第27話 2人の決意
第二十七話
「気にしておりませんから……」
何度目だろう。
先ほどからエルに謝られるたびに、ジャン=ワイズマンは同じ言葉を繰り返していた。
「でも、本当にごめんなさい。アムがあんなことするとは思わなくて……」
「いえ。ですから、もう気にしておりません」
「これからヴァン先生も来る予定になっています。アムには十分反省させますので」
「……そこまでしていただかなくても結構ですよ」
ジャンは苦笑した。
アムル=ドゥットゥカース。
何人もの人物を見てきたが、あれほど掴みどころのない人間も珍しい。
義妹のエルのように、そこにいるだけで人目を引く圧倒的な容姿があるわけではない。
ニューアーク大学で出会った秀才たちのように、少し話しただけで常人とは違う頭脳の明晰さを感じさせるわけでもない。
むしろ、どこにでもいそうな童顔の少年に見える。
冗談を言い、悪戯をし、怒られれば逃げる。
それなのに――。
目の前にいる少年は、事実として戦争の天才だった。
幾度もの戦場で軍勢を率い、自らも剣をふるい、遥かに強大な敵を相手に生き残り、勝利してきた。
そして今では、このパドゥーラを治めている。
どうにも一致しない。
人物と実績が、まるで噛み合わないのである。
「……妙な方ですね」
「アムのこと?」
「失敬、聞こえていましたか」
「聞こえたよ」
エルは少しだけ笑った。
「うん。アムは妙だよ」
否定しないのか。
ジャンはますます分からなくなった。
◇
その日の夕刻。
今度はジャン自身が倒れた。
「三十八度を超えていますね」
診察を終えた医師の言葉に、ジャンは寝台の上で眉をひそめた。
「ただの旅疲れでしょう。数日は安静にしてください」
「数日……」
「ジャン、最近ずっと無理してたもの」
ユナが呆れたように言った。
「ここ数年まともに休んでないでしょ」
「そうだったか?」
「そうだよ」
反論しようとして、咳が出た。
どうやら説得力はないらしい。
結局、ジャンたち三人はしばらくパドゥーラ伯爵家に逗留することになった。
アムルたちの返答は実にあっさりしたものだった。
「一週間くらいいればいいよ」
それだけである。
どのみちセイレンへ送る食料を集積し、船へ積み込むには時間がかかる。
ジャンの体力が回復するまで待ち、援助物資と一緒に帰還した方が事務的な手間も省ける。
そう説明されてしまえば、ジャンにも断る理由はなかった。
そして三日目。
熱の下がったジャンが、身体を慣らすために屋敷の廊下を歩いていると、向こうから大量の書類を抱えた小柄な少年がやってきた。
茶色のおかっぱ頭。
丸眼鏡。
「……あ」
「あっ」
二人同時に立ち止まった。
「君は……あの時の丸眼鏡の」
「丸眼鏡って呼ばないでもらえます?」
少年が露骨に嫌そうな顔をした。
ジャンはようやく思い出した。
パドゥーラの町で出会った、妙にニューアーク大学へ食いついてきた少年である。
「そうか君も働いているということだったが、ここで働いていたのか……」
「そうですよ。主計長なんかをやってます。」
「……君だったのか」
「なんですか、その反応」
「いや」
ジャンはティーエの頭から足先まで眺めた。
「もっと年上だと思っていた」
「よく言われます」
「嘘をつけ」
「今のは嘘です」
即答だった。
「君もパドゥーラ候の仲間か……」
「士官学校以来の悪友ですよ」
「なるほど」
ジャンは妙に納得した。
「なんですか、その納得した顔は」
「いや、別に」
「ところで師匠。ゼルキアの音楽の流行りって――」
「待て」
「はい?」
「俺は病み上がりなんだ」
「大丈夫ですよ。座って話しましょう」
「そういう意味じゃない」
ジャンは踵を返した。
「ちょっと師匠! 逃げないでくださいよ!」
