新たな魔法少女べだ
怪物と魔法少女と思わしき少女がにらみ合っていると、枝豆が私に駆け寄ってきた。
「よかった……来てくれたべだ」
枝豆がそっと胸をなでおろし安心する。そして、その右手には私のスマホが握られていた。
「あれは魔法少女なの?」
「そうべだ、救援要請を出したべだ。偶然近くを歩いていたから、すぐに来てくれたべだね」
すると、怪物の姿が変形していき、ふわふわな白い狼のような姿へと変わった。
さっきよりかは怖さが減った。
「これで多少は怖くなくなったべだね」
「……あの子が魔法少女なら、他の人から姿は見えないんだよね」
「そうべだ、あかりとは違って周囲を警戒せずに遠慮なく戦えるべだよ」
少女は何も無い空間から銃を取り出し数発撃つ。銃弾が人々をすり抜け、怪物に打ち込まれた。少女が銃を使っているにもかかわらず、その姿にどこか優雅さを感じ、思わず魅入ってしまう。
1分ほど撃ち続け、ようやく銃をおろした。
かなりの衝撃だったが、周囲の物などが吹っ飛ぶようなことはなく、怪物にのみにしか弾は当たっていなかった。
……たしか魔法少女の使う魔法は周囲に影響を与えられないって、枝豆が前に言ってた気がする。それにしても、銃を使う魔法があるなんて……。
少女は額から出た汗を拭き、ため息をつく。
「生まれたばかりでこの強さですか……」
あれだけ撃ち込んだにもかかわらず、怪物は特にダメージを受けている様子はなかった。
「君たちは早く逃げるペロ」
突如、私の耳元からどこからともなく声が聞こえてきた。
声のほうを見ると、そこには白いウサギの形をしているちっさいぬいぐるみがいた。
「は、え?」
突然のことに困惑していると、
「あ!エルノンべだ!!」
「エルノン?」
「僕と同じ妖精べだ。しばらくぶりべだね!」
エルノンというのが、この妖精の名前らしい。
「その子が噂の魔法少女ペロか。ほんとに27歳なんペロね……」
エルノンがじっと私の顔をじろじろと見てくる。
「え、その、27歳でごめんなさい」
思わず反射的に謝ってしまった。
「まぁ、聞きたいこととかあるペロけど、今は逃げたほうがいいペロ!」
……枝豆と違って語尾は「ペロ」なのか……というか、妖精は絶対語尾を付けないと駄目な生き物なのか?
「でも、今回の怪物はかなり強いべだ。おそらく2等レベルべだよ。エルノンたちだけじゃ……」
「分かってるペロ。だから私たちも隙をみて逃げるつもりペロ」
「え、じゃああの怪物は放っておくってこと?」
「……しょうがないペロ。本当は生まれた瞬間に倒したいところペロけど、あれは単独じゃまず勝ち目がないペロ」
エルノンは苦い顔をしながら答える。
「べだ……あかりが変身さえできればいいべだなんだけど……」
一応、何かあったときのために鞄には常時、酒缶を忍ばせている。
「そんな、彼女……あかりは強いペロ?」
「桁違いべだ。でも……」
今みたいな状況では変身できない。枝豆が苦い顔をする。
……勝手に私が強いって話になってるけど、正直なところあの怪物に勝てる気はしないんだよなー。というか、全然ちびりそう……。
次の瞬間、怪物が少女を目掛け飛びついた。
「んっ!?」
少女は後ろに下がり、かろうじてかわす。だが、大きな腕による2撃目がもろに直撃してしまい、ガラスへと跳ね飛ばされた。ガラスにぶつかった瞬間、一瞬裂けめのようなモノがみえ少女は店外へと押し出されていった。
怪物も少女を追いかけようガラスに突進。再度ガラス全体に巨大な裂けめが生まれ、怪物もすり抜けるように店外へと出ていった。
しかし、ここまでのことがありながらもガラスは無傷であった。
「とりあえず、君たちは逃げるペロ。私は由南のもとに行くペロ」
そう言い残し、一目散にエルノンは少女のもとへと駆け寄った。
「とりあえず私たちは逃げよう」
……ここにいても足手まといだ。悔しいが、今は逃げるしかできない。
枝豆の手を引っ張り、私たちはできる限り遠くまで逃げた。
「ぜえはあ……ここまで逃げれば大丈夫べだ……」
「……あの子は大丈夫かな」
「魔法少女に変身している場合はどんな攻撃も一切通さないべだから、あかりの思っているような最悪なことは起こらないべだ」
「そう……無事逃げられてると……いいね」
どうしようもなかったとはいえ、やはり悔しいものは悔しい。あの子を置いていったことには変わりない。
自然と手に力が入る。
「あかりは行きたいべだ?」
「いけるの……?」
「べだ、一つだけ方法を思いついたべだ。でも、あかりもそれなりに覚悟する必要があるべだ。それでも……」
「やるよ」
「分かったべだ!」
すると、枝豆の体が急に発光しだした。
「な、ちょ、眩しっ!」
咄嗟に目を覆う。
……これは人間の姿になるときと同じ光!?
