なんでべだ!!
今日も残業。現在時刻は夜中の1時を回っていた。
残業の理由は上司が無理やりねじ込んだ納期の仕事を終わらせるためである。説明は以上だ。
私の名前は田中あかり、27歳。彼氏なし。貯金は辛うじて二桁。誇れるものといえば、どんな理不尽な言葉も右から左に受け流せるようになった鋼のメンタル。
私は近所の公園のベンチに腰を下ろして、缶チューハイの三本目を開けた。
「くぅぅぅーーーーお酒おいちいいい」
誰もいない深夜の公園で一人、私はお酒を満喫していた。
本当は家で飲もうかと思ったが、我慢できず公園で飲んでしまった。
つらい現実もお酒を飲んでいる間は一切考えなくてもいい。明日も何とかなるっていう根拠のない謎の自信が不思議とわいてくる。
さすがにこの時間となると外には人は通ってない。
「あぁなんて世界すばらしく希望で満ち溢れているのだろう。」
そんな頭のおかしい妄言を言いながら四本目に手を伸ばしたところで、ある存在に気がついた。
ベンチの隣に、何かがいた。
「……ん?」
とても小さく。手のひらに乗るくらいの、羽の生えたぬいぐるみのようなものがあった。よくみると全身ボロボロで、片方の羽はほとんど千切れかけている。それでも丸くて大きな目でこちらをじっと見上げていた。
……ぬいぐるみ?誰かが忘れたのかな。
私は缶チューハイを一口あおった。
「君は僕のことが見えるべだ?」
喋った?
そのぬいぐるみが突如声をだして、確かに私に問いかけてきやがった。おもむろにそのぬいぐるみの頭をつかみ、ブンブンとふってみた。
「うわあ!なにするべだーーー!?やめるべだーーー!!ていうか酒臭いべだーー!!」
必死にぬいぐるみは短い両手をじたばたと抵抗した。
……夢?まぁ面白いしいいか。
特に何で喋ってるのかとかは深く考えず、そのぬいぐるみとしゃべることにした。
「ごめんごめんほら離した」
てこっとぬいぐるみはベンチの上へと落ちた。
「うぅ…ひどいべだ。なんで振るべだ?大人はこわいべだ!」
「それであなたはだーれ?ぬいぐるみの妖精さん?」
「なんでわかったべだ!確かに僕はただのぬいぐるみではなく妖精、名前は枝豆べだ!」
「ふーーん、そーなんだー」
「人形がしゃべっているのにおどろかないべだ?普通の人間は僕を見たら結構びっくりすると思うべだけど……」
特に動じず酒を飲む。
……まぁ、マメシバみたいな感じか。なら怖くないよね。
「というか…なんで僕の事がみえるべだ?」
「え?普通は見えないの?まぁ妖精さんだもんね。あ!選ばれし人にしか見えないとかそういう?」
「いや、そうじゃないべだ。僕が見えるのは純粋な心を持つ子供だけべだ。」
……ほな私か。
見えることに何の疑問を抱かず話をすすめた。
「それで妖精さんはなにをしてるの?」
「えっと、魔法少女になれる女の子をさがしてるべだ」
「なるほど!…それで私の前に現れたのか。さぁ私と契約を…」
「いや…そういうわけじゃないべだ」
「っち、んだよ、おもんねーな。そこは『そうべだ!僕と契約して魔法少女になってほしいべだ』っていう流れだろう!」
「そんな簡単に契約しないべだよ。第1にお姉さんは魔法少女にはなれないべだよ。」
「なんか条件があんの?」
「子供であることべだ。お姉さんはどうみたって——」
「やめるべだーーー!頭をつかんで振らないでべだーーー!!」
一通り満足し終え、ようやく枝豆と名乗る妖精を離した。
「ひ、ひどいべだ。なんでさっきから振るべだ?!」
「おいおい!私はこう見えてぴっちぴちの18歳なんだお!」
「何変なことをいっているべだ!もしかして君はいわゆる不審者べだね!あ、やめるべだ、頭を鷲掴みにしないでべだーー」
ぬいぐるみとそうやってもみ合っていると、街灯の光の届かない暗がりに、それはいた。
人の形をしているようで、していない。黒くてぐにゃぐにゃしていて、見ているだけで胃のあたりがざわつくような、そういうものが。
……なにあれ?
立ち上がって近づこうとすると、
「君はあれが見えるの?それよりも逃げるべだ!!」
枝豆が叫んだ。ボロボロの身体で小さなステッキを取り出し、化け物の前に躍り出る。
「何のことかわからないと思うべだけど、今日のことは忘れて早く家に帰るべだ不審者のお姉さん。」
「誰が不審者のお姉さんじゃあー!」
私はそのステッキを、ひょいと取り上げた。
「あっ、ちょ——」
「要は」私は立ち上がった。「あの化物を倒せばいいんでしょ?」
「む、無理べだ。あれは魔法少女にならないと倒せないべだ」
「じゃあなる。」
枝豆の目が点になった。
「べだ?!」
「魔法少女になるっていってんの」
ステッキを奪ったまま、くるりと化け物の方へ向き直る。
「ダメだべだ!!魔法少女は十八歳未満の希望に満ち溢れた女の子にしかなれないんだべだ!お姉さんはあらさ——」
「らいじょうぶ」
私はステッキをくるりと回した。
「私の心はいつだって女子高校生らんだから!」
「…………?」
「いっくよ〜〜!へぇんしぃん!!」
ステッキを高く掲げた瞬間、光が弾けた。
まばゆい光の奔流が私を包み込んで、気づいたらひらひらのフリルに、リボン、絵本から飛び出したような、まさにピンクを基調とした魔法少女のコスチュームが全身を彩っていた。
……おお、これが魔法少女。我ながらかなり似合っているな間違いない。さすが私。
「…………マジべだ?」
枝豆が私の姿を見て固まっていた。
「なんで変身できるべだ!?十八歳以上で変身できた魔法少女なんて前代未聞だべだ!?というか魔法"少女"じゃないべだよ!」
私の周りをとびまわりながら、枝豆は叫び続けていた。
「ほらね、らいじょうぶっていったじゃん」
私はにっこり笑ってぐっとポーズをとる。だいぶ酔いがピークになってきて、呂律が終わりはじめていた。
そうこうしていると、怪物が私の姿をとらえ突進してきた。
「まずいべだ!くるべだよ!」
「うふふーいくよ〜〜、そぉれぇ〜〜!!」
ふらふらステッキを振り下ろすと、ハートの形をした極太のビームが解き放たれた。
しかしビームはやけにふにゃふにゃとしており、その上速度もかなり鈍い。
化物は直前でふいっとそのハートのビームを叩き落そうと、腕をふりおろした。
ハートに触れた瞬間、大きくひびが割れた。
そして大きな光が辺りを包みこみ、爆発音とエネルギーがあたりに鳴り響き、化け物たちは声もなく夜空の彼方まで吹き飛んでいった。
「……なんて力……強すぎる……べだ……」
枝豆が呆然と立ち尽くしていた。
私はステッキを肩に担いで、ふらりと振り返った。
「当然だよ〜」
そのままベンチに向かってバタッと倒れ込んだ。
空には星が出ており、とても綺麗だった。
枝豆はしばらく倒れた私を見つめて、それから深いため息をついた。
「なんだべだ、これ……」
この悪酔いが私の運命を大きく変える出来事となるとは、私は思いもしなかった。
読んでいただきありがとうございます!
酔っ払いが魔法少女になる話です。ブックマークしてくれるとモチベになります