背後から声が追いかけてくる。
この国はどうなっている。
ジャンは本気でそう思った。
どうして自分より年下の連中が、揃いも揃って国の中枢にいるのだ。
◇
早朝。
パドゥーラ伯爵邸の中庭では、乾いた剣戟の音が響いていた。
エルが一人、剣を振っている。
銀色の短い髪が朝日に輝き、踏み込むたびに軽く揺れる。
綺麗な剣筋。
それだけなかなりの遣い手だとわかる。
その姿をしばらく眺めていたユナが、やがて声をかけた。
「エル様は……」
剣を止めたエルが振り返る。
「エルでいいよ。同い年なのだしね」
「え?」
「あっ。でも私が敬語の方がいいのかな?」
エルは少し考え、
「なんたって、あの『イバラの女王』クリス様のお孫さんなのだから」
「ううん、そんなことないよ!」
ユナは慌てて首を振った。
「じゃあ……エル」
「うん」
エルが笑った。
ユナは少し迷ってから尋ねた。
「エルは辛くない?」
「うーん」
エルは剣を下ろした。
「どうだろうね。辛くはないかな」
「本当に?」
「うん。アムもいるし」
あまりにもあっさりしていた。
もっと何か、深刻な答えが返ってくると思っていたユナは拍子抜けした。
ところがエルの方は、もう別のことに興味を移していた。
「それより、同盟ってどんなところ?」
「え?」
「セントハイムとかゼルキア。隣の国だけど私、行ったことないから」
目を輝かせている。
「ニューアーク大学ってすごく大きいんでしょう? セントハイムも見てみたいし、セイレンも見てみたいな」
「……そうなんだ」
「うん。それに都市同盟って自由なんでしょう?」
「自由……」
ユナの表情が曇った。
ジャンについて外国を旅し、交渉の場にいるようになって、ユナにも少しずつ分かってきたことがある。
大人たちは嘘をつく。
外国人同士だけではない。
同じ都市同盟に属する者同士でも、互いに利益を計算し、騙し、利用する。
そんな世界を知り始めたユナには、エルの言葉があまりにも真っ直ぐに聞こえた。
「自由って言葉、エルは使っていたよね」
「うん」
「でも、あれは私たちセイレン人にはないよ」
エルが首を傾げた。
「ないの?」
「自由があるとしても、セントハイムやゼルキアの中級以上の市民だけ」
「……そうなの?」
「私たちセイレンには言論の自由だってないもの」
ユナは少し俯いた。
「セイレンが何かを言ったって、結局はセントハイムやゼルキアが拒否権を使えば何にもならない。どんなに私たちが嫌だって言っても、それで終わり」
エルはしばらく考えていた。
やがて、
「ふーん」
と小さく呟く。
「どこも本当の自由なんてないんだね」
「……うん」
それだけだった。
難しい政治の話をするわけでもない。
誰かを非難するわけでもない。
ただ、本当に不思議そうに言っただけだった。
けれど、その言葉は妙にユナの耳に残った。
◇
「ジャン、少し話があるんだ。いいかな?」
「うん? なんだ?」
帰国の準備をしながら報告書をまとめていたジャンは、手を止めて振り返った。
そこにリックが立っている。
妙に真剣な顔だった。
「実はさ……」
「どうした?」
「この前、ニューアーク大学に受かったんだ」
「へえ」
ジャンは目を丸くした。
「大したものじゃないか。公募だろ?」
「うん。僕の小論文を読んでくれたE・ハサン教授って人が、口利きしてくれるから入学しないかって」
「政治哲学のハサン教授か」
「知ってる?」
「もちろんだ。ニューアークじゃ異端扱いされてるが、俺が認める数少ない教授だな」
「異端なの?」
「変わり者だ。だが、あの大学の教授連中の中じゃ、トップクラスだ」
「ジャンが言うと褒めてるのか分からないよ」
「褒めてる。なんたってこの主席様に唯一落第をくれた人だからな」
リックが笑った。
