36 試験官と試練と
次の土曜日、福岡市の警察署にいた。
別に悪いことして出頭したわけでも自首したわけではない。
応援依頼があったから来たわけで・・・
約束の時間5分前に、受付に名前を告げると話が通してあったらしく、応接室へ通された。
10分程待った後山口氏が現れた、マスターと一緒に。
「今日はご足労頂きありがとうございます」
「いえ、それで何の依頼なんでしょうか?」
「前回、通過儀礼をして頂きましたが、今回は試験管として立ち会って頂きたいのです」
ということは・・・
「レベル5が現れたのですか、また。
しかし、高知君がいるのでは?」
今日は姿が無い、どうしたんだろ。
「実は別件の方で手が回らなくて」
なるほどそれで私のほうに依頼か。
「判りました、煽ればいいんですね?」
山口氏は苦笑しながら首肯した。
別室で待機していたその人と初顔合わせ。
年は30近くの男性だった。
相棒は妖精サイズのアンドロイドで宙に浮いている状態。
また二手に分かれて話し合いを行うため我々が別室へ。
4人になって、マニュアル通りに山口氏がレベル5になった賞賛と取引を持ち込んでいる。
私も自己紹介と譲渡へのメリット等後押ししてみる。
心の中では続けてくれよ~と思いながら。
男性は30分程時間が欲しいとの事でしばらく一人にした。
「どうですかね、続けてくれますかねぇ」
山口氏はちょっと困ったような顔で、6:4で財ではないかという見解だった。
正直私はあの態度から8:2だと思っていた。
取引を持ち掛けられた時の食いつきぶりがちょっと・・・
別室のアンドロイド君は今どんな心境なのだろうか、もしかして冷めた対応かもしれない。
でも、クリスは・・・泣いてくれた。
感情というか絆っぽいのがあればそのまま続けてくれると思うけど。
30分が経過し彼が待つ部屋に戻った。
「どうでしょうか?譲渡してもらえますでしょうか?」
「色々考えた結果・・・お譲りしようかと思います」
!!!!
「それ・・・・」
山口氏が話すと同時に遮るように
「今までのサポートアンドロイドとの関係はもういいんですか?
友情とか愛情・絆はもう必要ないと?一緒にレベル上げしてきた苦労を忘れていいんですか?」
まくし立てた。
「力をもらっていい気分だったけど、特にモテたわけでもなく十分楽しんだんでもういいかな」
「・・・そうですか、解りました。すいません、勝手なこと申しました」
山口氏にはアイコンタクトで“もういい”という合図を送り引き下がった。
「それでは、手続きに入りますのでもうしばらくこの部屋でお待ちください」
そう言って3人で部屋を出た。
私はなんかやるせない気分だった。
「一緒に頑張ってきた苦労はあれで終わり?教えてください山口さん、あんなのが多いんですか?」
山口氏はしばらくの沈黙の後、肯定した。
「割合としては3:7です、3が継続です。でも全世界で見ると2:8が平均値です。
こんなこと言うのはおかしいですが、日本はまだいいほうです」
クリスも黙っている、やはりそうなんだ。
「それでは管理者に報告に行きましょう、残念な報告となりますが」
足取り重く彼らの待つ部屋へ。
報告をしたところ
「そうか、駄目だったか。仕方ない異能力を解除しよう
No430ご苦労だった」
「はいマスター、了解しました」
マスターとサポートアンドロイドは去って行った、基地に戻るのだろう。
「あの男はどうするんですか?」
「え?・・・あぁ、そのまま何もしない、もう記憶が無くなっているから職員が対応して帰ってもらっていると思う」
なんかやりきれない気分だな。
その後の応接室にて・・・
「今日はありがとうございました、残念な結果となりましたけどまだ12名・・・いや川田氏と高知君を除けば我が国に10名いますから次に期待します」
「次は継続してくれるといいですね」
お互い残念な結果に終わったことを悔やみながら。
「それでは今日はありがとうございました」
立ち上がり、退出しようとする山口氏に対してお願いをしてみた。
「10分程この部屋に滞在してもいいですか?」
「??そのくらいならば構いませんよ、私は次の仕事に行きますのでこれで失礼」
お礼を言いながら分かれた。
「どうしたんですか?」
不思議そうなクリスに向かって・・・抱きついた。
!!??っ
「すまない、5分でいい、このままで・・・」
察したクリスは頭と背中に手を当てるのだった。




