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でるでる課新設、スカウトへ 〜ミクトの出生〜

 3人目、化身美空斗と一緒に住んでいるのは養母ではなく実母らしかった。

 連絡すると「話しておきたいことがある」と言われ、璞駅近くのカフェで待ち合わせをした。

 

 やって来たのは少年とよく似た綺麗な人だった。さっぱりとした飾り気のない服装、長い髪を無造作にまとめ、眼鏡をかけている。バイオテクノロジーの研究者と聞いた。名前は化身マヤ。


「私は美空斗が幼い頃、離婚したんです。その後美空斗とは会えなくなりましたが、2年前にオキザリスを通して偶然再会する事ができ、今は一緒に住んでいます。大雑把に言うとこんな状況です」

 

「そうだったんですか。美空斗さんにしてみれば、実のお母様と一緒に暮らせるのは嬉しいことでしょう」

 

「母親と言いましたが実は私、元は男で父親なんです」

「……女性にしか見えませんが」

 多様性という言葉が頭に浮かんだ。この場合どう対応すれば良いのか。

 

「私の両親はオリジン星のキラというところの生まれです。ガランからは遠く離れた地にあります。

 キラでは、子供は全員男の体で生まれ、成長と共に半数が女になります。成長過程ではしばし混乱も起こりがちで、性別が完全に定着するのは20歳以降と言われます」


「なんと……!」

 持っていたコーヒーカップを落としそうになり、指に力を入れた。

 

「私は日本人の元妻とオキザリスの本部で出会いました。私は18で、当時はまだ男でした。お互い学生だったため周囲には内緒で結婚し、翌年に生まれたのが美空斗です。子供が生まれて幸せなはずの結婚生活は、私が女に変化し始めたことで上手く行かなくなりました。

 妻には騙されたと責められました。女に変化することを隠して結婚したのかと。でも、私は孤児であり自分がキラで生まれた事を知らなかったのです。知ったのは、同じキラで生まれた人たちと会って話を聞いたからです」


「そんな事が起こるなどと誰が予想できたでしょう。奥様も驚かれたことでしょうが、マヤさん自身が一番動揺されたのではないでしょうか」

 

「ええ、自分の体の変化を受け入れるのが精一杯でした。それでも妻に対する労りの気持ちと相手の立場に立つ想像力がもう少しあったら……。どのみち、異性として結婚したのが同性になったのですから婚姻の継続は難しかったでしょう」

 マヤさんはカフェの外に目をやって、残念そうにフッと笑った。


「キラの存在は初耳です。オリジンはガラン以外まだ知られていない所がありそうですね」


「オリジンは過去3回、魔王に滅ぼされた星です。キラ人は新しい人類として、どこかの時代で発生したのだと考えています。私は今、大学の研究室にいますが、自分自身を研究材料にしてキラ人の解明を行っていきたいと思っているんです」

 

 オリジンで生き残った人々だけがオリジン人ではなかった。

 新たな人類の発生……可能性は十分にある話だ。同じ人型のデザインになったことは奇跡だろう。

 

「これが当時の私たちです」

 差し出された携帯端末画面には、仲睦まじい男女の姿があった。この男性側が彼女なのだ。話を聞いてから見たせいか、性別が違っても同じ人だと分かる。


「離婚後元妻から連絡を絶たれ、美空斗には会えない状態でした。3年後に初めて連絡が来たと思ったら、元妻が亡くなった知らせでした。

 別れた妻でも悲しいことには変わりません。斎場へ駆けつけ、美空斗は私が引き取る事を心に決めていました。しかし、美空斗の姿はありませんでした。いつの間にか斎場を出て行方不明になっていたのです。捜索は一週間ほど続き何の手掛かりもないまま打ち切られました。

 その後、オキザリスの協力者に登録していた私の元に、養父母を探しているという話が来ました。それで、オキザリスへ行った私は対象の子供たちの中に美空斗を見つけたのです」

 

「美空斗さんは行方不明になって命の危機に遭った、それを察知したオキザリスのジャンパーが美空斗さんをガランへ転移させていたのですね。生きていて、無事会えて本当に良かったです」

 

「ええ。二度と美空斗と離れるものかと思いました。一番の失敗は、結婚したのを秘密にしていた事です。周囲に話していれば妻の死後すぐ私に連絡が来たでしょう。私は結婚していたことをオキザリスに話し、手続きをしてやっと美空斗と一緒に暮らすことができました。

 今の話を他の誰かからお聞きになって驚かれないよう、話しておこうと思いました」

 マヤさんがスッキリした顔で笑っている。笑顔が、ファーストフードにいた時の少年と重なった。


「美空斗さんはご存知なのでしょうか、お母様の生まれや性別のことなど」

「それが……まだ話していないのです」


「何か理由が?」

「話せば、あの子が私から離れて行ってしまうような気がして……こんな過去を持つ私を許してくれるのかと思うと、怖くて言い出せないまま2年も経ってしまいました」

 

「美空斗さんは半分キラ人なのでしょう。マヤさんのように性別が変わる可能性があるんじゃないでしょうか? そろそろ話しておいた方が良いのでは……」

 私は美空斗少年の中性的な風貌を思い出していた。


「ああ、それなら大丈夫です。キラのそうした特徴を受け継ぐのは、両親が揃って純粋なキラである場合だけです。元妻は地球の人間なので」


「そうでしたか。出過ぎた事をすみません」

「いいえ、ご心配ありがとうございます」


「それで美空斗さんが璞市役所に就職することについてですが、御本人には……」

「話しました。とても喜んでいました。就職活動しなくていいね、と。あまり真剣には考えていないみたいで申し訳ないですが」

 その方が、と言いかけてやめた。でるでる課は魔王討伐後に彼らが戻る場所なのだ。

 

 必ず生きて戻り、普通に仕事をしながら生きていく。眩しすぎる栄光や多すぎる報酬に狂わされることなく。重すぎる期待に悩まされることなく。

 自分の力で日々を切り拓いていける等身大の生活──魔王を討伐した若者たちにはささやか過ぎるかもしれないが、そんな普通が一番の幸せだと私は思っている。


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