だが、すぐに真剣な顔へ戻る。
「僕、ゼルキアに勉強しに行きたいと思ってる」
「そうか」
「ジャンは……どう思う?」
「俺は行った方がいいと思うが」
「本当に?」
「ああ。行けるなら行った方がいい」
ジャンは少し考える。
「ユマには相談したのか?」
「うん。姉様は、受かったんだから好きにしていいって」
「なら問題ないじゃないか」
「でも……」
「でも?」
「ユナが何て言うか」
「ああ」
ジャンは即座に理解した。
「ユナは確実に反対するな」
「やっぱりそう思う?」
「思う」
「ユナは、僕がロスバルトを背負っていかなきゃならないと思ってるから……」
「まあ、そうだろうな」
リックはしばらく黙った。
そして、おずおずと言った。
「だからさ。ジャンからユナを説得してもらおうかと思って」
「俺が?」
「ユナだってジャンの言うことなら聞くだろうし……」
「……駄目だ」
「なんで?」
ジャンは椅子の背にもたれた。
「リック。お前はもう行くって決めてるんだろ?」
「……うん」
「俺に確認を取ったのは、背中を押してもらいたかっただけだ」
リックは黙った。
図星らしい。
「自分で決めたことの後始末は、自分でやれ」
「……」
「少なくとも、自分でそこまで決断したなら、もう子供じゃない」
しばらく沈黙が続いた。
やがてリックが頷いた。
「分かった」
「まあ」
ジャンは笑った。
「その後のフォローくらいはしてやるから安心しろ」
「うん。ありがとう、ジャン」
リックも笑った。
◇
一週間後。
ジャンたち三人は、セイレンへ向かう船上にいた。
その船には大量の穀物が積み込まれている。
パドゥーラからの援助物資だった。
船がプラタ川を下り始めて間もなく、船室から怒鳴り声が響いた。
「何言ってんの!?」
「何って、僕は勉強しに行くって言ってるんだよ」
「はぁ!? 熱でもあるの!?」
「ないよ」
「あんたは姉さまの後を継がなきゃならないの! それくらい分からないわけないでしょ!」
「僕はもう決めたんだ」
リックも引かなかった。
「セイレンに戻ったら姉様にも正式に言う。反対されたって僕はゼルキアへ行く!」
「もう!」
ユナがジャンを見る。
「ジャンも何か言ってあげてよ! お前の役目は姉さまを補佐して、ゆくゆくはセイレンを継ぐことだって!」
「反対と言ってもな……」
ジャンが頭を掻いた。
その態度だけで十分だった。
ユナの目が細くなる。
「ふーん……」
「ユナ?」
「なんか男同士では、もう話がついてるんだ」
「いや、それは――」
「ジャンの馬鹿!!」
ユナは船室から飛び出していった。
扉が勢いよく閉まる。
沈黙。
「……やっぱり予想通りの反応だったね」
「まあ、仕方ないだろ」
「どうしよう」
「後は俺に任せておけ」
「うん。お願い」
ジャンは立ち上がった。
小さな船である。
探すのに時間はかからなかった。
甲板へ出る。
月明かりの下。
船首近くに、両膝を抱えて座っている少女がいた。
川面には月が揺れている。
「ユナ」
返事はない。
ジャンはその隣に腰を下ろした。
「分かってやれよ。リックはリックなりに、セイレンのことを考えて決めたんだから」
「……だからだよ」
「だから?」
「だって……」
ユナは川面を見つめたまま言った。
「私一人、馬鹿みたいじゃん」
「……」
「パドゥーラに行って痛感した」
ユナの声が小さくなる。
「あの二人を……あの二人を見てから……」
「あの二人はだいぶ特殊だと思うがね」
「それだけじゃないよ」
即座に否定された。
「他にもいたじゃん。私とたいして変わらない年齢なのに、一人前に国を支えてる子たちが」
エル。
アムル。
あの丸眼鏡の主計長もそうだった。
「それを見て、私、このままじゃ駄目なんだって思った」
「ユナ……」
