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会社はこわいべだ


翌朝、とんでもない頭痛で目を覚ました。


「いててて…」


気づかないうちに私は家に帰っていたらしい。だが別に珍しいことでもなく、今までも何回か同じようなことを体験したことがあったためそう驚かなかった。


「あれ?なんだか昨日はとんでもないことやらかしてたような…」


私は割と酒を大量に浴びて意識がなくなっても記憶は残るタイプである。ゆっくりと思いだしてみると


……魔法少女?妖精?


意味の分からない単語ばかりが脳裏によみがえってくる。


「ついに、酒飲みすぎて幻覚でも見てたのかな……」


「幻覚じゃないべだよ」


視界の端にぴょんぴょんと跳ねるぬいぐるみが見えてしまった。


「ぎゃああああああ!ぬいぐるみがしゃべったあぁああああ!!!」


「べだ!?」


慌てて布団や目覚まし時計など、そこらへんにあったものをひたすらそのぬいぐるみに向かって投げた。


「ちょっと!やめるべだ!なんで驚いてるべだ!昨日はそんなにおどろいてなかったべだよ!!」


数分がたち、ようやく落ち着き始め頭の整理がつき始めた。


……なんか昨夜の事を思い出してきたかも…たしかああなって私は


そして同時に、フリフリなドレスを着ている自分の姿を思い出した。


「あ?あぁああ?」


そうだ、私は昨日、訳の分からんこのぬいぐるみと喋ってたら怪物がでてきて、そんでもってなんかステッキを振ったら私は……


「のおおおおおお黒歴史だぁああ!!」


あの時の姿が鮮明に頭の中に残っており、恥ずさがのあまりその場でごろごろとのたうち回る。


「ど、どうしたべだ!?そんな驚いて?!」


「うぐぐ…死にたい…」


「もしかして恥ずかしいべだ?大丈夫!みんな最初は恥ずかしがるけど次第に慣れてくるべだよ!」


「…アラサーが魔法少女の恰好するのに慣れたら終わりだと思うんですが…」


…あれ?というか、これ現実?まだ夢だったりしないかな?いや夢だろ。


私は思いっきり自分の頬を強くつねった。ちゃんとひりひりと痛かった。


「現実なの…」


「そうべだべだ。あかりは僕と契約をして魔法少女になったべだ。少女かどうかは怪しいべだけど…」


ありえない。絶対ありえない。でも現にこいつは喋っている。私の常識はどこへいったんだ。


「や、辞めます!魔法少女辞めます」


「べ、べだ!?何を言い出すべだ?!」


ぬいぐるみは目の前であたふたと、目にわかる動揺をしていた。


「こんなおばさんが魔法少女になっていいわけがないだろーーー。普通に変態で捕まるわぁああー。」


「それなら大丈夫べだよ。魔法少女に変身中は周囲からは認識されないべだ。だから捕まる心配はしなくてもいいべだよ」


「いやいやそういう問題じゃなくて純粋に私が嫌んだよ!なーんでいい年してんのに魔法少女にならないといけないんだよ!」


「でも、昨日は自分からなるっていってたべだよ。」


「それは私が酔っ払ってまともに理性がなかったから!第一、酔っている人に魔法少女になろうって誘うなんてどうかして…」


いや、違う。このぬいぐるみが誘ったわけじゃない。


そうだ、私がこいつの持ってるステッキを無理やり取り上げて変身(?)してたような…。なんなら、こいつはずっと「無理無理」って反対してた……。


「と!とにかく私はやらないからね!」


「うぅ…困ったべだ。魔法少女は一度契約してしまうと解除は無理べだ…」


「えええ?何とかならないの?」


「無理べだ。魔法少女は絶対に辞められないって決まりべだ。本来はちゃんと説明しないといけないべだけど…昨日は無理やり契約させられてしまったべだから…」


「うぅ…全部私が悪いってことじゃん…」


「そう責めないでほしいべだ。少なからず僕にも責任はあるべだから」


なんかこいつ、案外いいやつなのかもしれない。


というか昨夜のことを思い出していけば思い出していくほど、酔っている自分に非しかないことに気づき始めた。


……死にてぇー。


「ん、そういえば今何時?」


「今の時間は8時べだ。」


……会社の始業時刻は8時半。ここから会社までの距離は徒歩で30分。そして会社のルールとして15分前につかないといけない。


つまり、遅刻である。


「会社ああああ!!!!」


私は魔法少女がどうだこうだと考える暇もなく、会社へと猛ダッシュで向かっていった。


■■■


時刻は8時42分。着いた時刻は8時26分。ぎりぎり滑り込んだと思ったが…


「…はい、まったくもってその通りです。」


絶賛、私は部長に叱られまくっていた。


しかも途中から遅刻とは無縁な話がとんでくるせいで、説教は無駄に長引いていく。周りの同僚たちは部長が理不尽に怒ることは結構慣れているため、特に動揺している様子はなかった。


「田中さんはもうこの会社についてから長いんだからしっかりしろよ。年長である君がしっかりしないと周りがちゃんとついてこないでしょ。」


「はい、はい、まったくもってその通りです。」


既にこのセリフ、5回目の使用。私が怒られるときはこの言葉を多用している。部長は怒っているとき、基本相手の言葉を聞かないため何を言ってもたぶん問題ない。


「そんなんだからアラサーにもなって結婚の話もでないんじゃないの?」


「ハイ、マッタクモッテソノトオリデス」


そしてその後もしばらく、ガミガミと部長からのお叱りが続いた。


ひたすら感情を殺すことによってメンタルが削られることがなくなるのだ。なんという画期的な方法なのだろう。


今回は特に部長の機嫌が悪い日だったらしく、やつ当たりも入っており少し長めだった。


そして、仕事へと何事もなかったように戻った。


「会社って怖いところべだね……」


「いや、なんでいんだよ!…あ、ごめんなさい。あはは…」


つい周りにいる同僚を無視して声を出してしまった。どうやらこの枝豆とかいう妖精の声は、私以外の人間には聞こえないらしい。


気をつけなければ、私が変な人になってしまう。


「なんで来てるのって?そりゃ僕はあかりの妖精だから当然でしょ。」


私は返答することなく、メモ帳を取り出し書き出した。


『会社で話しかけてくんな』


「ひどいべだ!あっ!」


枝豆を睨むと、すぐに両手で自分の口を慌ててふさいだ。


……とりあえず仕事終わらせよ。


目の前にある膨大な仕事量をもくもくと片づけていった。

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