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慈眼是親の脆弱性

 魔王を討伐したことで私とルカ、色即是空はさらにレベルアップした。

 私の精神魔法には新たに「干渉」が加わり今までの魔法も強化された。干渉、それは他人の精神に入ることができる魔法だ。何のためにその能力が得られたのか私は後に知ることになる。


 ルカは討伐前に鑑定魔法の「記憶化」を得ていた。一度鑑定した相手のステータスを記憶することができるスキルだ。2度目以降に同じ相手を鑑定した場合、即座に変化が分かるようだ。

 

 星月夜即真は2種類の魔法を同時に使う二重魔法を発動。火・水・風・雷に闇魔法と武器を出現させて操る特殊魔法が加わった。獅崎とのコンビネーション攻撃も強力、多彩になった。


 獅崎十色は戦闘中に武器の巨大化魔法を習得。魔剣デビルキラを巨大化し、聖剣と2本使いで圧倒的な攻撃力を見せた。魔法を武器に帯びさせての特殊攻撃も強力になった。

 

 化身美空斗は幻獣麒麟をテイムできるようになり、魔王から奪った魔力で味方を一斉回復する特殊魔法の使い手を味方にした。さらに羽を手に入れいつでも自力飛行ができるようになった。

 

 慈眼是親は5層まである特殊バリアと、一度かけられた魔法の免疫を獲得し二度とかからない特殊魔法を発動。あらゆるステータス異常を防ぎ回復し物理攻撃を跳ね返す三重魔法も習得した。


 

 ──

 ガランにジャンプした後、規定通り色即是空とルカを魔法医の所に連れて行った。

「数日は戦闘を控えるように」

 そう言われて大人しくしている連中ではない。化身は早々にドラゴンを呼び出して空を飛び回っているし、星月夜もその辺を歩いていたヒヨコ鳩を捕まえて飛んでいた。

 

 転移ショックの症状は主に頭痛やめまい、吐き気など。幸い誰もそのような症状は出なかった。しかし魔法医は「今は大丈夫でも後から出る事もあるので注意が必要です」と念を押す言い方をした。

 その通り、転移の影響は後からの方が症状が重くなりやすいのだ。それは、転移の際にかけた魔法が影響するからだ。


 私は今回の転移の際、色即是空に魔法をかけ、2つは慈眼是親にブロックされた。よって、かけた魔法は『記憶復活』のみとなるが、魔法医によると忘れるよりも思い出す作業の方が脳に負担がかかると言う。また、記憶を取り戻すことで心身に不調が生じる事もある、何かあればすぐに呼んでくれと言われた。

 本人たちにも話をした。突然昔の事を思い出し混乱するかもしれない。不調があれば報告してほしいと。


 心配を他所に、4人は過去の記憶を取り戻していったようだが特に問題はなく、魔王討伐も無事終了した。討伐成功の祝いに出席し、パレードにも参加したその後だ。


 慈眼是親がダウンした。

 パレード後の歓談中に汗をかいて苦しそうにしている慈眼に気づき、獅崎十色が担いで部屋に運んだ。

 私は魔法医を呼び、診察の結果を聞いた。


「高熱が出ています。回復魔法が効きません。回復薬を飲ませましたがそれも期待できないかと。ガラン風邪か魔王軍がばらまいたウィルスか、緊張が続いたのか……とにかく今は安静にしているのが良いと思います」


「回復魔法が効かないというケースはよくあるのでしょうか?」

 私が聞くと魔法医は「ええ」と頷いた。ガランでは名のある老魔法医だ。ガラン滞在中の専属医として近くに滞在してもらっていた。

 

「原因が精神的なものでも身体に異変が起こることはあります。その場合、魔法や薬は効かず自然に治るのを待つしかありません」

 

「どのぐらいで治りますか?」

「2〜3日で症状が収まる場合もありますが、熱が下がらなければ危険な場合があります。回復センターに連絡しておきますね」


 ……私の魔法のせいだ。

 その晩、慈眼が夢に現れた。暗い夜道で迷っている。声を掛けたらこちらを向いて手を差し伸べてきた。助けてほしいというメッセージに思えた。差し伸べた手を取ればこちらへ戻って来られるのだろうか。分からないがやってみる価値はありそうだ。


 翌日も熱が下がらない慈眼を、3人の仲間とルカは心配そうに見ていた。私は夢を見たことを話し、会得した干渉魔法で慈眼の記憶に入ってみると説明した。初めてのこと、できるかどうか分からないが。

 

 慈眼の額に手を当てて、呪文を唱えた。瞬時に周りの空間が変わった。

 

 慈眼は子供になっていた。6〜7歳ぐらいだろうか。泣いているようだ。

 広いリビング。ピアノと大きなソファ、調度品などがある。芸術家らしい両親のコンクールのトロフィーや有名人との写真などが飾られていた。子供が好むような玩具や人形が見当たらない。


 慈眼に話し掛ける。

「是親くん、どうしたんだ?」

 

「僕はずっと1人でこの家にいるんだ。父さんも母さんも帰って来ない。たまに帰って来るけどすぐにまた出ていくんだ」

 おかっぱ頭の慈眼少年はどことなく私の幼い頃に似ている。

 

「淋しいのかい?」

「うん」

「お祖母ちゃん、生きていたんだね」


 私はいつの間にか慈眼の亡くなった祖母になっていたらしい。丈の長いスカートを穿いてゆったりした上着を羽織った上品な老婦人だ。生きていた頃、彼女は慈眼にどんな話し方で何を話したのだろう。