「だから頑張らなきゃって思ったのに…… リックまでちゃんと考えてた」
膝を抱える腕に力が入る。
「私だけ何にも考えてなかった」
「……」
「姉さまについていけばいいって思ってた。姉さまが全部考えてくれるって」
ユナは唇を噛んだ。
「何も考えてなかった自分が、ものすごく馬鹿に見えて……正直、ショックだよ」
「そうでもないさ」
ジャンはユナの横に座ったまま、その頭を軽く撫でた。
「俺がお前たちくらいの頃には、国がどうこうなんて考えたこともなかった」
「……本当?」
「ああ。もっとくだらないことばかり考えてた」
「例えば?」
「それは言わん」
「何それ」
「恥ずかしいからに決まっているだろう。 だから、お前たちの方がずっとよく考えてるさ」
ユナは何も言わなかった。
ただ、しばらく月の映る川面を見つめていた。
◇
数日後。
ジャンたちは食料とともにセイレンへ帰還した。
これで当面の危機は乗り越えられる。
誰もがそう思った。
ところが、セイレン公館へ戻ったジャンを待っていたのは、予想外の知らせだった。
「セントハイムから救援物資が到着します」
カール=マルテルが告げた。
「……何?」
「すでに輸送隊がこちらへ向かっています。多少値は張りましたが国民すべてに配給できるだけの援助を取り付けることができました」
「それは……よかったじゃないか」
だが、室内の空気がおかしい。
ジャンはすぐに気づいた。
「それで?」
カールが続けた。
「セントハイム側は、パドゥーラとの通商協定を認めない意向です」
ジャンの表情が固まった。
「……約束を反故にしろと?」
同席していたセントハイムの使者が口を開いた。
「反故も何も、もともとリービッヒとは正式な国交がない」
「だから?」
「彼らが手前勝手に押し付けてきた物資など、今後の同盟諸国との関係を考える上では、はなはだ迷惑だと思わんかね」
ジャンの眉が動いた。
「押し付けてきた?」
「それに遅すぎたのだよ。私がセントハイムから救援を取り付ける前であればともかく、すでに必要な量は確保できた」
「……」
「セイレンは都市同盟の一員だ。そのセイレンが独断でリービッヒ諸侯と通商関係を結ぶことを認めれば、同盟の秩序にも関わる」
理屈は分かる。
分かるからこそ、腹が立った。
ジャンはユマを見た。
「ユマ」
「……」
「見損なったぞ」
室内が静まり返った。
「どちらに信義があるかなんて、一目瞭然だろう」
「……分かっています」
ユマは静かに答えた。
「なら――」
「分かっています」
もう一度だった。
その声は強くなかった。
「それでも私はセイレン公です」
ジャンは何も言えなくなった。
ユマはセイレンの民を飢えさせるわけにはいかない。
セントハイムとの関係を断つこともできない。
そんなことはジャンにも分かっている。
分かっている。
それでも。
「……しばらく、お前の顔は見たくない」
「そうですか」
ユマはそれだけ答えた。
◇
パドゥーラへ知らせが届いたのは、それからしばらく後だった。
「そうか……」
報告を聞いたアムルは、それだけ言った。
対照的にロックは机を叩いた。
「なんて奴らだ! 俺たちの貴重な食料を騙し取りやがったのか!」
「そうじゃないだろ」
アムルは椅子にもたれた。
「間者の話じゃ、セントハイムから横槍が入ったらしい」
「同じことだろうが!」
「違うよ」
アムルは首を振った。
「曲がりなりにもセントハイムはセイレンの宗主国だ。自分たちが何もしないうちに、俺たちが食料を持っていった」
「だから何だ」
「面子を潰されたんだろうさ」
アムルは机の上の報告書を見る。
「そこで慌てて食料を出した。セイレンには俺たちとの約束を切らせた。まあ、そんなところだろ」
「だからってよ……!」
