戦う理由
「おじさんたちも一緒に戦うの?」
声の主は獅崎十色だった。
「獅崎さん! 目が覚めたんですか」
「眠かったからちょうどいいと思って寝てたけど、剣の練習始めたから……起きちゃったよ」
目をこすりながら起き上がり、あぐらをかいていた。
「俺ら魔王討伐に来たんだろ?」
「どうしてそれを?」
兄さんが獅崎に尋ねた。
「阿羅漢さんがウチに来た時、母さんがそう言ってた。職員募集は建前で、本当は魔王討伐メンバーを集めているって。それで俺、それなら市役所に行くって言ったんだ。秘密らしいけどもう来ちゃったから言ってもいいよね」
「馬鹿な……魔法は……記憶改ざんの魔法はかかってはいないと?」
「うん」
「そんなはずは……私は確かに」
兄さんが動揺している。
「僕らが魔王討伐する件? んっ……そろそろだなと思ってた」
化身美空斗が両手を上げて大きく伸びをした。
「ふわあ……ひよいよかあ」
大きなあくびをして星月夜即真も起き上がった。
「どうして皆、魔法がかかっていないんだ?」
「ユキがブロックした、らしい」
獅崎が言うと、慈眼是親が上体を起こし眼鏡の位置を直しながら「はい」と言った。寝たふりをしていただけのようだ。
「正確には、一部の魔法を除きブロックさせていただきました」
「そんなことができるんですか?」
「はい。順番に説明すると……転移直前に私は、全員を一時的に魔法ブロック状態にしました。そして転移直後に、模倣魔法を使って一瞬だけ阿羅漢さんにならせていただきました」
「わ……私に?」
「ええ、阿羅漢さんの鑑定魔法が必要だったのです。六波羅市長の精神魔法能力を鑑定するために。
鑑定したところ、主な精神魔法は3種類『記憶消去』『記憶生成』『記憶復活』で、六波羅市長はこれらの魔法を組み合わせて、今まで私たちの記憶を改ざんしてきた事がわかりました。
日本とガランを往復した時は『記憶消去』と『記憶生成』を使ったのでしょう。ガランに再び来た今『記憶復活』を使うだろうと予測しました。
ですから『記憶復活』魔法は受け入れ、後はブロックすることにしたのです」
あっけに取られて話を聞いている若者たち。兄さんは渋い顔で考え込んでいる。
「なるほど、そうすると現在、皆さんの記憶は何も歪められていない状態になっているのでは」
私が言うと慈眼が頷いた。
「そうだと思います。トイロさんどうでしょうか? 昔のこと、思い出しましたか」
「ん……とだな、俺は日本で生まれた。うん。それでどっかの団体に保護されて? どういうわけか地球ではないガランに来ていた。そこでマコトという兄貴分ができて、弟分になるミクトが来てユキが来て……2年前にまた地球に戻ったんだ。何でだっけな。細かいところ、日本のどこで生まれ何があって保護されたというのは分からない」
獅崎は神殿の向こうにある大樹を見ながら話した。突然蘇った記憶をひとつひとつ確かめながら話しているように見える。
「僕も思い出したよ。小さい時に日本で何かあった。断片的にしか思い出せないけど、良い事じゃなさそう。それで保護されてガランに来たらマコトとトイロがいて……最後にユキが来た。僕ら一度、魔王討伐しようとしてたよね?」
化身の話を聞いた星月夜が、はっとした顔をした。
「討伐! 魔王って顔が3つあったよな。覚えてるよ。俺ら結構強い部隊だったと思うけど、魔王はめちゃめちゃ強くなかった? 全然歯が立たなくて……ヤバいと思った時に誰かに助けられたような……一瞬見えたのは母親ぐらいの歳の人で……あ! あの人」
少し離れた場所でこちらの様子を見ていたジャンパーのレイナ・セルヴィエスが、星月夜のリアクションに気づいて片手を上げた。
「レイナさんですね。そうです、彼女があなたたち4人を日本に転移させたんです」
説明すると大いに反応があった。
「俺たちを助けてくれたんですね! 後でゆっくりお礼を言います」
「ジャンパーって転移魔法を使う人の事だろ? カッコいいな!」
「4人も同時に跳んだってホント? 凄すぎる! 覚えていないのもったいないな」
レイナさんはくすくす笑っている。目覚めた小鳥たちが騒ぎ出したように見えているんだろう。
兄さんは私たちと一緒にジャンプしてきたパイプ椅子に腰掛け、しばらく様子を見る構えだ。
星月夜が話を戻した。
「俺の場合、生まれはガランだった。ある日突然トイロが来て、それからミクト、ユキも来て。それで皆と一緒に日本に転移した。高校に通い広告会社へ就職して、市長のスカウトで市役所に転職になって……今、あれは本当であれは嘘だったんだなあ、なんて思っているわけだけど。きっとこれからもっとたくさんの事を思い出すのかな」
「私は精神魔法はかからないので、全部覚えています」
慈眼がそう言うとまた賑やかな反応に包まれた。
「なんだって!」
「おーい!」
「なんでユキだけ」
「……多分賢者なので」
「そうだった。俺らとは違うんだよねこの人」
「それなら仕方ない」
「許す」
「ユキの記憶も聞かせてよ、記憶ってか生い立ち」
星月夜が言うと慈眼が話し始めた。
「私は11歳の時に日本で保護され、転移魔法でガランに来ました。ここで私の到着を待っている人がいて、マコトさんたちの所へ連れて行ってくれました。トイロさんとミクトさんに比べると短い6年の月日でしたが、ガランでの日々はとても楽しく充実していました。