 

「そうだよ、ユキ。今日は何をして遊ぶ?」

 

「遊ぶの? ドリルが終わったら?」

「そんなものやらなくていいのさ。さあ、これで遊ぼう」

 私はテーブルにトランプとチェスを出現させた。夢の中のようなものだから何でも出せる。


「最近のゲームは知らないがこれならできるよ」

 菓子やジュースも出して「今日は何でもありなんだよ」と言った。

 

「今日のお祖母ちゃん、面白いね」

 子供らしく笑っている。


「ババ抜きは知っているかい? 七並べは?」

「知らない、教えて。チェスも」

「ああ、いくらでも」

 童心に帰ってゲームに興じた。

 

「さあ、もう遅いからベッドへ行って眠るんだ」

「お祖母ちゃんも」

「わかった」


 幼い慈眼の手を取り寝顔を見て、懐かしく温かな気持ちになった。

 弟のオーリやルカと眠った何十年前も前の事を思い出した。

 

 私は昔、親を亡くした子供たちのために何かしてやりたかった。自分がそうしてほしいと思ったように。大事にされ、この世にいてもいいんだと思えるように。プレ討伐隊で義理の家族をつくり、役目と目標を持たせることができた。オキザリスでたくさんの子供たちを救えた事にも満足している。

 ガランにオキザリス支部もでき、レイナのような優秀なジャンパーが何人も現れた。私の出番はそろそろ終わりだ。

 

 場面が変わり、慈眼が成長した姿になった。マンションの一室にいる。

 日本に戻って来た時の養子先の家だろう。

「蓮次さん」と慈眼が言う。

 私は今度誰になったのだろうか。自分の腕を見ると入れ墨があった。

 養子先の家族構成は義両親だけだと思ったが、どちらかの父親のようだ。


「ああ。是親くんは元気かい?」と私は言った。慈眼はそんな普通の言葉を欲しがっていたように思えたからだ。

 

「はい。どんな形でも蓮次さんに会えて嬉しいです。私は今、遠い所に行っています。1年がかりで友人たちと長年の夢を叶えました。それを聞いて欲しかったんです」

 

「よくやったね」

 私は頷いて微笑み、それ以上は言わなかった。きっと、どんな言葉も相応しくないだろうから。慈眼は瞳を潤ませると満足したように微笑んだ。

 

「蓮次さんは私の恩人で、急に亡なったのでもう一度顔が見たかったんです。ありがとうございます、市長」

 少し驚いたが、慈眼はもう大丈夫だと感じた。

 

「私が六波羅だと分かっているんだね」

「ええ。すみません、記憶の中に引っ張り込んで。わざとではなく無意識で呼んだのです。精神魔法が使える市長なら来られるし、来てくれるだろうと。でも、もう戻れそうです」


「良かった。皆、心配しているよ」


 マンションの室内が変化していく。慈眼の姿も見えなくなった。一瞬の闇の後、私は慈眼の記憶から出てきたことを知った。

 私の手は慈眼の額にあり、長い時間記憶の中で過ごしたように思ったが、ほとんど時間は経っていなかったようだ。


 起き上がった慈眼を見て、皆ほっとした顔になった。

「良かった!」

「ユキ、起きれるのか」

「どうなるかと思ったぜ」

 

「兄さん、上手く行ったんですね」

「ああ」


 慈眼の熱は下がり、その後も不調はなく回復した。

 記憶の中での出来事は2人の秘密だ。もっとも慈眼にあの時の記憶が残っていればの話だが。

 後半で認識しているような事を言っていたが、彼の都合に合わせて私の存在は消されるだろう。彼自ら私を呼んだ事や、私に助けられた事も。だが、それでいいのだ。


 なかなか楽しい体験だった。

 慈眼是親は私を全面的に信頼し、弱みを見せた。消されていた過去を思い出した時、想像を絶するクライシスに遭ったのだろう。混乱させた原因は私にあるのだから、彼が無意識にでも責任を私に向けたのだとしたら正しいやり方だ。彼は私の父性を利用したことを自覚していないようだが。

 

 私は祖母になり亡き恩人になり、慈眼の悲しい記憶を温めた。それは捏造ではない本当の記憶だ。彼が渇望していたものであり転移ショック回復の鍵だった。


 慈眼是親の脆弱性は若く純粋であるということ、両親特に父親からの愛情に飢えていたところにある。

 私はそこにつけ込ませてもらった。

 幼い状態の慈眼に記憶消去の魔法をかけておいた。日本に戻ったら発動するように。他の3人はすでにかけてあるから、全員揃って日本での過去を忘れることだろう。


 

 私は地球に戻ってしばらく後、オキザリスを解体し地球を離れるつもりだ。

 政府が私たちを管理し始めた今、オキザリスは存在する意味を失った。私の存在も政府にとって邪魔なようだ。

 メンバーには秘密裏に話をしてある。今後の身の振り方を考えてほしいと伝えた。


 数ヶ月後か1年後か……その間でも、追手が迫るようならここガランに跳ぶ。

 百合と共に。二度と地球には戻らないだろう。

 

 ルカは地球に残ると言う。『でるでる課』に配属された彼らの上司としての役目があるからと言っていた。オキザリスとは関わってこなかったルカなら大丈夫だろう。


 色即是空についても。私たちと関わったことで若者たちが苦しまないよう、記憶を消す決断をした。



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