ようやく光が止まると、枝豆の姿はまさかのスマホに変わっていた。
「は?」
おそるおそるスマホを手にとった瞬間、ピコンと電源が入った。その画面には、妖精のときの姿の枝豆が映っていた。
『あかり!』
「え、枝豆!?」
『このスマホは魔法使い用べだ。用途はいろいろとあるべだけど、とりあえずこの番号に電話を掛けるべだ!』
画面に通話ボタンが現れる。
とりあえず言われた通り通話ボタンを押す。普通の電話と同じように呼び出し音が鳴る。
『はい、もしもし』
しばらくして、さっきの少女と思わしき人の声が聞こえてくる。
そして画面には私の顔と、そしてさっきの少女が映っていた。
……これビデオ通話かよ! てか、この子のいる場所……。
明らかに背景が空中だった。よく見ると、ほうきらしきものに跨って空を飛んでいるようだ。そしてその背後には、ビルを乗り移りながら移動するさっきの怪物がいた。
『こんなタイミングで電話すんじゃねーペロ!!』
画面にエルノンは映っていないが、どこからともなくエルノンの声が聞こえてきた。
声のトーンから、明らかに今も追われている真っ最中だということがわかった。
「ご、ごめんべだ……」
画面の中にいる枝豆が返事をする。
『それで、わざわざ電話してきたペロってことは、何か用件があるペロでしょ。早くするペロ』
「怪物を倒す方法を思いついたべだ。今から送った場所に怪物を引きつけてほしいべだ」
ピコンと枝豆が地図の場所を共有した。
『……何を考えてるかは分からないペロけど、枝豆は本気ペロね。……由南、この場所に行くペロ』
『うん、分かった、がんばる。えーと……それじゃあまた後でね』
プツンとそこで電話は切れた。
「……それで枝豆。私はどうすればいい?」
「とりあえず、このビルの屋上にいくべだ!」
スマホに一つのビルの場所が提示される。
……ただのオフィスビルに見えるけど……一体なにが。
とりあえず理由を聞かずに、そのビルまで移動する。
入り口の自動ドアの先にはゲートがあり、社員証がなければ開けることができない仕組みになっていた。
監視カメラもあるし、無理やり越えるのは無理そうだ。
「枝豆……どうすんの?」
小声でスマホに話しかける。
「任せるべだ。悪用は禁止べだよ」
スマホの画面が切り替わり、なんとこの会社の社員証が映っていた。
……これをタッチしろってこと!? そんなこんなので入れるわけ……。
おそるおそるゲートにスマホをかざすと、ガコンと簡単にゲートが開いてしまった。
「ええぇ! どういうこと!?」
「これも魔法べだ。」
自信満々な枝豆の声がスマホから聞こえる。
「いやいやいや、てかこんなことすれば会社にログとか残らないの?」
「魔法だから大丈夫べだ。それより早くエレベーターに乗るべだよ。このビルは屋上が解放されてるべだから、そのまま上がれるべだ」
「う、分かったよ」
魔法だけじゃあさすがに納得はいかないが、別に摩訶不思議なことは今回だけじゃない。渋々追及することをあきらめた。
……というか、こんなのがまかり通ってしまえば、世の中が大変なことになりそうなんだけど……。
考えるのをやめ、足を止めずそのままエレベーターに乗り最上階へと上がっていく。
屋上に着くと人がいる様子はなく、強い風が吹き抜ける。
「で、こんなところで一体何をするつもり?」
「空に飛ぶべだ」
「ん?」
「空に飛ぶべだ!!」
「はぁああ? 何言って……あ、ちょっと」
そしてピカアアアと再びあの光がスマホから発せられた。思わずスマホを持つ手を離してしまう。
光が収まると、落としたはずのスマホが“ほうき”へと変わっていた。




