個500円という、我が艦の予算を根底から揺るがす高級品だが、今回は「無償供与」である。
「水100ccと混ぜて加熱するだけ……。だが、具がない」
ホワイトホール(冷蔵庫)を緊急スキャン。
いつから存在しているか不明なスライスチーズ(戦闘糧食)。
そして、野菜室の隅に潜伏していた「袋詰めの千切りキャベツ」。
「……閃いた。今夜は『ギャラクティカ・キャベツカレー』を構築する」
フライパンという名の戦場にバターを溶かし、キャベツを投入。
シャキシャキとした食感を残しつつ、熱という名の圧力を加える。
そこへ『ヒゲ屋』の粉末を投下し、水を注ぐ。
――その瞬間、艦内の空気が一変した。
「……っ、このスパイスの香り……。ただのインスタントではないな」
鼻腔を突き抜ける本格的な芳香。
仕上げにスライスチーズを乗せ、ハッチ(蓋)を閉鎖。余熱でチーズを溶解させる。
黄金色の海に、キャベツの島が浮かぶ。
「……これは…金麦一本では、この火力を受け止めきれんぞ!」
私は予備の金麦を冷蔵庫から引きずり出した。
明日は休み。残存兵力(在庫の酒)をすべて投入する「総力戦」の開始だ。
「実食」
…………。
……う、うまい。
いや、これは「普通」ではない。スパイスの奥深さが、1DKの安普請な壁を突き破ってインドの平原を見せている。
キャベツの甘みとチーズのコクが、暴力的なスパイスを優しく包み込む。
「……ヒゲ屋店主、恐ろしい男だ」
私は、二本目の金麦を喉に流し込んだ。
明日の予定? そんなものは、このスパイスの海の中に消えてしまった。
▼今回の作戦費用報告(Mission Expense Report)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【投入資産】 【コスト】 【備考】
・全力燃料(金麦) : 400円 (連休前特別体制)
・支援物資 : 0円 (贈答品)
・戦略的繊維 : 80円 (キャベツ)
・防護装甲 : 20円 (チーズ)
・冷凍白米 : 20円 (いつかの)
──────────────────────
【合計コスト】 : 520円
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【作戦評価】
「ヒゲ屋」製カレー粉の戦闘力を確認。
キャベツとの相性は極めて良好。
二本目の燃料消費により、明日昼過ぎまでのワープ航法が確定した。




