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「上司だから」──師弟対決

  私は気を失ったようだ。

 目を覚ますと目の前に巨大水晶があった。ここは……ガランの神殿だ! 以前とは異なる部分も多いが間違いない。ガランへ転移してきたのだ。


 横たわる4人の若者、その側に雲水兄さんと広報の女性がいた。兄さんは不意打ちで私たちをここに連れてきたのだ。あの部屋には魔法が満たされていたのだろう。

 状況が分かってくるとじわじわ怒りが湧いてきた。


「気がついたか、としお。課室から転移したんだ。この人はジャンパーのレイナさんで、ガラン危機でも4人を救った熟練のジャンパーだ。人数が多いので一緒に跳んでもらった」


「こんなやり方で!」

 思わず声を荒げた。

 

「どんなことをしても魔王は倒しておかねばならないのだ。彼らと一緒なら2、3年……いや1年で魔王を倒せるだろう。もちろん、としおの鑑定魔法は不可欠だ」

 

 やっと懐かしいガランに帰ってきたというのに、胸が痛むばかりだった。

「あの子たちに何て説明するつもりですか。突然こんな場所に連れて来られていきなり戦えと?」

 

「さっき魔法で記憶の改ざんを行った。彼らを見た人々も、彼らの存在に疑いを持たなくなる特殊魔法だ」

 涼しい顔で兄さんは言った。

 

「なぜそんなことを!」

 

「戦う理由を持たせるためだ。両親がいないのは魔王のせいだと記憶を書き換えた。家族を失った怒りと悲しみを原動力に戦わせるんだ。それに地球から来たと説明するより、現地人であると思わせた方が受け入れられやすい」

 

 あの優しかった兄さんが……悲しみが溢れてきた。

 

「そんな嘘を吹き込んで!」

「彼らを救ったのはオキザリスなんだ! 一度じゃなく2度も」


 兄さんは最初から彼らの犠牲を承知で計画を練ってきたんだ。

 私はどうして今まで気づかなかったんだ。オキザリスと兄さんの罪深い考えに。

 

「それもこちらの都合でしょう! ガランを救うために彼らは生まれたんじゃない。こんな風に騙して連れて来るなんて。兄さんは……随分勝手な人間になったものですね!」

 

「お前は悔しくないのか! 私たちを苦しめ続けた魔王を倒したくはないのか! 私はずっとこの日が来るのを待っていた」


 もう何を言っても無駄なのかもしれない。でも言わずにはいられなかった。

 

「私だって何度思ったか。鑑定魔法が再動した時からずっと……でも、こんなやり方はダメです! お願いです兄さん! この若者たちを元の世界に戻してください」

 

「どうしてそんなにこの若者たちに肩入れするんだ」


 なぜ不思議そうな顔をするのですか……なぜそんな事が分からないのですか……。

 

「私は……上司だから! この子たちより大人だからです。上司が部下を、大人が子供を守るのは当然でしょう。あなたが私を命懸けで守ってくれたように私もそうします、ゼクス・クラウド!」


「そうか……仕方ないな。来い! ルカ・アーハート。力で決着をつけよう」

 

 兄さんは壁にクロスして掛けてあった2本の模造剣を私に一本投げ、もう一本は自分で持って構えた。

 どういうつもりなのか分からないが受けて立とう。

 レイナさんは焦っているが、止めに入るつもりはないようだ。ならば見届けてもらおう。


 振り下ろされた兄さんの剣を、持っている剣で受け止める。上から斜めから横から振られる剣を受けてカンカンカンと音が響いた。

 隙を見て私が剣を振ると、一部が兄さんの身体を擦った。


「動き、鈍っているんじゃないですか? 兄さん」

「としおこそ私より7つも若いくせに、鍛錬が足りないぞ」


 プレ討伐隊時代に何度も繰り返した基礎練習は、今も身体に染み付いている。

 手に持った模造剣はこんなに小さかったのかと感じる。私より遥かに大きく見えた兄さんも、今は私とさほど変わらない。

 

 大きく振った剣が止められカーンと響いた。

「激しい運動は膝に来ますよ!」

「その腹で私に勝てると思うな!」

「同世代に比べてそんなには出てません……それよりも。兄さんは過ちを認めるべきです」


「過ちなどではない」

「いいえ、兄さんのやろうとしている事は人として間違っています」

 話しながら剣を振リ続けた。じんわり汗が滲む。

 

「間違っていようがもう後戻りはできないんだよ」

「そんな事はない! この水晶に入って元の場所に戻ればいい事です」

 兄さんの強く振った剣を身体を反らせて避けた。少し無理をしたので筋を違えていないと良いが。

 

「今更計画を中止にできるか!」

「するんです、それも勇気です!」

「減らず口が!」

 兄さんの額に汗が光り始めた。このまま続けて体力を奪い一振りで決めようか。


 その一振りが上手く行かず何度も空を切った。

 そうこうしているうちに、2人とも息が上がった。

 兄さんが剣を下ろし、私に言った。


「……仕方ない、本当の事を言おう。機密事項(トップシークレット)だ。魔王を倒さなければならない理由──魔王はオリジンを滅ぼした後、転移魔法を使って地球にやってくる」

 

 魔王が……地球に?


「それは本当の事なのですか?」

 

「ああ。百合の予言は的中率9割だ。百合だけではない、エルダー・リリーも予言していた事だ。オリジンが滅びたその後……魔王は必ず地球に、日本にやって来ると。魔王軍はオリジンだけでなく地球をも乗っ取るつもりだ」


「そんな……」


 言葉を失い、立ち竦んだ。その時。


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