「そういきり立つことでもないさ」
アムルは笑った。
「俺たちは食料を少し損しただけだ」
「少しって量かよ!」
「また作ればいいだろ」
「お前なあ!」
アムルは笑ったままだった。
そして、ぽつりと言った。
「俺たちは多少痛くても、たぶん向こうほど心は痛くないよ」
「……どういう意味だ?」
「さあね」
アムルはそれ以上答えなかった。
◇
ほどなくして、セイレンから一団の留学生がゼルキアへ向けて出発することになった。
その中にはリック=リズナーの姿もあった。
ジャンもゼルキア近郊まで同行する。
「ちょうどいい任務だ」
荷物を船へ積み込みながらジャンは言った。
「しばらくユマの顔を見たくないからな」
「まだ怒ってるの?」
「怒ってる」
「姉さまにも事情があると思うけど」
「分かってるから余計に腹が立つんだよ」
「難しいね」
「政治なんてそんなもんだ」
リックは苦笑した。
一方。
今回、ユナは同行しなかった。
ジャンたちが出発した日の午後。
ユナは一人、ユマの執務室を訪れていた。
「どうしたの?」
書類から顔を上げたユマが尋ねる。
ユナは姉の正面に立った。
そして、頭を下げる。
「お願いがあります」
「何?」
「私を、姉さまの影武者にしてください」
ユマの手が止まった。
「……ジャンがそう言ったの?」
「違います」
ユナは顔を上げた。
「ジャンには、この話は一切していません」
「どうして?」
「話したら、危ないことはするなって言うと思うから」
「でしょうね」
ユマは静かに妹を見る。
ジャン=ワイズマンは妹をどう見ているかわからないが特別な存在なのは間違いない。
今、私の影武者をすればどうなるか。
あの頭の切れる男なら瞬時に見抜き反対するだろう。
実際に都市同盟の中には、ユマを危険視する者が少なくない。
その急進的な改革姿勢。
ロスバルトの軍事力。
そして何より、既存の同盟秩序そのものを変えようとする思想。
ゼルキアの極右団体の中には、ユマの暗殺を企てる者さえいた。
影武者になる。
それは姉の危険を一部、引き受けるということだった。
「ユナ」
「はい」
「あなたは、それでいいの?」
「はい」
「死ぬかもしれないのよ」
「分かっています」
ユナは少しだけ震えた。
それでも目を逸らさなかった。
「姉さまは反対でしょうけど……私なりに、この国のために何ができるのか考えました」
「……」
「リックは、自分がやるべきことを見つけた。だからゼルキアへ行きました」
ユナは続けた。
「私は、今すぐできることをやりたい」
「それが私の影武者?」
「はい」
二人の容姿はよく似ていた。
双子というほどではない。
だが、髪型や服装を合わせ、遠目から見れば、二人をよく知らない者が判別するのは難しいだろう。
ユマはしばらく何も言わなかった。
目の前にいる妹を見つめる。
少し前まで、自分の後ろをついて歩いていた少女だった。
「……そう」
やがてユマは静かに言った。
「あなたが自分で決めたのね」
「はい」
「ジャンにも、リックにも言われずに」
「私の意志です」
ユマは目を閉じた。
そして、もう一度妹を見た。
「分かったわ」
ユナの顔が上がる。
「ただし、遊びではありません」
「はい」
「私の代わりに人前へ立つ以上、私の考え方も、話し方も、政治も、全部覚えてもらいます」
「はい!」
「覚悟しておきなさい」
「もちろん!」
ユマは小さく息を吐いた。
そして、ほんの少しだけ笑った。
「では、明日から始めましょう」
こうして。
リック=リズナーは姉のもとを離れ、ゼルキアへ向かった。
ユナ=リズナーは姉の傍らに残った。
二人が選んだ道は、まるで正反対だった。
だが、それはどちらも。
誰かに与えられた役割ではなく。
自分自身で選んだ、最初の道だった。