そして2年前に日本に戻ってきてからは養父母の元から学校へ通う生活に変わりました。阿羅漢さんに声を掛けてもらい市役所勤務が決まりましたが、入庁式直後にまたガランに来るとは思いませんでした」
「すみません、討伐の件はまだ先と思っていて、いつか話そうと思っていました」
咄嗟に謝った。彼らから見たら、私も兄さんと同じ騙し討ちをした側なのだ。
「ずっと忘れていたことを急に思い出すのって妙な気分だな」
獅崎がぼそりと言った。
「わかる。講堂で会った時に、やたらデカい人いるなあと思ってたけどトイロだった」
「俺も女子がいた! ってぬか喜びしちゃったぜ。ミクトだったとはね」
「残念でした!」
「俺は? 見たことないイケメンが来たって思わなかった? ……ちょ、寝るな! さっきまで寝てただろうが!」
ハハハと笑い合う若者たち。
「突然ガランに来たり日本に戻ったり訳わかんねえけど、俺たちを助けてくれたわけだよな? 魔王と戦わせるためにだろうけど」
獅崎がそう言うと、兄さんは顔を上げて姿勢を正した。
「そうだ。最初は孤児を増やしたくない、子供たちが助け合い自衛しながら強くなる世界を目指し、私はプレ討伐隊活動を始めたんだ。
オキザリスの志も同じだと思っていたが違った。私も、根本的には魔王を倒さない限り平和は得られないことに気づき、いつしか強い能力者を集めて魔王討伐することが目的になっていった。
しかし、君たちには謝らなければならない。魔王討伐に君たちを利用しようとしていたことは事実だ。すまなかった……君たちの人生を」
「おっと、今更謝ってもらっても、もう時間は戻らないんだ」と、被せるように星月夜が言った。
「時間は戻らないけどさ、戦いますよ? 俺は」
親指を立てる星月夜を見て、兄さんの口元が緩む。
「俺は最初からそう言ってるけどな!」と獅崎が言うと
「僕も楽しみにしていたんだ。ガランなら思いっきり召喚できるし」と化身。
最後に慈眼が穏やかな口調で言った。
「記憶を変えなくても戦います。動機はあります。オキザリスが私たちを救ってくれたことへの感謝です」
吹いてきた風で慈眼の髪がふわりと揺れた。
「……ありがとう」
兄さんは立ち上がって4人に頭を垂れた。
4人も順次立ち上がった。
「いやいや、俺たちの第二の故郷だからな、ガランは。礼を言われるのは変だ。それに、ここでヤツをやっつけておかないと日本に行くんだろ? それは絶対許せねえ。お望み通り息の根止めてやるぜ!」
獅崎が力強く言うと、皆頷いた。
「色々思い出しているうちに、転移の理由がわかったよ。利用されてるとは思わないよ。利用じゃなくて期待! 僕らしかいないんだからさ、魔王討伐できるの」
化身の言葉に慰められた。
「そうそう、最強チームの運命、的な? ブラック企業出身だから打たれ強いのよ俺は」
「関係あるのか?……リベンジはしたいよな!」
彼らのおかげで罪悪感が少しずつ減っていく。こんな風に許されていいのだろうか。
神殿の外で空を飛ぶ者たちが呼び合っている声がする。地球とは違うガランの空気を感じた。
「先ほどの阿羅漢さんの言葉、嬉しかったです」
白菊が微笑む。
「いやあ、聞かれていたとはお恥ずかしい」
「上司だから」と私の口真似をする星月夜に「勘弁してください」と苦笑いをした。
「いえ、カッコ良かったですよ」と言われさらに照れる。
レイナさんもこちらを見て微笑んでいる。
「皆さん、一緒に戦うのかという先の質問ですが」
兄さんが口を開き皆が注目した。
「そうです。一緒に戦います。戦って魔王を倒します! 私と、阿羅漢と、色即是空で」
「色即是空って……もしかして」
「僕たちのチーム名?」
星月夜と化身が小声で言う。
「何だか昔の暴……」
「トイロは静かに」
星月夜が獅崎の口を塞ぐ。
「大気圏外までぶっ飛ばせそうだぜ!」
「総長! ……じゃなかった市長!」
「2人とも不良漫画読みすぎ」
「皆さんとなら運命を共にできます。ではよろしく! 野郎ども」
ピン! と色即是空の魔法のロックが外れ、若者たちの周りに魔力が滾った。
「我は化身美空斗、出でよ! 我が友チィド!」
化身が召喚魔法を唱えると「アーッ!」と鳴きながら小型のドラゴンが飛んで来た。
ドラゴンに飛び乗り「ちょっと飛んでくる」と神殿を出ていった。
星月夜はレイナさんと話をしている。
「親の歳の女性を口説くんじゃないぞ」と獅崎。
「いいだろが!」
「えっ」
「信じるな」
慈眼は兄さんと話している。
兄さんが笑った。
討伐はきっと上手く行くだろう。
日本から魔王を倒せる能力者たちがやって来たと、ガランは沸いた。
オキザリス・ガラン支部は地元民と協力して、魔王討伐計画が上手く進むようサポートしてくれた。
色即是空は地元の討伐隊と協力しながら魔王軍を削りつつ魔王のいる本拠地に進み、確実に戦闘技術を上げていった。
私は橘銀河が鑑定した魔王のステータスと、色即是空の能力から割り出した最速かつ安全な戦闘パターンを練り直しデータを取り分析した。
その後魔王に遭遇し、私の目で鑑定し直した所、魔王はレベルアップしていることが分かった。
想定内だ。色即是空も同様にレベルアップしている。
勝てる。
確信を持って挑んだ。
ガランに跳んで1年。私たちは遂に魔王を倒した。




